〇〇しないと出られない部屋の〇〇が読めない!? リプレイ風SS
このSSはストリテラシナリオ「○○しないと出られない部屋の○○が読めない!?」のプレイログを基に執筆したリプレイ風SSです。
キャラクター紹介
ダンデライオン(PL:しまうま)
オモテ:なかよし ウラ:だいすき
愛称ダンデ。
自他ともに認める天才で特に飛行術が得意。
今回はなぜかマーガレットと共に出られない部屋に閉じ込められた。
マーガレット(PL:りりこ)
オモテ:なかよし ウラ:ひめごと
愛称メグ。
恋に恋する恋愛脳でアホの子。
今回はなぜかダンデライオンと共に出られない部屋に閉じ込められた。
ふたりとも「学園に眠るグリモワール」の継続キャラクター(リプレイはこちら)です。
Opening Chapter
ふと、マーガレットとダンデライオンが目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
特に目立ったものはないが、真っ白な壁にも天井にも窓がないという点で異質だった。さらに、唯一あった外に通じるらしい扉は、厳重に封じられている。
がばり、と身を起こしたダンデライオンの横でマーガレットも目を開ける。
「……あれ? ここ、どこ?」
「おやメグ、おはよう」
「お、おはよう……じゃないのよ。どこよ、ここ!」
「おいおいメグ、勘違いしちゃあいけない。天才たる私にもわからないことはあるんだよ?」
起きてすぐ、知らない部屋にいると気がついて狼狽えるマーガレットとは裏腹に、ダンデライオンは平然とした様子で座り直す。
「いまこそ君ご自慢の占いの出番じゃないのかい?」
「そっちこそ、占いを過信するんじゃないわよ。いつもは信じないくせに……」
そうぶつぶつ文句を言いながら、耳につけたペンデュラムのイヤリングで一応占ってみる。しかしながら、収穫は特になく、その顔を見たダンデライオンはやっぱりねとばかりに肩をすくめる。
「やはりだめか。想定内だね」
「わかってたなら無駄にやらせないでよね」
「ダメもとでもやってみるのは大事だよ?」
言いながらダンデライオンはつかつかと部屋を横切ってドアの前に立つ。
「……開かないね?」
「……開かないどころか封印レベルよ、これ」
「うーん……メグ、ちょっと離れておいてくれるかい?」
「え、何するつもり……?」
一応警戒して後ずさるマーガレットを尻目に、ダンデライオンは手の中に炎の塊を生み出す。
「えい」
その直後、ドォォン!! と派手な音を立てて扉の爆破を試みるも、扉はびくともしない。
「だめか……厄介だね」
「危ないじゃない!! ダンデのばか!!」
「……? どうしたんだい、そんなところで寝そべって」
「誰のせいだと思ってるのよ!!!」
「はっはっは」
余波で吹き飛ばされたマーガレットがぷんぷんと抗議するのをダンデライオンは笑い飛ばす。
「というわけで、我々は閉じ込められてしまったようだね」
「……そうね。どうにか出られないものかしら。……あれ、待って」
なんとか立ち直って、扉に近寄ってきたマーガレットが、ふと、扉にあったプレートを見つけて指差す。
「あそこに何か書いてある」
「……しないと出られない、部屋」
「読めないわ」
「肝心なところが欠けてるじゃないか」
「ダンデが後先考えずに爆破なんてしようとしたせいじゃないの?」
「あれくらいで欠けるような扉なら、もうとっくに開いていると思うけどね」
「もー!!! ダンデのばかばかばか!! どうすれば出られるかわかんなくなっちゃったじゃないのよー!!」
おそらくなにか条件が書いてあっただろうプレートは肝心な部分が粉々に砕けて、なんて書いてあったのか全く読めない。
ぽかぽかと背中を叩くマーガレットに、ダンデライオンはわからないものは仕方ない、と肩を竦めて、調度品の揃った部屋を見回す。
「なんならここでふたり暮らしというのも楽しいと思わないかい?」
「……そ、それは、さすがに、ちょっと……」
「私も少々喧しすぎると思っていたよ、気が合うね。では、脱出方法を模索するということで」
「そうね。出られる方法を探しましょう。こんなプレートがあるくらいだもの。なにかしら方法はあるはずよ」
いくら暮らせそうな部屋といえど、外に出ることもできず、窓もない部屋に居続けるのは色々な問題があるだろう。
部屋の中に脱出のヒントがあるに違いないと考えたふたりは、もう少しよく部屋を調べてみることにした。
Chapter Ⅰ 〜パーフェクトなパフェを作る?〜
部屋の戸棚には大きなパフェグラスとシリアルやお菓子類が置かれている。さらに、冷蔵庫には生クリームや果物も入っていた。
「パフェってパーフェクトっていう意味だって知ってた?」そんな書き置きがそれらと一緒に置かれている。
これは、パーフェクトなパフェを一緒に作れという意味なのだろうか!?
