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《八重ちゃん、満開!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十一の歌~

《八重ちゃん、満開!》原作:伊勢大輔
♪さくら、さくら、やよひの空はくまなく晴れて……♪
天平の羽衣を身にまとった八重ちゃんは風の中を泳ぐように歌う。
「……けど、それって時代ちゃうんとちゃう?」
遷都1300年。観光客向けの貸衣装。
「エエねん。お空はきれいで、風はすてきやし、服はふわふわ。うち、幸せや!」
紫野生まれの八重ちゃは一人自信たっぷりに頷く。
「せやな、幸せが一番や!八重ちゃん、満開!」
(注)ちゃんうんとちゃう?=違うのと違いますか?

<承前六十の歌>
定家は式子の言葉にうろたえた。式子は投げ出していた両足首を几帳の内に戻す。
「定家様、お着物が水に濡れておられまする。お脱ぎになっては……」
「いや、それは……」
定家は元居た敷物の上に戻りながら尻込みする。
「式子は何も纏っておりませぬ。なのに、定家様は同じようになされるのを嫌がられておられる。いくじなしでございます」
「いにしへの 奈良の都の 八重桜今日九重に にほひぬるかな」
定家は几帳の影になった式子を見遣った。
「式子は本当にそのように美しいでしょうか? そう思召すなら、定家様も式子のように美しく花咲かせてくださいませ」
<後続六十二の歌>      


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