虹の橋を渡る猫
おいらは白い雄猫。
生まれてから3ヶ月で、ある会社の駐車場に捨てられた。
その後、飼い主になるママに拾われた。
車に乗せられて、ママの住んでいる一軒家に連れて行かれた。
どこに連れて行かれるのか不安だったが、家にはママのお父さんのおじいちゃんと先住猫が2匹住んでいた。
おじいちゃんは喜んでおいらを優しく抱っこしてくれた。
先住猫も歓迎してくれて、すぐに仲良くなれた。
同居する先住猫ジューはキジ白で、アメリカンショートヘアのクォーターだ。
9歳で身体の大きいおじいちゃん猫だ。
ジューは、おじいちゃんの奥さんのおばあちゃんが死んだ年に貰われてき
た。
とても食いしん坊で人間の食べ物が大好きだ。
もう1匹の猫は捨て猫だったが、他の人に拾われたのをママが貰ってきた。
7月に貰われてきたので名前は『ナナ』
おいらと同じく白い雄猫で、体が大きくオッドアイの目で容姿端麗、おっとりして包容力があるイケメン猫だ。
家猫になり、おいらの新しい名前が決まった。
6月に拾われたから『ロク』だ。
おいらが捨てられた理由は、目が変だからだ。
診察して猫ヘルペスだと分かったけど、治らないらしい。
でも、目は見えるようになったから平気だよ。
おいらが拾われてから、半年後におじいちゃんが死んだ。
可愛いがられていたから、悲しかったよ。
おじいちゃんが死んでからママは引っ越してアパート住まいとなり、おいら達も外には出られなくなった。
でも『ノビー』という仲間も増えた。
三毛猫の『ノビー』は捨てられていた雌猫で、まだ3ヶ月の赤ちゃんでおいら達のアイドルだ。
子猫なのでおてんばでおしゃべりが好きで、少しうるさいけど雌なので仕方ないと思っている。
キャットタワーもあるし、3階だから外もよく見えて快適に暮らしていたよ。
ジューは子育てが上手くて、孫のようなノビーとよく遊んでいる。
おいらは『ナナ』と気が合い、仲良しになった。
同じ白猫で年も一つ違い、尻尾も長く見かけも兄弟のように似ている。
ここに来た子猫の時には、母親がわりに面倒を見てくれた、頼りになる兄貴のような存在だ。
チビで我儘でやんちゃで気が強く、甘ったれなおいらとは正反対だ。
でも、ナナはそんなおいらを弟のように可愛がってくれる、いいやつだよ。
そんなナナはママのお気に入りだから、少し嫉妬をして何回かマウンティングをする意地悪をした。
でもこれはナナが大好きで、甘えている証拠なんだ。
おいらは、ナナといると凄く安心するんだ。
寝姿もシンクロしているし、餌を食べる姿も同じ格好だよ。
「まるで双子みたい」だと、ママがよく笑っている。
そうさ、おいら達2匹は義兄弟の契りも交わしていて、ママには悪いけどナナの方が好きなのさ。
6年間はみんな平穏に暮らしてきたけど、ナナが痩せ始めた。
ナナは前から病気がちで、心臓が悪かった。
心臓病の薬の副作用で緑内障や白内障になり、痩せたりまた戻ったりしたので、いつもの事だと思ったが今回は違った。
痩せたナナの体は、腎臓癌に蝕まれていた。
以前からナナはお腹に腫瘍があった。
心臓が悪いので、開腹手術は死の危険があるのでママは断っていたのだ。
ママは後悔したが、今ではもう手遅れだ。
ナナはどんどん痩せて小さくなり、餌も食べなくなった。
おいらはナナが心配でいつもそばにいた。
なんとか元気になって欲しかった。
苦しそうに寝ているナナに話しかけた。
「ナナ、頑張れよ」