「……お? これは……メグ、見てごらん」
「なぁに。えっと……パフェはパーフェクトって意味だって知ってた? ですって」
「【フランス語】だね、パルフェ」
見つけたパフェ作りの材料一式をマーガレットに見せながら、ダンデライオンはパフェグラスを掲げて下から眺める。
「そ、それくらい知ってるわよ……。でも、おあつらえむきに、パフェの材料になりそうなものが揃ってるみたいね。ってことは、【完璧】なパフェを作れってことなのかしら?」
「いいね。お腹も空いてきた頃だし、天才に相応しいパーフェクトなものを頼むよ」
「なんであたしに作らせるつもりでいるのよ。きっとこういうのはアレよ。【共同作業】で作れって試されてるのよ!」
「試されている、だって?」
そう聞いたダンデライオンの目がぎらりと輝く。
「この天才に挑むとは、なかなか楽しい奴じゃないか。最高に【おいしい】パフェを作ってみせよう、メグ」
「え、あ、……う、うん……そうね……?」
ダンデライオンの急な食いつきに気圧されて一歩後ずさる。
「まずはこれと」
その間にもダンデライオンはテーブルの上にどん、とパフェグラスを置く。
「これと」
そしてそこにコーンフレークをざらざらと注ぎ込み、
「これを……」
「ちょっとぉ! 待ちなさいよ、ばかダンデ! 共同作業だって言ったばっかりでしょうが!!!」
生クリームを絞り始めたところでようやく我にかえったマーガレットが止めに入る。
「君が私の作業の合間合間に入れてくれれば共同作業になるさ」
「そういうのは! 共同作業って! 言わない! の!!!! ダンデのばか!!」
「仕方ないな。まぁ私は天才だ、君に合わせてあげようじゃないか」
むかつく、とばかりに頬を膨らませるマーガレットもそっちのけで、ダンデライオンは大きなカプリコをふたつ手にとって構える。
「メグ、メグ。【これものせよう】」
「バランスってやつ考えなさいよ」
「角みたいで素敵だと思わないかい?」
全く響いた様子のないダンデライオンにマーガレットは呆れたようにため息を吐く。
「……はぁ。まずねぇ、どんなパフェを作るか考えてからにしましょ? フルーツがメインなのかとか、こういうブラウニーとかをメインにしていくのかとか、パフェにもいろいろあるでしょう?」
「私はフルーツがたっぷりのやつが好きだよ」
「そう。あたしもフルーツたっぷりのに異論はないわよ。特にベリー系がいいな」
「バナナも入れよう、飛んだあとの栄養補給にぴったりなんだ」
「んん……そうしたら、ブラウニーとかチョコレート系を中心にしたらまとまりがよくなるかしら」
「チョコレートはベリーにもバナナにも相性がいいからね」
「ただなんでも【てんこ盛り】にするだけじゃパーフェクトとは程遠いものね」
「欲張ってわけの【わからない】代物になるのも手作りの醍醐味だよ」
「だからって今回は……いえ、【なんでもない】わ」
これ以上言っても無駄だと判断したのであろう。途中で言葉を切って、使う材料を手繰り寄せる。
「とりあえず、コーンフレークと生クリームはばかダンデが入れちゃったわけだし、ここに小さく切ったブラウニーとバナナを並べましょ。こうやってバナナをグラスに添わせて並べて……」
「それは【もっとこうしたら】どうだい?」
なにやらアーティスティックなことをするダンデライオンに、むぐ、とマーガレットが言葉に詰まる。
「く、くやしいけど悪くないわ……」
「はっはっは。こうしてこうして……完璧だ!」
「……うん、まぁ、そうね。いいんじゃないかしら。……これで出られるわよね?」
ふたりの視線が扉へ向く。
