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近所に新しい小学校ができて、私たちの地域ではみんなでその小学校に転校した。それまでは木造の校舎だったので、鉄筋コンクリートの新しい校舎は未来の建物のようだった。
通学の途中に、ちょっとした山を90度に削ったような崖があった。そこに洞窟のような穴が開いていた。みんな「ほらあな」と呼んでいたが、どうやら防空壕の名残だったらしい。危ないので絶対に入らないようにと言われていた。
小学校4年生の夏休み、親戚一同で父の実家、祖父母のところに遊びに行った。みんなで川に行き、大人たちは下流の方で釣りをして、子供たちは大人たちから見える距離の上流の河原で遊んでいた。
私は川の対岸まで行ってみたくなり、落差工とよばれる流れを緩くするための段差の所を歩いて渡ることにした。ちょうど真ん中辺に差し掛かった時に足場がつるっと滑って川底に落ちてしまった。小さな川だったのだが、段差工の下なので、滝つぼのように深くなっていた気がする。ドボンと落ちて、川底まで一気に沈み川底を蹴ってジャンプして水面に顔が出る。「たすけて!」と叫ぶが「たすブクブクブク」という感じで沈んでしまう。また川底に足がつきジャンプする。また「たすブクブクブク」という感じで沈んでしまう。それを3回まで繰り返した記憶がある。そのあとは夢の中に入ってしまい、気が付いたら岸であおむけに寝ていた。目を開けると大人たちも子供たちも全員が私を覗き込んでいる。みんな安心したようで、叔父さんが「大丈夫か?」と言い、別の叔父さんが「水を飲んだか?」と聞いてくる。「うん」と頷くとまた誰かが「バケツ一杯くらい飲んだか」と聞いてくる。また頷くとみんなが一斉に笑う。私もよくわからずに返事だけしていたのだが、実際にバケツ1杯くらい水を飲んだようなおなかの張り感があった。
後から聞いた話だが、一緒に遊んでいた子供たちの中の一人がたまたま近くにあった丸太かなにかを投げてくれて、それにつかまって助けられたらしい。
よく亡くなる瞬間には「走馬灯のように人生を振り返る」と聞くが、私が見た夢は違った。クラスで先生が教壇に立ち、私が亡くなったことをみんなに報告している夢だった。ものすごくリアルで、夢のような感じがぜんぜんしなかった。その夢から覚めた瞬間に目を開けたらみんなが覗き込んでいた。人生を振り返ろうにも、10年くらいでは振り返る過去もなかったのかもしれない。
そういえば小学校に入る前にも自宅のお風呂で溺れたことがある。何をしていたのかは覚えていないが、近所の子供たち数人で私の家で遊んでいて、私がお風呂場に行き、水の張ってある浴槽に手ぬぐいを落としてしまい、それを取ろうとして手を入れるのだが、つかめるつもりで手ぬぐいを追いかけてもなぜか届かず、そのうち体ごとドボンと落ちてしまった。そのまま仰向けにプカンと浮いていた。すぐに近所の子が来て助けてくれたが、小さいうちは溺れてバタバタしないものなのだろうか。
それとも私だけ特別だったのだろうか。
こうやって振り返ってみると、次から次にいろんなことを思い出してくる。
ついつい感慨にふけってしまう。こんな時間もいいもんだなぁと思う。