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5月の読書

5月の読書は、図書館から取り置きの連絡が来なかったこと、
プライベートで忙しかったことなどから、2冊で終わった。

5月は2冊だけ

「なぎさホテル」
伊集院静は昨年11月に73歳で亡くなった。
私の世代で、伊集院静といえば女優・夏目雅子のご主人だったと
いちばんに思い出す。そして夏目は伊集院と結婚した
半年後に白血病を発症し、27歳で亡くなったことは、
当時随分と世間を騒がせた。

伊集院は若い頃、アルコールと博打に溺れ借金まみれだった。
上京してみたものの、東京が肌に合わないと
故郷山口に帰ろうとしたが、その前に行ったことのない
湘南に寄って帰ろうと思い立ち、葉山を訪れる。

葉山から逗子の海岸に行き、今夜の宿もないままに
所在なくビールを飲みながら、海岸に座っていた。
そこに逗子渚ホテルの支配人が通りかかり、伊集院に声をかける。
「この辺りで安く泊めてくれるホテルはないか」と尋ねられ
「私ははホテルをやっているから、うちに来たら良い」と誘った。

渚ホテルは大正15年に湘南唯一の洋式ホテルとして
開業し、皇室のお宿として、又、戦争、戦後、終戦、
米軍接収などを経て、多くの文化人が利用したホテルだ。
石原慎太郎の小説「太陽の季節」の舞台ともなり、
太陽族で賑わったホテルとしても有名になった。
我が家でもまだ子供が幼い頃、家族で逗子海岸を訪れ、
渚ホテルのシャワー室を利用し、クラシックな良いホテルだと
印象深かった。
残念ながら、建物の老朽化に伴い1988年に廃業し、
今ではファミリーレストランが跡地に建っている。

そんなホテルの支配人は義侠心に富んだというか、
未来ある若者を見捨てられないという
思いがあったのだろうか?
伊集院が20代後半から30代にかけて、
とにかく7年間もの間、ホテル代も取らずに
居候させ便宜を図っていたのだ。

ここで、たくさんの本を買い込み(自分の懐具合も構わず)
多くの知己を得て、作家としての基盤を作っていく。
この間も借金は多く度々支配人の温情を受けながら暮らす。
時には積み上がった本のために本棚まで作ってくれたという。

この逗子生活の中で夏目とも知り合い、夏目と暮らすために
逗子を離れることになったのだ。
しかしその結婚生活も長く続かなかったのは、
先に述べた通りだ。

そんな経緯を著した本が「逗子渚ホテル」。
何より驚くのはホテル支配人の気持ちだ。
「無理に仕事なんてすることはないよ」と言って
伊集院を支えたのは、伊集院に才能を感じて
手を差し伸べずはいられなかったのだろうか?
現代では考えられないような人間関係に驚くばかりだ。

「パリの砂漠 東京の蜃気楼」
「蛇にピアス」で直木賞を取った金原ひとみの本は読んだことがない。
なんとなく、私には合わなそうという先入観念で選んでいなかったのだ。
たまたまテレビの「あの本読みましたか」という番組で、
平野啓一郎がおすすめ本として紹介していたのを見て手にした本だ。
金原ひとみがフランスに移り住む前に、
平野啓一郎にフランス事情について、尋ねたことがあり、
そのフランス生活のことが著された本と知った。

金原ひとみの何某かがわかるかもしれないと期待したが、
この本を読んで著者の生き方や感覚に
共感できたかといえば「否」と応えざるおえないほど、
思考回路の隔たりを感じた。

優れた文学作品を生み出す能力は、やはり人並みで無い感性を持って、人並みで無い人生を送っているからこそ生まれるものかもしれないというのが実感だ。
・・・とはいえ、若くして数々の文学賞を
取っている作品を読まずして、とやかく言えた義理では無いので、
とりあえずは「蛇にピアス」に挑戦してみよう。





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