「……開かないじゃないか」
「……なんでよぉ!! パフェじゃなかったってこと? それとも作ったパフェをふたりで食べるところまでってことなの……?」
「じゃあ食べよう。腹が減って死にそうだ」
「……そうね。まぁ、作るだけじゃもったいないもの。それに、案外上手にできたし……」
「いただきます!」
パフェスプーンを手にしてふたりはパフェを食べ始める。
しかし、パフェを食べ終わっても扉が開くことはなかった。
Chapter Ⅱ 〜激辛料理を完食する?〜
備え付けのキッチンにはいかにも辛そうな料理がたくさん並んでおり、ふたり分の取り皿やカトラリーも用意されている。
取り皿には「お残しは許されません」と書かれていた。
パフェを食べ終えて、片付けをしようとしたマーガレットは、ふとそれらの料理を目にして少し青ざめた。
これはやはり、激辛料理を完食しろという意味なのだろうか!?
「……ダンデ、ちょっと……」
ダンデライオンを手招くと、なんだい、とダンデライオンが歩み寄ってくる。
「これ、なに?」
「料理だね」
「そうね。めちゃめちゃ辛そうだけど」
「甘いものだけじゃ飽きるから、サービスかな? 親切だね」
「パフェのあれこれを見つけた時はなかったの?」
「あった」
「あったの!? なんでパフェが先なのよ!! どう考えても逆でしょう!?」
あっけらかんと答えるダンデライオンに、つい声を荒らげる。
「はっはっは。そんな凡百な発想だからいけないのさ。胃袋に入れば一緒だろうに」
「違うわよ! ぜんっぜん! 違う!! しかも、見なさいよ。お残しは許されません、ですって。これ【全部】食べろってことじゃない」
「大変そうだね。頑張ってくれたまえ、メグ」
「なんでそうなるのよ! ばか!」
「そうは言っても、私は【平気】だからね。まだ腹に空きもあるし、さっさと食べてしまおう」
なにも気にしていないといったダンデライオンの様子にむぅ、とすっかり元気をなくしたマーガレットが、そっとそれほど辛くなさそうな料理を自分の皿に取り分ける。
「……ダンデは、その、【辛いもの好き?】」
「好きかと聞かれると【わからない】が、少なくとも苦手でないことは確かだね。君は?」
「……に、にが……得意じゃ、ないわ……」
「ふむ、じゃあ頑張ってくれたまえ」
そう言って、ヤンニョムチキンと思しき料理を口に運ぶと、スパイシーでおいしいね。と、まるで平気そうな顔をする。
「……う、うぅ、からい……舌が【痺れる】……【口から火吹きそう】……」
一方でマーガレットは泣きながら激辛料理をなんとか口に運んでいる。
「うん、だんだん【舌の感覚】がなくなってきたね」
「ばか、ばかダンデ……うぇぇん……なんでそんなへいぜんとしてるのよぅ」
顔色も変えず、平然とした様子で食べ進めるダンデライオンに恨み言を呟きながら、マーガレットもゆっくりながら辛い料理を口に運んではなんとか咀嚼して飲み込んでと繰り返していく。
「こっちのアラビアータも美味しいよ」
「全部食べるなんて無理だよぅ……【助けて】よぅ……」
にっこり笑顔で勧められる料理に反応する余裕も、今のマーガレットにはなかった。
「これでも飲んで頑張るといい」
「鬼ぃ! ばかぁ! 舌が死んじゃう……」
「スッキリするのに」
「スッキリとかじゃないのよ。ひん……辛いよぅ……」
差し出される熱いお茶についまた声を荒らげる。ただでさえ辛さの刺激で大変なことになっている舌に熱いお茶をと想像するだけでつらい。
「さて、これで扉が……」
また泣き出しながらなんとか最後の一口を食べたマーガレットが縋る目で扉を見る。
