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季節のない世界ー透.2

主な登場人物

まい(主人公):38歳バツイチ、フリーライター。北海道在住。リアルな人付き合いは大の苦手だが人当たりはとてもいい。ネットの出会いからリアルへの発展を望まない一方で、自分の完全な理解者が欲しいと願うアンバランスなメンタルの持ち主。

:30歳、大手メーカー勤務、男性。大阪在住。「まっすぐ」という言葉がこれほど似合う人はいないと多くの人が思うほど、素直で誠実。まいを「大切な人」と言い支えるが、関係の発展は望んでいない。

https://note.com/gifted_ixora955/m/ma7f83ba4f00b

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「ねえ、まいさん」


「はい、なんでしょう?」

「まいさん、『Aqua Timez』って知ってる?」

「あーなんか昔、友達が好きで猛プッシュされたけど」

「うん」

「あんまはまんなくてwww」

「そういうこというなw」

「ごめんごめん」

「ええけど。ジェネギャかなー?」

「すぐ年寄り扱いすんなw」

「www」

人懐こくて素直で、無邪気な透は、よく私に自分の好きなものを教えてくれた。

残念ながら、透の言う通りジェネレーションギャップのせいか、わからないことも多くあったけれど、私の知らないことを楽しそうに教えてくれる透は、とてもかわいらしかった。

38歳と30歳。8つも年上の私を、透はよく子ども扱いしてからかう。どうしてそんなにいつもからかうのー!というと、きまってこう言うのだった。

「だって、まいさんいじめられるの好きやろ?喜ぶことしてあげてるだけやん」

初対面のときといい、こうしてやり取りしている今といい、透から好意を感じることは多くあった。ただそれが、どういった類のものなのかまでは判別できない。

透のことは私も好ましく思っていたけれど、若い将来のある子に対してバツイチの自分が本気になるのはどうなんだろうと、よくわからない思考で受け流すようにしている。

それでも透は、まるで子犬のようにすり寄って、オンラインでも一緒にできることを探しマメに誘ってくるのだった。

2023年1月2日 20:07

この直後に私はスプラトゥーンのダウンロード版を購入して、いつでもゲームができるようにしておいた。

Switchのフレンドになると、お互いにどんなゲームをどのくらいしているのかが見える。透は本当にスプラトゥーンが好きなようで、かなりやりこんでいることが履歴からわかった。

「まいさんの履歴、ほんとにマリカあって笑う。てか、ヨッシーwwww」

「ヨッシーおもろいやん!かわいいし!」

「まいさんぽいわw」

「ダウンロードおわったー!もう遊べるよ?」

「まじか、じゃぁさっそくやるか。やり方教えるわ。とりあえず通話つなごう」

DMのやり取りをスタートして、初めての通話だった。この間は二人で飲んだというのに、改めて通話するとなるとなぜか緊張する。

「まーいさん、はろはろ」

「おー声は久しぶりだね」

「うん、じゃぁ早速、スプラトゥーン立ち上げて。ほら、早く」

「はいはいwもう開いてるよー」

「じゃぁまず基本の操作からね」





30分ほどレクチャーを受けて、さっそくプレイ。やっぱり私はへたくそで、何かするたびに透がケタケタと笑う。

操作になれている透は難なく会話をしながらゲームを続けているが、私はと言えば、ゲームに夢中になれば無言になり、話に夢中になればゲームの中のキャラクターの動きが止まってしまう。

何戦かした後、疲れたので休憩を願い出ると、じゃぁ普通に話そうか、と透が提案してくれた。

透の低音の声はとても耳に心地よい。普通の話し声も、笑い声も、眠そうに甘える声も、私の体をふわふわの雲で包むような感覚に陥らせてくれる。

残りのお正月休みは何をしようか、明日はどんなお酒を飲もうか、男でも作れる簡単なおつまみはあるか。本当にどうでもいい話を延々としていると、気が付けば時計の針は深夜2時を指している。

「まーいさん、俺もう眠い…」

「奇遇だね、私ももう眠い」

「このまま寝ていい?寝落ち通話したい」

「うん、いいよ」

「俺いびきすごいんだけどさ、いいの?」

「べつにいいよw」

「じゃぁ、寝る準備してくるから、ちょっとまってね」

「わかった」




「おまたせ。じゃぁ、寝ようか。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

私は眠るのが得意ではない。
一度に眠れる時間はおおよそ2~3時間。寝つきも悪く、毎日深夜まで眠れないとうだうだしては、気づけば朝方になっていることが多い。

この日も、「おやすみ」といって1分かそこらで寝付いた透の寝息を聞きながら、どうせ眠れないだろうと思い仕事をしていた。

寝息……いや、確かに大きないびきだった。

呼吸に合わせて「ごぉ~」とか「がぁ~」とかいう透がかわいらしくて、しばらくそれを聞いていると、私にも自然な眠気が訪れた。

イヤホンを耳につけたまま、歯を磨いて顔を洗い、保湿してベッドに入る。

小声で透に「おやすみ」と言って、まだまだ続く大きないびきを聞きながら、私も眠りについた。

離婚してから誰かと夜をともにすることがなかった私は、久しぶりの人の気配にひどく安心した。

ひとりになってからというもの、恋愛自体をしたことがなかった。

恋愛は仕事の邪魔だと思っていたし、誰かと心や体を通わせるその時間は、いつか消える無駄なものだとさえ考えていた。

北海道と大阪という距離的な問題もあり、透ともなにか進展させる気もなく、ネットの友人同様の気持ちで接している。

ところが、北海道が春を迎える4ヶ月後、透との関係が大きく動き出す出来事が起こるのだった……。



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