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カタールワールドカップ、決勝のPK戦

ワールドカップカタール大会から1年が過ぎたが、未だに余韻に浸っている。
それまでほとんどサッカーを理解していなかったというのに、あれ以来毎日のようにサッカーの記事を読んだりAbemaの無料中継を観たりして過ごしている。私にとってサッカーが新しい趣味の一つになろうとは。驚きつつも新しい楽しみを与えてくれたワールドカップには感謝しかない。

というわけで、ワールドカップの決勝戦とアルゼンチン代表について書きたかったのだが、どうにも気持ちがまとまらず(まだ)、今回は冷静にプレーについて、それもPK戦について書きたいと思う。
(予め申し上げておくが、私はサッカーについて詳しくない)

ワールドカップの決勝のPK戦という、途轍もなく大きなテーマについて素人が論じるのは少々憚られるのだが、それでもどうしても語りたくなってしまったのだから許して欲しい。ワールドカップの決勝戦において、何と言っても結果的にアルゼンチン代表が優勝を決めたのはあのPK戦だったわけだから。


前置きが長くなり過ぎてしまったが、決勝戦におけるアルゼンチンのPK戦の結果をあらためて記載しておきたい。

メッシ◯
ディバラ◯
パレデス◯
モンティエル◯

周知のとおりであるが、アルゼンチン代表は全員がゴールを決めた。
次に準々決勝オランダ戦のPK戦も振り返っておきたい。

メッシ○
パレデス○
モンティエル○
エンソ・フェルナンデス×
ラウタロ・マルティネス○

アルゼンチン代表は2度のPK戦を、この成績で制することができたわけだが、私が検証したいのはキッカーの選出についてである。

この2回のPK戦、キッカーが重複しているのはすぐにわかった。
決勝のフランス戦も、5人目のキッカーはラウタロの予定だったと最近のインタビュー記事で判明したので、重複しなかったのはフランス戦2人目のディバラと、オランダ戦4人目のエンソだけだ。そうなると、PK戦のキッカーは事前にある程度決められていたと思われる。
(メッシが常に1人目のキッカーを務めるのは、その立場上必然だと思われるので、今回の検証からは外しておく)
PKのキッカーがある程度事前に決められていたのは、そこまで不思議なことではないだろう。経験値や実績、得意不得意があるだろうから、より成功率の高いと考えられる選手を選ぶのは当然のことだ。
最初に浮かんだ疑問は、キッカーのほとんどが、というよりメッシとエンソ以外が、途中出場の点である。
いやなに、疲労の少ない途中出場のキッカーの方が成功率が高くなるだろう、と言われればその通りなのだが、ではスカローニ監督は、PK戦まで考慮して選手を起用したのだろうか。PKが得意な選手はスタメンから外そうと。私の疑問はこの点だった。

まずPK戦のキッカーを調べることにした。確かにPKを苦手にしていないと考えられる選手達であった。
決勝戦最後の交代枠で出てきたディバラは、所属のASローマでもPKを任されている。成功率も高く、Footy Stats(サッカーのスタッツを記したサイト)によると33/36というとんでもなく高い数字があがっている。最後の交代枠でピッチに出てきた時、解説の本田圭佑氏が
「PK蹴らすんでしょ」
と言っていたが、根拠のある数字だ。

2度のPK戦を成功したパレデスは、コパアメリカでもPK戦で成功をおさめていた。
所属クラブでの実績はなさそうだが、セットプレーでキッカーを務める姿はよく目にするので、キックの精度は高いと思われる(単にポジションの問題であったら私の不勉強だ)。先日も、所属のASローマでディバラ不在のなかPKを任され、決めている。
同じく2度のPK戦を戦い、ワールドカップを終わりにしたモンティエルは、その後のEリーグでもPK戦でセビージャに優勝をもたらした。それにしてもPKを献上し、PK戦を招いた本人が最後にPKを決めたり、同じシーズンに2度も決勝戦のPK戦で優勝を決めるとは。クラブでの実績はパレデス同様あまりなさそうだが、PKに定評があると言及した記事があったので載せておく。


ラウタロはStatsはあまり高くはないようだが、キッカーを務めた回数は多い。オランダ戦での成功は決勝戦で選ばれる理由になるのだろうか。今季もPKを任され決めた試合はあるが、所属するインテルのPKキッカー1番手はチャルハノールだ。少し説得力には欠ける気がするが、それ故に5人目なのか。
オランダ戦で外してしまったエンソも、PK自体には定評があるようだ。先日も所属のチェルシーでPKキッカーを務め、見事に決めていた。
然しながらオランダ戦では枠の左外に外してしまったので、やはりPK戦は途中出場の選手が有利適しているという根拠になるかもしれない。