「……開かないぃぃぃ」
そして崩れ落ちた。
「ばかー! ダンデのばかー! えーん! せめてパフェは後がよかったー!!!」
開かない部屋の中に、肩にダンデライオンの慰めの手を乗せたまま、マーガレットの切実な叫びだけがこだました。
Chapter Ⅲ 〜素敵な合奏をする?〜
部屋の中にはふたつの楽器がある。さらに、楽器と一緒に2枚の簡単そうな楽譜が添えられており、そこには「心を重ねて素敵なハーモニー」と書かれた付箋紙が貼られていた。
激辛料理を食べ終え、しばらく水や牛乳を飲んでの休憩の後、ようやく舌の痺れがとれたふたりが部屋の中を調べていた時に、偶然開けたクローゼットからそれらの楽器と楽譜が見つかった。
これは、ふたりで息の合った合奏をしろという意味なのだろうか!?
「……なにこれ、ピアニカと、リコーダー? どっちも随分と【久しぶり】に見るわね……」
クローゼットから出してきた、まさに幼少期の頃に少し触った程度の楽器類に、マーガレットは少し呆れたようなため息を吐く。
「任せたまえよ、この天才に弾けない楽器などないということを君にも教えてあげよう。なに、【上手下手】は関係ない。君も楽しむといい」
「なんかいちいちムカつくわね。なによ。別に、この楽器くらいなら弾けるもん。……久しぶりだけど……ちょっと【練習させて】くれればすぐ思い出すわ」
「かまわないよ。好きなだけ練習するといい。楽器はどちらが良いかな?」
ふたつの楽器を前に、マーガレットは少し考える素振りをする。ダンデライオンは天才に弾けない楽器はないという言葉通り本当にどちらでもいいらしく、マーガレットが選ぶのを待っているようだった。
「……うーん、そうね。じゃあ、ピアニカにでもしようかしら。ピアノなら少し弾いていたし、まだ【弾けるかな】って思うの」
「じゃあ私がリコーダーだね」
それぞれ楽器を手に取り、記憶を辿って音を出してみる。
「ふむ、音は問題ないようだ」
「……うん。こっちもとりあえず大丈夫そうよ」
「では一度練習してみようか。曲の希望はあるかい?」
「一応ここに楽譜があるわよ。ほら、えっと……きらきらぼし? まぁ、それくらいなら弾けそうよね」
「きらきら星だね。それじゃあやってみよう」
差し出された楽譜をざっと眺めると、さっそくとばかりに超絶技巧でアレンジされたきらきら星を奏で始めるダンデライオンに、マーガレットは楽譜通りの演奏を取りやめる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、ばかダンデ! 合わせる気ある?? 【もう一回】! やり直しよ!!」
「あるとも。しかし君がついてこられないというなら仕方ない。あとメグ、ひーかーる、のところ【音がズレて】たよ」
「う、うるさいわね。誰のせいだと思ってるのよ!」
それもこれも急にアレンジなんてしはじめるせいよ、と言い募るマーガレットにダンデライオンはやれやれと肩をすくめてみせる。
「それではもう一回、いくよ?」
「とりあえず、一度楽譜通りに弾いてちょうだい」
「わかったわかった。やれやれ、楽譜に書いてある【音符】から発想を膨らませてこその音楽だというのに……」
「あんなアレンジじゃついていけな……じゃなくて、今のは【なんでもない】けど、でも、あの、ほら、楽譜があるってことはその通りに弾けってことに違いないのよ!」
むすっとしながらもせーので合わせて楽譜通りに演奏を始める。ダンデライオンの演奏はさっきのアレンジと違って文字通りの意味で楽譜通りのものとなり、これなら合わせやすいとスムーズに進むマーガレットの演奏と上手く重なっていく。
