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20221217 明晰
悪夢を見ました。悪趣味な人間に執拗に追いかけられる夢です。その夢の中で私は、ついに彼から逃げられなくなり、行き止まりの暗い部屋の中でわなわな震えている。しかし、ここで思わぬ事態が発生した。つまり、私が、私の状況を俯瞰して、「有り得ない」と断定してしまったのです。夢は往々にして非現実的であり、当然その風景を理性的な目で客観視すれば、結果、夢の世界は砂の城のように脆くも崩れ去ってしまうものです。この俯瞰によって、彼と私の力関係は大きく逆転し、私は夢世界の支配人として彼を暗い部屋の中に閉じ込め鍵を閉め、そして現実世界にて目を覚ましました。
このような逆転は、年々その頻度が高まっているような感覚があります。これは明らかに、私の世界と夢の世界の間の均衡が破られているのです。昔は、夢の世界の出来事は私にとって、現実と同じくらいの効き目を確かに持っていました。家族と二度と会えなくなる夢を見て起きた後はぼろぼろ泣いていたし、思い出を夢に見ればその時に戻りたいとほんとうに願っていた。いつから私は夢を信じなくなったのでしょう。悲しみや恐怖に対する、ある種の防衛本能が次第に私をそうさせたのでしょうか。
思えば私は、現実世界においても長らく、深い悲しみや心からの恐怖に出会っていない気がします。これは非常に寂しいことです。きっとこのまま放っておけば、私の感受性はいつか完全に擦り切れてしまうでしょう。自分を守ろうとするあまり負の方向に感情が揺るがない、つまらない人間になってしまうのです。これは非常に悲しく、かつ本当に恐るべき事態です。
ともすれば彼は、執拗に私を追いかけてきた悪夢の住人は、私にこの危機を警告し、また恐怖を思い出させるために現れてくれたのかもしれません。行き止まりの暗い部屋は、記憶の片隅で整理されゆく彼にとって最後の空間なのです。悲しい話です。私は、何かが完全に消え去ってしまう前に、もう一度あの悪夢を見なければ。そして、それに対峙する瞬間まで、目を瞑っていなくては。
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