さて、オランダ戦についてはエンソではなく、ディ・マリアに蹴らせる選択はなかったのか、という疑問は残るが(決して苦手な選手ではないはずだが、負傷明けでコンディションは万全ではなかったかもしれない)、PK巧者をベンチに残しておく、というのがスカローニ監督の戦術だったかどうかをあらためて考えてみる。

先に私の結論、という憶測を述べてしまうと
・PK戦を想定してキッカーをベンチに残したわけではない
・PK戦は途中出場の選手が蹴る方がよいと考えていた
スカローに監督の采配は、この2点だったと考えてる。

それには、この大会におけるアルゼンチン代表の動きを、初戦から辿る必要があった。
まずこの大会でアルゼンチンは、初戦のサウジアラビア戦を落としたわけだが(FIFAランク上では、最も簡単に勝てるはずだった)、その初戦のスタメンはラウタロであり、パレデスであった。彼らは残念ながら初戦とそれ以降の結果ゆえにスタメンの機会を失っていったと考えるのが自然ではないか。決勝戦のスタメンであったエンソもマクアリスタ(彼の名を最も的確にカタカナで表すのはどれだろう)もアルバレスも、サウジアラビア戦はスタメンではなかった。彼らは大会を通してスタメンに定着したのである。
ではラウタロやパレデスがスタメンから落ちたことが、幸運にもPK戦での勝利をもたらしたのかと問われれば、必ずしもそうではない。もし彼らが決勝戦までスタメンの選手で、PK戦は途中交代の選手に譲る形だとしても、交代で出場するのはマクアリスタをはじめクラブでPKを任される選手達なのだ。ブライトンでPKを任され決め続けたマクアリスタが、ワールドカップでは一度も蹴っていない。この層の厚さ、PK戦という引き分けの試合から無理やり勝者を選ぶこじつけのような勝利の決め方でも、勝ち抜ける強さがアルゼンチン代表の強さだったのではないか。例えば欧州クラブに所属する日本代表で、PKを任される選手がいないことと比較すれば。
(おそらく鎌田大地と上田綺世ぐらいではなかろうか)

最後の交代枠でPKのキッカーとしてディバラが起用されたのは、明確に他のチームと違い、そして象徴的なことだった。結果的にディバラはエミリアーノマルティネスの助言に従い、ど真ん中にグラウンダーのシュートをやや危なっかしく決めたが、助言がなくともその実績から、決めきれる能力を有していたと考えることができる。
(解説の本田はグラウンダーのボールはキーパーの脚が残る可能性を指摘し批判的ではあったが)
一方で、オランダ、フランス、そして日本も最後の交代枠で出場した選手はPKを蹴らなかった。日本代表はPK戦で敗れたクロアチア戦、最後の交代枠で守田英正に代えて田中碧を投入したが、体力的に1番余裕のあったはずの田中にPKを蹴らせる選択はしなかった(日本代表のPKキッカーが選手達によって決められた賛否両論は周知の通りかと)。元日本代表のトルシエ監督は、ジルーやグリーズマンがPKを蹴っていれば別の結果になった可能性に言及していたが、結果的にはジルーやグリーズマンを下げたことで同点に追いついたフランス代表に、PK戦を考慮した選手起用ができる余裕なんてなかったのだろう。

というわけでアルゼンチン代表のPKキッカーは、大会を通じて徐々に固定化されていった「スタメンor途中出場」という選手起用によって決まっていったものであると考えられる。もちろんPK戦になった場合と、その際の成功率を高める選手を試合途中から起用するようにしていた可能性はあるが、PKのキッカーを意図的にベンチに温存していたわけではないだろう。然し結果的には、PK戦を勝ち抜いたことでアルゼンチンはトロフィーを手にしたわけだから、あの決勝戦でPKを蹴ることになり、そして決めきった選手達が、いかにしてあの場と結果にたどり着いたかを考えることは、極めて重要なことなのだと思う。

さて、FIFAの公式YouTubeチャンネルには、決勝戦のPK戦がノーカットでアップされている。もしこの記事を読んで、興味を持つ方がいれば、是非ご覧になっていただきたい。なお、私は情けないことに、PK戦をリアルタイムで正視することができず、どんな結果でも受け入れようと意を決して画面に目をやると、ディバラが決めてアルゼンチンがリードしたところだった。あの時間を取り戻すように、何度も動画を観ることになっている。


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