「いいね、なかなか巧いじゃないかメグ。楽しくなってきたよ!」
しかし、楽しくなってきた、の言葉通り、演奏で遊び始めたダンデライオンの演奏はアレンジが増え、元の曲すら【わからない】ほどになってきて、それにすらついていこうとしていたマーガレットは途中で諦めていっそ楽譜通りの演奏に徹することにしたのだった。
なお、演奏が終わっても扉が開くことはなかった。
Final Chapter
ヒントらしきものをもとに、試せることは試しつくしてもまだ扉は開く気配がない。
しかし、部屋を隈なく探し、さまざまな挑戦をしたことは無駄にならなかったようだ。
演奏を終えて、ダンデライオンは軽く首を傾げながらマーガレットの方へ手を差し出す。
「そのピアニカ、やっぱり微妙に音がズレてるね。ちょっと貸してくれるかい?」
「……そうかしら? そんなに大きくずれているようには感じなかったけれど……でも、ちょっと違ったかな……?」
「私の天才的音感を信じたまえよ」
同じく首を傾げながら差し出されたマーガレットのピアニカを受け取ると、かちゃかちゃとそれを調べ始める。
「ここが……あぁ、開いた。ん? これは……鍵、だね」
「鍵……? う、うわぁ……」
なんでそんなところに、とマーガレットは非常に複雑な顔をする。なにせ、さっきまで吹いていたピアニカだ。この楽器は案外中に唾が溜まりやすいーー。
人に触れられるのはなんだか嫌な気がして、ダンデライオンから楽器ごと奪い去ろうと手を伸ばすも、体格の差で避けられてしまう。そして、胸元のチーフでそっと鍵を取り出したダンデライオンはまじまじと鍵を見つめる。
「何か書いてあるね、なになに……」
「ちょ、ちょっと……! あたしが吹いてたピアニカの中にあったとかちょっと、その、アレじゃない……。あたしが見るから貸してよ〜!!!」
「えーと、告白? 文字が小さいな……おっと」
ぴょんぴょんと飛びかかるマーガレットを避けるように動いていたのが災いしたのか、ダンデライオンの手から鍵がすり抜けて床に落ちる。
より床に近い背の低さはこの時ばかりはマーガレットに味方した。落ちたのを見たマーガレットはさっと鍵を拾い上げてから、ハンカチでしっかり鍵を拭う。それから、書かれているという文字をじっくり見つめて読み上げる。
「告白しないと出られない、部屋!? こ、こ、告白……って!」
思いもよらない条件にマーガレットはあたふたし始める。
「あっ……抜け目ないな、メグ。でも、よく見てみなよ、小さい字で何か書いてある」
「告白、って、だって、そんな……別に、あたし、ダンデなんて……」
「メグ? メグー?」
マーガレットは数多の恋愛小説を読み、恋に恋する女生徒である。つまり、彼女にとっての告白という言葉はたったひとつのものを指していた。
すなわち、「愛の告白」である。
すっかりそれに思考を占められたマーガレットにダンデライオンの言葉は全くもって届かなかった。
そんなマーガレットの様子を見て、やれやれと呆れたため息を吐いたダンデライオンは、仕方なく、マーガレットが手に持ったまま固まっているのをいいことに、鍵を覗き込むことにした。
「どちらかが、相手に言わなければならないことを? なんだろう。言うべきことは言っているつもりだが」
「ぴゃっ! な、なによ、ダンデ! 脅かさないでよ!!」
「なんだい、エビみたいに」
急に視界いっぱいにダンデライオンの横顔があって驚いたのか、マーガレットはとっさに飛び退いて距離を取る。それを見て呆れたような面白がるような表情をしていたダンデライオンだったが、不意に何かに納得したように、ぽん、と手を打つ。
