ネタニヤフ首相の一人勝ち?
ネタニヤフ首相の一人勝ち?
“シーチン”修一
【雀庵の「大戦序章」231/通算662 2023(令和5)年10/11/水】青天の霹靂! ユダヤ人国家のイスラエルがイスラム原理主義組織ハマスによる大規模攻撃を受けている。小生は「世界最高の諜報機関と言われる『モサド』がありながら攻撃を受けた・・・あり得ない! イスラエルのネタニヤフ政権が求心力を固める目的でヨルダン川西岸ガザ地区のイスラム原理主義過激派『ハマス』を完全に潰そうと仕組んだ罠ではないか」と思った。
ところがマスコミ報道では、「ハマスはモサドの裏をかいて準備万端で開戦したらしい」という見方が主流だ。韓国の大手紙、朝鮮日報日本語版10/10「人間より技術に依存、政治分裂・・・世界最高の情報機関『モサド』が駄目になった原因とは」から。
<パレスチナのイスラム武装勢力「ハマス」が10月7日にイスラエルを急襲して大きな被害が出る中、こうした大規模な攻撃を見抜けなかったイスラエル情報当局の失策が人命被害を大きくしたという分析が登場している。8日にニューヨークタイムズ紙(NYT)は、イスラエル国防省の官僚や米国高官の話を引用し「イスラエル情報機関のどこも、ハマスが精巧な陸海空合同奇襲攻撃を準備しているという情報をつかんでいなかった」と報じた。イスラエル政府は「戦争勝利が優先で、責任追及は後にしたい」という立場だが、専門家や内部消息筋は、イスラエルが情報戦で惨敗した原因を以下のように分析している。
★1【先端技術に依存し「ヒューミント」に穴があいた】 「世界最強」を掲げてきたモサドなどイスラエル情報機関は、ここ数年、情報活動の手段をデジタルへと大幅に転換した。ビッグデータ、人工知能(AI)といった最先端デジタル技術が押し寄せる中、他国の情報当局と同じく、これらの技術を情報戦の新たな「武器」として大々的に導入した。
モサドはこれまで、厳しく訓練された最精鋭エージェントが集めるヒューミント(HUMINT、人的情報)で名声を得てきたが、スパイ志願者の減少や人的ネットワーク構築の難しさなどにより、スマートフォンの盗聴などデジタル技術に対する依存度が高まっている。
問題は、ハマスがこれらの技術を避ける方法を習得したということだ。イスラエルの退役将軍、アミール・アビビは「ガザ地区内に拠点を整備できないイスラエル情報機関は、次第に新技術手段に頼るようになった。逆にハマスは、こうした技術を避けられる方法を会得した」とAP通信に語った。
新技術を避ける方法は、意外と簡単だった。旧技術に戻るのだ。APは「ハマスは文字通り『石器時代』へと回帰して、スマートフォン、コンピューターの使用を中止し、デリケートな会話は通信信号がキャッチされない地下で行うという形でデジタル情報手段を無力化した」と伝えた。
★2【政治的分裂が情報に「壁」を作った】 このところイスラエル国内で起きている政治的混乱と分裂が情報機関の力量を落とした、という分析もある。イスラエルでは連日、大規模な反政府デモが起きた。この過程でモサド(海外担当の情報機関)、シンベト(国内情報機関)だけでなく軍・警察の高官らが大挙して政府に反旗を翻し、幹部らが制服を脱いだ。元モサド長官のタミル・パルドは当時、「われわれは外部の脅威に対処することには慣れていたが、最大の脅威は内部にあることを悟った」と述べ、公然と政府を批判した。
情報機関と政府の対立する構図が出来上がったことで、緊密な情報交流に支障が出たこともあり得る、という分析がある。ワシントンポスト紙(WP)は、こうした状況は2001年の「9.11米国同時多発テロ」発生当時に似た側面がある、と分析している。WPは「当時、連邦捜査局(FBI)と中央情報局(CIA)との間で競争が激化し、情報共有体制がきちんと動かなかった」とし「イスラエル情報機関は、極右政党と連立を組んだネタニヤフ政権の司法無力化などに激しく反対してきており、こうした不和が情報の穴につながったこともあり得る」と報じた。
