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【生成小説】紡ぐ

パソコンの画面に向かいながら、ふと目を閉じると、あの頃の記憶が蘇ってくる。

大学2年生の春。突然訪れた人生の転機。「指揮者をやってみないか」という言葉に、私は驚きと戸惑いを隠せなかった。人前で話すことさえ苦手で、目立つことを避けてきた私に、なぜそんな重責が?

でも、合唱が好きだった。様々な声が重なり合い、一つの音楽を作り上げていく瞬間が、心から好きだった。その思いだけで、「やってみます」と答えていた。

最初は本当に手探りだった。でも、一人一人の声に耳を傾け始めたとき、新しい発見があった。伸びやかなソプラノ、温かいアルト、力強いテノール、重厚なバス。それぞれの声には、かけがえのない魅力があった。

個性を活かすことは、決して全体の調和を崩すことではない。むしろ、一人一人の持ち味が集まることで、より豊かな響きが生まれる。その気づきは、私の人生を変えた。

あれから10年。今はIT企業でプログラマーとして、新しい「ハーモニー」を奏でている。画面の見た目を考える人、データの処理を考える人、システム全体を支える人。それぞれが得意分野を持ち寄って、一つのものを作り上げていく。

丁寧にコードを書く人、新しいアイデアを提案する人、チームを支える人。時には意見を交わし、時には互いの知恵を出し合う。そんな日々の中で、私は指揮者として学んだことを思い出す。

好きなことを仕事にできる幸せ。でも、それ以上に嬉しいのは、個性豊かな仲間たちと何かを作り上げていける喜びだ。

技術は日々進化し、使うツールは変わっていく。でも、仕事の本質は変わらない。誰もが持っている個性を見つけ、認め、活かすこと。そして、その違いを調和させながら一つのものを作り上げる楽しさ。

それは今も私の原動力だ。明日もまた、新しい「何か」を作るために。仲間たちと共に、一歩ずつ前へ。

パソコンの画面に映る文字たちを見つめながら、私は密かに微笑む。このチームで良かった。この仕事に出会えて良かった。そう思える幸せを、心に抱きしめている。

(終)

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