《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~
《YINA》原作:大弐三位
風が吹けば、ウチの心は笹原のようにざわめく。
それは貴方の呼ぶ声が聞こえる時。YINA,YINA……と。
ウチは風の中から思い出を両手ですくい上げ水晶のようなそれをみつめる。
けど、瞬きのうちに、それは朽ち果てて、冷めた時の盗人に奪われてしもた。
YINA、それは悲しみにくれる女の名前。
<承前>
几帳脇に置かれた麻の布巻を見ると式子は濡れた紅袴の緒をほどき、静かに脱ぎ捨てる。そして、白小袖を身体からさらりと滑らせた。灯明の明かりが几帳の向こうに式子の裸体を陰影深く浮かび上がらせる。乳房が揺れ、臍のくぼみが見えた。定家は息を飲む。美の化身が几帳を隔てて蠢いていた。
そんな定家の前で式子は麻の布を手に取ると濡れぼそった黒髪の雫を拭き上げ、裸体に布を這わせた。天竺の神が世界を創る、その律動にも似た動きを式子はしてみせる。くねくねと腕を泳がせ、乳首を尖らせ、放漫な胸の膨らみを揉みしだいてみせた。腰を捩じり、桃尻を剥いてみせる。秘めやかな谷間が一瞬のぞけた。怪しく誘う眼差しを定家に浴びせかけながら、両足を大きく開き緩やかに上下に律動させ、指を秘奥の谷に埋めてみせる。
「有馬山 猪名( YINA)の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする」
「式子様、どうしてあなたを忘れたりするも のですか」
定家は几帳ににじり寄った。
<後続>
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