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OLD JOEが呼び覚ますロック原体験
OLD JOEのライブを観て解消された疑問や疑念━━河西洋介(YONCE)にききたかったこと
約5年半ぶりに生(ライブ)で見た河西洋介(以下、YONCE)の風貌はずいぶん変わっていた。もちろん良い意味で。ラフに伸ばした髪の毛、日に焼けて少し髭を蓄えた顔つきはナチュラルで無骨な雰囲気だ。
10月28日、会場は大阪・心斎橋JANUS。
Suchmosのライブは過去に数回観たことがあるが、OLD JOEはこの日が初体験だった。━━と、ここからよくあるライブレポートを書き綴るわけではない。正直なところ、OLD JOEに関しては、“Suchmos以前にYONCEがやっていたバンド”というほどの知識しかなかったのだが、今年になって10年ぶりに新作EP『Dessssert』がリリースされたことに驚かされた。YONCEの活動としては、昨年から始動したHedigan'sがあり、さらには今年になってSuchmosの再始動までもが発表されて心拍数は上がる一方だったが…。なぜ今この時期に? こんなに同時期に複数のバンド活動を並行させて大丈夫なの? OLD JOEって何なんだ? できることなら直接訊いてみたい!と、インタビュアー心をモーレツにそそられつつ、SNSや各媒体を通してその動きを追っていたのだった。
ライターとして、YONCEに対面したことは過去2回ある。一度目は2016年頃にSuchmosへのインタビューで、2度目は2019年にSuchmosのツアーで神戸(ワールド記念ホール)にきた時だ。冒頭に約5年ぶりに…と書いたのは、この2019年の神戸のライブ後に伺った楽屋挨拶以来ということになる。あの時の彼のなんとも言えない表情がずっと心に残っていた。2016年に会ったときはまさに上り調子で生気と自信がみなぎっているように感じたが、2019年の時はライブ直後だったからかもしれないが、ただの疲労感だけではない脱力感を漂わせていた(少なくとも私はそう感じた)。当時のYONCEはどんな心境だったのか? そのことをずっと訊いてみたいと思っていた。その後、2020年には未曾有のコロナ禍に突入し、2021年にはSuchmosが活動休止を表明、さらに同年、SuchmosのメンバーHSUの急逝…。YONCE自身にとっては一言では語れないほど大変な時期を経てきたに違いない……などと、10月28日の心斎橋JANUSのライブが開演するまで、しばしこれまでのことを振り返っていたのだが、OLD JOEのボーカルとしてステージ上に現れたYONCEを見て、それまで抱いてきた疑問や疑念(なぜ今? 複数の活動を並行して大丈夫なのか?など)はあっさりと解消された。なぜなら、彼は前よりずっと生気に満ちてとても幸せそうだったから。
5年ぶりの新宿LOFTワンマンライブに至るドキュメンタリー『Stay Old』(制作:F.A.H.M_studio/エフスタ)から伝わってきたこと
OLD JOEは今年6月に新宿LOFTで5年ぶりのワンマンライブを行った。そこに至るまでのメンバーが見せる自然体の会話や発言、ライブ前の臨場感に満ちた空気が伝わってくるドキュメンタリー『Stay Old』(制作:F.A.H.M_studio/エフスタ)がYouTubeで公開されている。その中でOLD JOEのライブに関して、メンバーが下記のようなコメントをしていたのが印象的だ。
「のびのびやっている。アドリブ要素が強いバンドだから、ギターソロも毎回違うし…」(真田徹)
「同じフレーズなんか2度と弾けないし、けっこう毎回すごいトランス状態に入る」(カメヤマケンシロウ)
「(新宿LOFTでのライブを前にして)今日はあっという間だなと思いたくない。全部覚えていたい。音楽を演奏していればいいという贅沢な時間を優雅に過ごします」(大内岳)
━━10月28日のJANUSのライブを観て彼らの言葉の意味がよくわかった。
OLD JOEの楽曲にはSuchmosのようなDJや鍵盤の音は存在しないし、アシッドジャズやHIPHOP、シティポップ的な要素は皆無。音楽的にはギター/ベース/ドラムというシンプルな構成で原始的ともいえるロックのダイナミズムがあり、1960~70年代の英米ロックバンド(*なんとなく頭に浮かぶのはクリーム、フリー、グランド・ファンク・レイルロード、etc.)のようなブルースやソウル、ファンクの滋養が滲み出ている。とはいえ、ただの懐古趣味、オールドロック同好会的なバンドではない。何より大事なことは、YONCEにとってOLD JOEはバンドの原点であり、彼自身の音楽とバンドへの向き合い方を再確認できる最良の居場所ってことなんだろう。
