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吾輩は猫族である(2)

また、世の中が穏やかでゆるやかだった頃、
外出のとき、玄関の鍵なんて閉めない文化があった頃のこと。
まだ、エアコンなんて、なかった頃のこと。

用事を済ませて家に戻ると、外まで焼き魚のいい香りが漂っていた。
「ただいま」と、家のどこがにいる伯母に向かって告げながら、台所まで行くと、
そこには魚焼きグリルを置いているテーブルに身を伸ばし、前足をテーブルに乗せて、こちらを見る猫がいた。

さすがにグリルの蓋は熱くて開けられない猫。
この猫、野良である。
逃げるでもなく、私に顔を向けて、
(ねえ、これ開けてくれない?!)的な表情で私をみつめる。

「君はどこの子?、ダメよ、いてもあげないよ」というと、
(そうなの?)と前足を下ろして、とぼとぼと玄関に向かって歩いていく。
ちらっとこちらを振り向きながら(だめ?)と。
「あげません」と繰り返しと、諦めて帰っていった。

まだゆるやかに時間が流れていた頃のこと。


香坂 秋

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