★3【同盟国の警告を無視、紛争の長期化による安易さ】 同盟国が警告し続けたにもかかわらず、自国の情報力を過信してこれを過小評価したことも問題を大きくした原因と目されている。エジプト情報当局の関係者はAPに「われわれは、何か大きなこと(something big)が発生する可能性があると繰り返しイスラエルに伝えたが、イスラエルの人間は(ヨルダン川)西岸地区にばかり気を取られてガザ地区の脅威は無視した」「爆発的な状況が浮上しつつあると警告したにもかかわらず、イスラエルはこれを過小評価した」と語った。
パレスチナ地域のイスラム武装勢力との間で大小の紛争が数十年にわたって続く中、「危険な状況」に対する警戒が薄れた-という分析もある。NYTは「ハマスの武装勢力は最近、ブルドーザーで(ガザ地区とイスラエルの境界にある)壁を壊すなどの訓練を行ったが、イスラエル軍はこれを見ても『通常の脅威』程度にしか感じず、無視した」と伝えた(キム・ジウォン記者)>(以上)
イスラエルが最先端デジタル技術への過信からハマスを甘く見ていた、油断していたから禍を招いた、という見方だ。以下の軍事サイト「航空万能論」2023/10/8「モサド元長官、これほどのロケット弾をハマスが持っていると知らなかった」も同様の見方だ。
<多くの海外メディアは「なぜ世界有数の軍事力と一流の情報機関をもつイスラエルがハマスの奇襲を許してしまったか」と首を傾げているものの、モサドの元長官は「これほどのロケット弾を持っていると知らなかったし、何が起きているのかも見当がつかなかった」と述べた。
イスラエルはハマスのテロ攻撃に慣れているものの「10月7日の攻撃」は予兆や警告がないまま始まったため、イスラエルメディアを含む多くの海外メディアは「なぜ世界有数の軍事力と一流の情報機関をもつイスラエルがハマスの奇襲を許してしまったのか」と首を傾げており、CNNの取材に応じたイスラエル国防軍のジョナサン・コンリクス元報道官も「これはシステム全体の失敗を示しており、イスラエルにとってのパールハーバーだ」と述べた。(修一:日本軍による真珠湾攻撃は米国のFDRルーズベルト政権が仕掛けた罠だったことを国際社会では知らない人が多いよう。問題だ!)
イスラエル国防軍のヘクト報道官は「インテリジェンスの失敗」を追求する記者の質問に沈黙を貫いているものの、CNNの取材には「目の前の戦いと市民の保護に集中してるため(インテリジェンス面で)何が起きたのかは後で話すことになる」と述べているため、情報面で何らかの問題があったと認識しているのだろう。
イスラエル諜報特務庁(モサド)のエフライム・ハレヴィ元長官も「7日に戦争が始まったのは本当に驚きで何が起きているのかも見当がつかなかった。我々は今回の攻撃に何の警告も発していないし、24時間以内に発射されたロケット弾の数も3000発を越えており、これは我々の予想を超える数だ。これほどのロケット弾を敵が持っているとは知らなかったし、これほど効果的であるとも思っていなかった。ガザ地区のハマスがイスラエル領の奥深くまで侵入して集落を制圧したのは今回が初めてのことで、残念ながら非常に調整された作戦だったと思う」とCNNの取材に明かしている。
ハマスが大量のロケット弾を何処から入手しているのかは謎だが、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク氏は過去「イランが工作員をハマスに送り込んで無人機やロケット弾の製造技術を移転している」と主張したことがあり、これらの兵器はイランからの密輸や市場で入手可能な材料やコンポーネントを使用しているため「入手ルートの遮断」が困難で、ハマスが使用している簡素なロケット弾の製造コストは500ドル~600ドルだと推定されている。
ハレヴィ元長官も「ハマスは海からの密輸ルートで部品や材料を持ち込み、ガザ地区でロケット弾を製造した可能性が高く、イスラエル軍に察知されることなくテストや訓練を行うことができたのだろう」と指摘し、我々には何が起きているのか全く理解していなかったと付け加えているのが印象的だ。
