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記憶の魔女の引き出しの中

愛するシュネー、

 わたしは生き延びました。
 でも、村を出てしまうとどうしても考えてしまうの。
 シュネー、どうしてわたしを逃がしたりしたの。
 どうしてわたし、あなたを置いて逃げてしまったの。
 いいえ、わかっているわ。わたしたちが生き残るためには、わたしが逃げるしかなかったのよね。
 わかっているわ。わたしだけじゃ足りないってことも、わかっていたはずなのに。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 この村はユージア村というそうよ。
 村の人たちはいい人だけど、どこか変。
 保守的で閉鎖的とでもいうのかしら。なにか秘密を抱えているみたいだけど、わからない。よそ者なのだから、仕方のないことよね。

 この村にも聖堂があるけれど、わたしたちの生まれ育った村とは違う信仰があるみたい。
 女神ユージアを讃え、女神と同じ名前の花を儀式に使う不思議な信仰。
 ここは選ばれし者の楽園だと聖堂の人が言っていたわ。
 憂いのない村。思い悩み嘆くことのない村。
 皮肉なくらい、おあつらえむきね。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 わたしが生き延びて、わたしたちがここへ来たのは運命だったのかしら。
 憂いのない村は忘れたいことを全て忘れる村ということだったのね。
 今日、ユージアの花を使う村人を見たの。
 あの花の香りには記憶を曖昧にして、代わりにぼんやりとした多幸感を与える効果があるみたい。
 使い方は様々で、教会が主体になって花の加工をしているんですって。
 花を煮詰めてシロップにしたり、香水を作ったりして、聖堂に来た村人に与えているそう。
 でも、様子を見ている限り、シロップも香水も、効果は長く続かないのね。
 花の生産量が減って気軽に使えないせいだと嘆いている人がいたわ。だからよそ者に与える分はない、ですって。
 わたしには忘れたくなるような辛いことはないから大丈夫と言ったら驚いた顔と苦々しい顔をしていたわ。
 でも、シュネー、あなたがいないのは寂しいけれど、わたしたちはわたしたちだもの。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 これまで村で暮らしてきてわかったことがあるわ。
 彼らは「憂いなき村」「楽園の村」の住人としての自負が強く、そのことを誇りに思っている。悩みや憂いがあるということは恥ずかしいこと、恐ろしいことですらあるくらいに。
 でも、ユージアの花は根深い憂いを取り除くには足りないみたい。
 村人たちの憂いは様々ね。些細なことから、精神を蝕むほどのことまで。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 花が減ったのは、聖女の訪れの前兆。本当にそれは言い伝えかしら。
 よそ者だったわたしたちが、今は歓迎され村人たちに傅かれている。
 ねぇ、シュネー、わたしたち、ここで生きていこうね。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 ごめんね。あなたとのおそろい、またひとつなくしちゃったみたい。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 あなたを殺した魔女殺しが来たわ。
 いつか追いつかれるとは思っていたけれど、殺されないとは思ってなかった。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 あなたって本当、ずるい人ね!
 そして、神様ってもし本当にいるなら意地悪ね!
 あなたを殺した魔女殺しと契約したわ。
 彼女の記憶の中にあった最期のシュネー、本当に綺麗だった。いつだってわたしはあなたに敵わない。
 シュネー。わたしの最高の半身。
 わたしたちが彼女を憎んでいないと言ったら、彼女を困らせてしまうかな?

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 今度は知らない魔女殺しが村に来たわ。
 マリーはわたしたちを殺さない。わたしたちを殺させない。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 また知らない魔女殺しが村に来た。
 彼はもう愛すべき村の住人のひとり。
 マリーはいい顔をしなかったけれど、契約をしていないだけで、マリーと同じなのにね。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 ユージアの花が枯れてしまった。ひとつ残らず全て。
 嫌な予感がするわ。
 わたしたち、村を守れるかしら。

愛を込めて
レーテ



愛するシュネー、

 今夜のお客様はミハエルの姿をした異形とマリーのお弟子さん。
 マリーが唯一追い返せなかった魔女殺し。
 わたしたち、今度こそついに追いつかれてしまったわね。
 村人たちが寝静まったら最期の準備をしましょう。人間は村人によくしてくれるかしら。それだけが心配よ。
 わたしたちは魔女だから。
 わたし、シュネーみたいにできるかな。

愛を込めて
レーテ


このSSは『ストリテラ オモテとウラのRPG』のシナリオ『レーテー、君が望まなくても』(真夜中様作)のプレイ後、キャラクターの裏話として制作したものです。
ヘッダーイラストは真夜中様およびアシヤ様より使用許可をいただいてお借りしました。

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