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36歳。そろそろ東京がイヤになってきた
なんだか最近、遠くに行きたい。
遠くに行きたいというより、静かで広い場所をほっつき歩きたい。そんな気分に陥る日が多くなった。
東京に住んで17年。これはホームシックなんていうかわいい感情ではない。身体の細胞たちが『夜にスズムシの声が聞こえるような場所でウトウトしたい』と、渇望しているかんじだ。
すんごい誰得情報だが、わたしのふるさとは新一万円札の顔、渋沢栄一翁で大フィーバーが続く埼玉県の深谷市である。都内からは電車で2時間弱。平塚あたりで潮風をうけた湘南新宿ラインは、渋谷新宿の喧騒を抜けると、まだまだ涼しい顔で彩の国さいたまに飛び込んでいく。
だんだんと高いビルがなくなると上尾
大きな空が見えてくると北本
ちらほらと工場地帯が見えてくると籠原
家の数より畑が目立ってくれば深谷
深谷ではまろやかなネギの香りとほのかな牛小屋の香りを乗せ、電車は群馬へと走り去る。さぁ、ラストスパートだ。
深谷の夏は暑く、冬のからっ風『赤城おろし』は痛いほど冷たい。都心からそう離れていないのに、深谷弁の田舎くささはエグい。
しかし、夕焼けはどこから見てもエモい。夜も静かで、まぁまぁ星も見える。渋沢栄一フィーバーにあやかり、栄一グッズを爆誕させまくる商魂たくましい深谷市民。余談だが、わたしの知る深谷の男たちは、みんな揃って気前がいい。
あれ?わたしはなぜこの街を毛嫌いし、大急ぎで東京に出てきたんだっけ。赤城おろしから逃げたかったのだろうか。
結婚と出産をして、人生の主役が自分ではなくなったように感じる今日この頃、東京のメリットは微妙にフィットしなくなってきてしまった。
昔はワクワクしていた渋谷の都市開発も、今ではレストランでタブレットの注文がわからないお年寄りのような気分になる。便利が逆に不便みたいな。見ているだけでお腹いっぱいのような、そんな気分にさえなる。
きっと子供がいなかったら、今流行りの田舎暮らしってやつを検討していたと思う。検討して、ソッコーやめていたと思う。なぜなら、わたしには絶対に田舎に住めない理由があるから。
それは、田舎はわたしが病的に嫌いなニワトリを飼っている家がいる。文字にするのも本当にいやだ。
世田谷でヤツを飼育している家は見たことがない。この困った病は一生続くと思うので、わたしは東京にいるしかないのだ。
東京様。なんかわるいこと言ってごめんなさい。
フィットとかしらねーって感じですよね。これからもここに住ませてください。もう文句言いませんから。