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《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

《この世のほかの》原作:和泉式部
 
「Ki~nnto~(公任)」
……あかん、ウチもう黄泉帰りしそうや
あんたはもてるさかい、今もどこかできれいな娘と一緒やろな……。
彼岸でも、もう二度と会えんでもええから
明日のウチの命日には必ず来てな、Ki~nnto~。

<承前> 
 定家は式子を抱きかかえたまま池から出て、庭の玉石を踏んだ。しずく
がポタポタと定家の夏の直衣からしたたり落ちた。塗れて肌に張り付いた衣を透かして式子の白桃色の乳房を月明かりが照らす。乳首が固く凝って衣を突き破らんばかりにみえた。
 ぐったりとした式子が眼を閉じたまま喘ぐようにつぶやく。  
「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの あふこともがな」
……私はきっともうすぐ死んでしまいましょう。この世にいなくなるのです。あの世にいった後でも、この世に生きていた時の思い出に、もう一度定家様にお会いしたかった……。今、式子は幸せにございます。
 式子は夢を見ていた。
<後続>

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