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出光美術館 「物、ものを呼ぶ」

タイトルの絵は前回の東京都美術館の記事のタイトルと同時刻の海岸。
暮れなずむ夕陽に包まれたカップルは何を語らっているのでしょう・・・

せっかく東京まで出てきたのだから、東京都美術館で「田中一村展」を見ただけで帰るのは何となく残り惜しい。

こんな時、老夫婦としてはエネルギーの消費を減らすべく、極力歩き回るのを避け、ランチは都美館の中で済ませるようにしている。

夫は朝出かける時には「2館も回れるかな〜」と心配していたが、
ランチ休憩を取ると、疲れも回復したらしく「行こうか?」と、夫婦ともに好奇心だけは今も旺盛だ。出光美術館で開催中の「物、ものを呼ぶ」を観にに向かう。

出光美術館は建物の老朽化で今年12月を持って閉館し、建て替えに入る
そうだ。出光ビルは帝劇ビルと一体になっており、帝劇も一緒に建て替えられるようだ。

美術館に掲げられたポスター

日本三代絵巻の一つと言われる「伴大納言絵巻」の展示があるという。
因みに三大絵巻とは「源氏物語絵巻」「信貴山絵巻」と「伴大納言絵巻絵巻」だ。ポスター上半分が伴大納言絵巻の一部。

入場してすぐ目につくのは、有名な若冲の「鳥獣花木図屏風」で、出光美術館がアメリカ人プライスのコレクションから購入したものだ。

プライスさんがご高齢になり、「作品を処理するなら日本の大切にしてくれる場所に譲りたい」と言ってくださったエピソードは、嬉しいニュースだった。

この枡目描きの絵については多くの人が語り、このnote上でも記事があるので省くが、執拗なまでの根気の良さにいつも圧倒される。

展示は「江戸絵画の華」「きらめく自然」「調和の美」」「都市の華やぎ」
の4章の構成で展示され、若冲の「鳥獣・・・」は「江戸絵画の華」の中に展示されていた。1章では他に酒井抱一、仙厓、鈴木基一など。
酒井抱一の「風神雷神図」は宗達のそれとはまた趣が違う。
以前に東博で、光琳や等伯、抱一など風神雷神図を並べた展覧会があり、
個性が出るものだと興味深く見たのを思い出した。

この展覧会の目玉でもある「伴大納言絵巻・上巻」は第3章「調和の美」の中に展示されていた。
平安時代前期に起きた「応天門の変」という政争事件を扱った絵巻ものだ。

夜空を焦がす炎と煙に大騒ぎする平民と、風上の宮殿の中にいて冷静に状況を見ている宮人たちの様子の違いが表されていると解説書きにあった。

当時の藤原家と伴家の主導権争いから起きた事件を描いているそうだが、
その詳しい説明は諸々あるので、そちらに譲るとして、何より興味深いのは、燃え上がる炎を見たさに集まっている庶民、群衆の表情の豊かさや動きの一つ一つだ。

群衆と貴族の立場の違う動きの描き分けなど、思わず口元が緩んでしまう。

この章では、俵屋宗達の描いたという「西行物語絵巻」も西行の人生が想像され、興味深かった。

最後の「都市の華やぎ」は圧巻の展示だった。
「祇園祭礼図屏風」「「江戸名所図屏風」「四季日待図巻」の3点でどれも
大作だ。

「祇園祭礼図」としてはこの出光本が最古とされているらしい。
研究者の間では祇園祭の様式の描写の変化、また作者に関してなど色々あるようだが、素人としては、その雅な雰囲気や、何よりも、描かれている人物の多さにびっくりする。

同じように「東京名所図屏風」も488.8cmという膨大な長さの中に描かれた人物は何人いるか想像もできない数が描かれている。
作者は不明のようだが、これだけの絵を描いて作者が不明ということ自体が不思議に感じられる。

「四季日待図巻」は英一蝶が、三宅島に島流しにあっている間に描いた
そうだ。
内容は身を清めて朝日が昇るのを待つ神事のなかで、人々が歌舞や人形芝居を楽しみながら夜を明かす人々を描いたものだそうだ。

幕府を風刺したりして島流しになっていたにも関わらず、このような作品を
描けるのだから、一蝶の絵にかけるエネルギーを思わずにはいられない。

今回の展覧会には、絵因果経など釈迦の伝記に経を添えたものや、地獄に行かないようにするには・・を絵で解説したものなどそれぞれ多彩な人物の絵で溢れている。

今、日本の「漫画」が世界中を席巻しているが、そのルーツは遠く
12〜300年前から日本人のDNAに組み込まれていたものだと実感する。
これほど遥か昔から表情豊かに人間を描き分ける民族はいないのではないかと思ってしまう。私の浅学かもしれないが・・・











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