「メグ、私に何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃないのかい?」
「い、言わなくちゃいけないこと? 別に、ないわよ。ダンデのこと、そんな風には好きじゃないもの……あ、」
あくまで友達としてなら……ともごもご言いかけたところで、思い当たる隠しごとを思い出してわかりやすく目が泳ぐ。
ダンデライオンの天才的観察眼がそれを見逃すはずもなかった。
「メグ? 今なにか思い当たる節があっただろう。私は怒りも笑いもしないから、安心して言ってごらん?」
しかし、それは笑いも怒りもする人の言い方である。
「……し、しらなぁい」
ふひゅー、と丸めたマーガレットの唇が間抜けな空気の抜ける音を立てる。本人は口笛を吹いたつもりらしいが、とてもそう聞こえる音にはならなかった。
「はっはっは。メーグぅー?」
「い、いひゃい! いひゃい〜!!」
笑いながら、ぐい、と頬を引っ張るダンデライオンに、マーガレットはばたばたと暴れて抗議する。
「このほっぺたが伸びてしまう前に、言うべきことは言ったほうがいいと思うがね」
「ははひへ〜!!! ひうはら〜!!!」
ぱっと手が離されると、ひりひりと痛む頬を撫でながら、様子を伺うようにダンデライオンを見上げる。
「うぅ……ダンデの馬鹿力……ばかぁ……。
……えっと、ほんとのほんとに、おこらない?」
「私は同学年の中でも随一の広い心を持っていると自負しているよ」
「うぅん……それはちょっとよくわかんないけど……。あの、あの……実はね? この前ね? 後輩の子がね、なんか、ダンデに渡してほしいって言ってね、なんでか知らないけど、あたしにお菓子を渡してきたのね? ……それ、ダンデにあげないで、食べちゃった……」
「…………え、それだけかい?」
拍子抜けとばかりの顔をするダンデライオンに、うん、と後ろめたそうにマーガレットは頷く。
「なんであたしが渡さなきゃいけないのよ! って、ちょっとムカついたから、ダンデにあげないで食べちゃった……」
「いや、後輩に悪いとは思うが、さすがにそんなことで扉が開くはずが……」
と、扉へ視線をやると、がちゃん、という音と共にゆっくりと扉が開いていくのが見えた。
「……開いた」
「……もっと他にないのかい? おもしろい感じの秘密とか」
「な、ないわよ。べつに……それくらいしか……」
「なんだ、つまらん。『あたしね。実は……ダンデのこと、好きなの!』とか、期待してたのに」
「い、言うわけないでしょ、ばかー!!!」
妙に似ている自分のモノマネに対しても、その内容に対してもなのか、今日出した声の中でも一番大きな声量ではないかというほどの大声で叫ぶ。
「誰が……誰が、ばかダンデのことなんて……!」
「残念だなー。私はメグのこと大好きなんだけどなー」
「別にそういうのじゃないもん! ばーーーーーか!!!!」
片目を瞑って、あっけらかんとそう言ってのけるダンデライオンに、思い切りそう叫ぶと、マーガレットは開いた扉から走って飛び出した。
「あっと、そんなに急がなくてもいいじゃないか。あ、そうだ。出られた記念にこの後ひとっ飛び行くというのはどうだい? ねぇ、メグー……」
「行かないわよ! 相変わらずの飛行バカね!!!! もうダンデなんて知らない!!」
走って逃げていくマーガレットをダンデライオンが追いかける。追いつかれてしまうのも時間の問題だろうが、こうしてふたりは出られない部屋からの脱出に成功したのであった。