超短編「満月の夜のトラ🐯」
密猟者に狙われたトラは !
これは アンリ・ルソーの絵画から思いついた物語です。ファンタジーなジャングルの姿を物語にしました。
私は気に入ってますが、感想をきいたことがない作品です。
…… ……
🔶「満月の夜のトラ」
トラは、あの声が好きだった。
彼らのお喋りを聞くのも楽しかった。
だが、彼らは、危機管理能力が長けていた。
身の危険がせまると、すぐさま黙り込み、姿を消す。
雨の前には、必ず誰かしらが遠くに響くように長く鳴く。そして、お喋りがぴたりと止む。
だから、彼らのお喋りを聞くには、こちらが身をひそめることだった。トラは、自分が彼らにとって怖い存在だと自覚していたので、知らんぷりの無関心を装った。ある日、木の上が騒がしかった。
どうも、生まれたばかりのヒナが巣から落ちたらしい。母親らしき鳥は、頻繁に巣から出たり入ったりしていた。
夜になり暗くなった。トラは、水を飲みに行こうと川に向かった。
林を抜け川辺につくと月明かりの下にもぞもぞと動くものを見つけた。
小さなヒナが動いていた。
彼らの巣からは、ここはかなり遠い。
おそらく、大きな猛禽類か何かにさらわれたものの、途中で落とされてしまったのではなかろうか。
それにしても、この小さな体が、空中から落下しても生きている強運に、トラは、「この命を生かしてやろう」と思った。
つぶれないように咥え、彼らの目につきそうな場所まで運んで行ってあげよう。
口の中で何やらもぞもぞと動く小さな命に、トラは笑いそうになったが我慢して運んで行った。
「ここらへんでいいだろう・・・」
巣の真下に近い場所に、ヒナを置いた。
「さて、帰ろう」
帰り道、マタタビの実を見つけた。
気をよくしたトラは、マタタビの実を口に入れると、さらに上機嫌になった。
もう少し後にすれば良かった・・・・。
暗がりの中、3人の男たちが、のろのろと歩くトラを見つけ、網を放った。
トラは訳のわからないうちに、袋に入れられ、トラックに乗せられてしまった。
・・・・・今日はラッキーだったぜ。こんなに簡単に捕まえられるとはね。
しかも、こいつの毛皮、綺麗だぜ、高く売れるぞ、犬歯も立派だ・・・・・・
そう、このトラは、気は優しいけれど、喧嘩に強く負けたことがありませんでした。