JANUSでのライブ中、「掃き溜めでラブソングを歌ってみよう」というフレーズから始まる『Lover Soul』を聴いていて思わず涙腺がゆるんだ…。そこがどれだけどん詰まりの状況であったとしても、涙を拭って、また起き上がらせてくれるソウルフルなバラード。また、「いま心が折れて 深い闇の中にいたって また何度でも歩き出せるさ」と歌ってギアを上げていく『Shot』の痛快なロックンロールにも救われる。
“OLDJOEって何なんだ?” という自分自身が抱いていた疑問への解答。はい!それは<ロックの原体験>である。そこで味わったのはただただ無になって、自由なロックバンドのグルーヴに身を任せる快感だった。フロアにギッシリと詰まった観客のひとりとしてそう感じた。流行り廃りを超越するバンドのグルーヴ。潔くシンプルで縦横無尽な四者のせめぎあいが生み出すバンドの熱はあらゆるネガティブな邪念を一掃して、体中のパワーを増幅させる。ああこんなにハッピーな瞬間はいつ以来だろう…って感じるほどに。
前述したドキュメンタリー内でYONCEは現在の心境として、“ガキの頃の理想よりもっといい理想の場所に辿り着けた感じかな” と話していた。“ガキの頃の理想”(夢)について、“中学生の時は20歳くらいでバカ売れして5人くらいグルーピーギャルを連れて酒池肉林みたいな~”と言っていたのも笑えるが、その後に“音楽にのめり込んでいけばいくほど、それよりもっと楽しいことを知った。音楽作ってその美しい景色を見るとか、みんなでバンドでバーンとやった時にたまらない全能感があり、俺たちは今無敵だ!と感じるほうがよっぽど幸せなことだということを知ってしまった”と発言している。それこそがYONCEがたどり着いた“理想の場所”なのだ。
ちなみに、EP『Dessssert』(*トップの写真は左から〜歌詞カード、CD盤、ジャケット表)の表題にはどんな想いが込められているのだろう? 英語でdesertは砂漠を。dessertはいわゆる甘いもの(スウィーツや果物)を意味する。EP『Dessssert』の4つある<S>は、メンバー4人を表しているようにも思えるが…。砂漠のような不毛な場所を潤すために? あるいは、そこに命(魂)を捧げるようなロックミュージックということなのか? CD盤のアートワーク(ジャケット&歌詞カード)を眺めつつ、そんなことを想像してみたりした。
現在、YONCEにはHedigan'sの活動があり、2025年にはSuchmosの復活ライブが控えている。次にOLD JOEのライブが観られるのはいつになるだろう?
JANUSの夜、「いついつとは言えないけど、100年後くらいに(笑)」「4、5年に一回くらいとはいわず、またやる?」「なんかのきっかけがあればやる」━━ステージ上のメンバーは口々にそんなふうに話していた。Suchmosも観たいし、Hedigan'sも観たいけど、OLD JOEはまた会いたい…と感じるバンドだった。たぶん、あのバンドの剥き出しの人力ロックパワーがそう感じさせるんだろうな…。一度解散しているが、復活もする。ルーティン化したバンド活動ではなく、こんな自由なスタンスだからこそ生まれてくる純正ロックサウンドが現存することが何より嬉しい。
━━砂漠のように、心が渇いたときにはまた潤してほしい。ロックの魂を揺り起こしてほしい。
サンキュー!OLD JOE、また会おう。
文/エイミー野中
OLD JOE
2008年に結成された湘南のロックバンド。メンバーは、河西 洋介(Vocal)、真田 徹(Guitar)、カメヤマ ケンシロウ(Bass)、大内 岳(Drums)。2015年に解散しているが、2019年に下北沢GARAGEで一夜限りの復活ライブを開催。そして、2024年6月、10年ぶりとなる新作EP『Dessssert』をリリース。同月、歌舞伎町移転25周年を迎えた新宿LOFTで5年ぶりのワンマンライブを開催。さらに、10月には再び新宿LOFTと大阪・心斎橋JANUSでライブが開催された。
エイミー野中
Writer / Interviewer
1960年代後半に生まれる。19歳の時に稚拙ながらも初めて自力でメディアを作り、初インタビューはローザ・ルクセンブルグ(京都出身のロックバンド)。20代前半に勤務したタウン誌で、取材/編集/撮影などの荒技を身につける。20代後半に関西のアルバイト情報誌(an)の伝説的な企画編集部で音楽記事を任されて数多くのアーティストやミュージシャンにインタビュー。その後、フリーランスのライターとなって、各情報誌/一般誌/WEBメディアなどに音楽やエンタメ、その他さまざまな記事やライブレポートなどを寄稿。聴(訊)きたい!知りたい!伝えたい!というミーハー心とマニアックな好奇心からインタビューやライティングに励み、時々疲れて怠けたり、逃避したりしつつ…現在に至る。というわけで、<PROP. xyzα+>はある意味人生2度目のメディア立ち上げとなる。