「ありがとうよ。励ましてもらって悪いが、今回はダメだな。ママには今まで、色々な病気になって迷惑ばっかりかけてきた。お金もいっぱい使わせたし、もうママを解放してあげる時期かもしれない。でも、みんなと暮らせて楽しかったし、幸せだった。ロク、後の事は頼んだよ」
「ナナ、おいらも一緒に行くよ、兄弟だろう。おじいちゃんが死んだ時に、おいら達は一緒に虹の橋を渡るって約束しただろう」
「虹の橋?」
「そうだよ、おいら達はおじいちゃんのペットとして拾われて来たから、死んだらすぐに虹の橋を渡って天国に行けるんだよ」
「じゃあ、先に渡らせてもらうよ。どうやらおじいちゃんが迎えに来たみたいだ。後のことは頼むよ」
ナナは尻尾を横に振って目を閉じて、息をしなくなった。
ナナの死は、みんなを悲しくさせた。
特にママは後悔で毎日泣いていた。
おいらも淋しすぎて仲間ロスになり、ナナのところに行こうと決心した。
それからは、食事も水も取らずに過ごした。
ママは悲しさのあまり見過ごしていたが、おいらが痩せたことに気がついた。
すぐにおいらは病院に連れて行かれて、点滴をされて翌日検査となった。
その夜は苦しくて、肩で息をしながらママのそばで眠った。
翌日おいらは、ママに甘えるようにテーブルの上で横になった。
「ニャー」と水を催促して飲み横になった。
ママ、今までありがとう。
「元気になってよかった、今晩は病院に行くわよ」
ママは元気になったおいらを見て安心したらしく、買い物に出かけた。
その後おいらは、台所のシンクの中で横たわったまま、動けなくなった。
帰ってきたママは突然の出来事に、ショックで泣くこともできずにいた。
それから、ナナと同じように祭壇を用意し、お通夜をして翌日に火葬のために斎場に向かった。
そこでの説明はナナの時と同じだったが、ママはあることにに気がついた。
「動物霊園には26日締めの奇数月に搬送になります」
ママは絶句して、涙を流した。
なぜってナナが死んだのは3月2日、おいらは3月24日だ。
そうだよ、おいらはナナと一緒の車に乗って動物霊園に行き、虹の橋を渡るのさ。
火葬されたおいらは、霊園行きの車に乗りナナと再会した。
「ロクどうして来たのさ、ママやみんなを頼んだ筈だろ」
「大丈夫、ママにはジューとノビーがいるよ。ナナ、一緒に虹の橋を渡ろう」
「そのために、ここにきたのか?!」
「そうだよ。だって、死んだおじいちゃんが言っていたじゃないか!ペットは先に死ぬから、虹の橋で飼い主を待つ。でも、おいら達はおじいちゃんのペットだから、すぐに虹の橋を渡っておじいちゃんのいる天国へ行けるよ。おいらも、ナナと一緒に行くよ!」
「仕方ないな!」
そう言うと、ナナはおいらの頭をなめた。
やがて車は動物霊園に到着して、骨は共同の墓地に納骨された。
その先は『虹の橋』だ。
そこから、飼い主に先立たれたペット達は、別の乗り物に乗った。
乗り物の行き先は『天国』だ。
一緒の車に乗ってきて、虹の橋を渡れない猫達は「元気でいろよ。また会おうぜ」と見送ってくれた。
ジェットコースターに見える乗り物は、ゆっくりと橋を上り始めた。
『虹の橋』は高くなかなか頂上にたどり着かなかったが、振り返ると皆が小さく見えた。
やっと頂上に着くと天国が見えた。
そこには、死んだおじちゃんとおばあちゃんが手を振っておいら達を待っていた。
その隣には何匹かの先住猫達が見えた。
やがて、乗り物は『虹の橋』の下りを一気に降り始め、どんどんスピードを上げて行き天国へと到着した。
おいら達は乗り物を降りて、おじいちゃんをめがけて全速力で駆け出した。