虫と草木のネットワーク
前回投稿の「レモンと青虫」繋がりで・・・。
アンデルセン国際児童文学賞を受賞した
上橋菜穂子さんの「香君」を以前に読んだ。
上橋菜穂子さんは「守り人」シリーズで人気を
博した作家さんなので、
ご存知の方も多いのでは無いだろうか。
上橋さんは文化人類学者として大学で教鞭をとっていらした事もあったが、生物学にとても興味を持ったようで、
東洋医学と現代医学をテーマにしたフアンタステイックな
作品を描いている。
「香君」も食料をいかに確保するか、
民を飢饉から救うためにいかにすべきか、
いかに自給率を高めるべきか、
問題提起している作品だ。
この作品を書くにあたって、上橋さんが
参考文献として挙げている作品の一つが、
「虫と草木のネットワーク」高橋純示著だ。
上橋さんはこの本を読んで、植物が発する香りと
それに反応する他の植物の反応の現象が気になり、
「香君」の発想に繋がったとあとがきに書いている。
この本の主人公、アイシャは、
ありとあらゆるかほりを聞き分け、
万象を理解すると言うスーパー本能を持っている。
自然界と人の競争について描いた「香君」に
刺激されて、生物の弱い私でも理解できるかしら?
と不安に駆られつつ、図書館に「虫と…」の貸し出しを申し込んだ。
少し長くなるが、その時の読後感を投稿してみる。
「虫と草木のネットワーク」
図書館に申し込んだが、当館に所蔵はなかったらしく、
県内の別の図書館から取り寄せてくれた。
科学に疎い私にとって読みにくい本かもしれないという予想に反して
とても読みやすく、興味深い本だった。
今まで知らない・・というか考えても見なかった、
自然界の不思議が解き明かされ、普段何気なく目にしていた
植物や虫の生態に改めて目を向けたくなる本だった。
植物は、人や虫によって傷つけられることにで、特別の香りを発し、
その香りを察知した他の植物や虫が反応するというのだ。
香りによってコミニケーションをとっているという。
植物が自らの意思によって化学物質を作り出し、
他の助けを借りて生き延びようとしているなどと
想像だにしたことがなかった。
植物から放出された物質が。他の植物や、昆虫、微生物、小動物、
そして人間にさえ何らかの影響を与える・・・
これをアレロバシー・・というらしい。
例えば、アブラムシの天敵はてんとう虫だということは
よく知られているが、これはてんとう虫が偶然アブラムシを
見つけたわけではなく、植物が発する香りを頼りに来るのだと知った。
このように害虫を直接食べてくれる虫もいるが、
例えば芋虫などは芋虫の天敵の蜂がいて、
その蜂を呼び寄せることによってその蜂は芋虫の中に卵を産みつけ、
産卵させて、芋虫は死んでしまうという。
大きさ3mm、小さいものは1mmほどの小さな蜂がどのようにして草むらや野菜畑の中の芋虫を探すのかといえば、
決して闇雲に探し回っているわけではなく、植物の
「芋虫に食べられてるよー、助けてー」と発している、
植物から出る化学物質・・香りを情報シグナルとして利用することで、
効率よく寄生の害虫を発見しているのだという。
しかも、芋虫の種類によって天敵の種類も違い、
ハダニがついたときは、肉食系のハダニを呼ぶというように、
その天敵を呼ぶ時の化学物質を使い分けているのだそうだ。
植物がSOSシグナルを使って天敵を呼び寄せ、
身を守る仕組みのことを「生体免疫系」と呼ぶそうだ。
人間に免疫機能があって異物を認識し排除する働きをしているが、
植物も同じような働きを持っていることになる。
さらに驚くことに、例えば隣の植物が害虫にやられているときに、
何らかの化学物質を出して、天敵を呼んでいるのを察した植物は
害虫にやられにくいことが分かってきており、
隣の葉っぱの様子を盗み聞きした葉があらかじめ、
ある種の化学物質を増やして防衛作業をしたことが分かっている
というのだから驚くばかりだ。
それらのことを実験室で検証していく作業は、
恐ろしく細かく忍耐が必要な作業のようだが、
それが農薬を使わずに害虫を防除する
手立ての発見につながっていくようだ。
植物が出す化学物質を分析することによって、
その物質を作り出し天敵を呼び寄せて害虫からの被害を
減らそうとするものだが、
そこにはまた別の問題も出てきたりして
(自然界の働きを人工的に作るということは、
自然界を乱すことにもつながる)功罪あるようだが、
日々、地道な研究を重ねる学者には尊敬しかない。
この本の最終章では遺伝子組み換え作物にも言及している。
結論をいえば、必ずしも遺伝子組み換えのものが悪いとは
言い切れないもので、
それは自然界を見出すことに繋がることにもなると
提言している。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
日頃、noteの投稿はあまり長くなるのを避けたいと思い、
読後感も要約したものにしていたが、初めて
長めの投稿をしてみた。