2021年の攻撃時も「イランはガザ地区に落下したアイアンドームの迎撃弾からシーカー部分を入手するのに成功し、アイアンドームの迎撃限界に関する情報を手に入れていた」と噂されており、ハマスによるロケット弾攻撃は一般的な高角の弾道ではなく非常に低い弾道で発射されているという報告もあるため、イランやハマスはアイアンドームの脆弱な部分を狙った戦術を採用している可能性が高い。
因みに7日の攻撃でイスラエルが被った人的被害は1800人を越えており、このうち何人がロケット弾攻撃による犠牲者なのかは不明なものの、ハマスは上記のような運用戦術と大量のロケット弾で「アイアンドームの迎撃」を振り切ったのだろう>(以上)
ハマスの軍事力を支えているのはガチガチのイスラム原理主義独裁国家イラン(ペルシャ)だ。イランはイスラエルを承認していない上に核兵器開発にも熱心。近年では「ヒジャブ(髪を隠すために被るスカーフ)の乱れを理由に警察に逮捕されたイラン人女性が死亡したことに端を発する抗議活動が発生」(日本外務省)。“弱者に優しい”国際社会の嫌われ者である。NHK 2023/10/11「イラン “ハマスに技術移転 大規模攻撃は支援の成果” 誇示」から。
<イスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃についてイランの精鋭部隊の関係者はNHKの取材に対し、「技術移転によってミサイルや無人機を自分たちで作れるよう後押ししてきた」と述べ、イランによる支援の成果だと誇示しました。
イランの精鋭部隊、革命防衛隊で周辺国での作戦に関わってきた元司令官のキャナニモガダム氏は10日、首都テヘランでNHKの取材に応じました。革命防衛隊がハマスに対して行ってきた軍事支援については「ガザ地区は完全に閉じられていて、どんな兵器やミサイル、それに、兵士も送れない」としながらも、「サイバー空間などを通じた技術移転や財政支援によって、彼らがミサイルや無人機を自分たちで作れるように後押ししてきた」と説明しました。
そのうえで、今回のハマスによる大規模攻撃について「これまでと異なり、高性能の無人機や防空システムをくぐり抜けるロケット弾が使われている。われわれの支援が間違いなく戦争の質に影響を与えている」と述べ、イランの支援によりハマスの兵器開発能力が向上した成果だと誇示しました。
一方で、ハマスの戦闘員たちが動力付きのパラグライダーを使って、ガザ地区を囲む壁を越え、イスラエル側に侵入したとされることなどについては「われわれも驚いている」と述べハマスが独自の戦闘方法を編み出しつつあるという見方を示しました。
【米大統領補佐官 “イランの関与 情報を精査”】アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は10日、記者会見で「今回の攻撃において、われわれは当初からイランが広い意味で共犯関係にあると言ってきた。彼らはハマスに資金や訓練、それに装備品を提供してきたからだ。そして、そのすべてがわれわれが目の当たりにしたことの一因になっている」と指摘しました。
そのうえで「イランが攻撃を事前に知っていたのかや、計画を支援したり、攻撃を指示したりしたのかという点については確認できていない。われわれが持っている情報を精査している」と述べました>(以上)
それにしても、この国家存亡の危機を前にしていながらイスラム教国の「パレスチナ自治政府」の姿が見えない。パレスチナ地域≒領域の人口は548万人で、ヨルダン川西岸地区に325万人、過激派のハマスに乗っ取られたガザ地区に222万人が暮らしているが、自治政府と言っても実際に統治しているのはヨルダン川西岸だけで、最早ガザは「別の国」という感覚らしい。
ハマスはまるで強盗団のようにガザの住民を人質に取っているが、実効戦力は20万人あたりかも知れない。一方、イスラエルは内憂外患でドタバタしているものの予備役を含めて60万人の将兵がいる。ハマスは最低でも1か月、2か月の戦争に耐えられるのか? 暫くすればはっきりするだろうが、ハマスは不人気のネタニヤフ・イスラエル首相にとって願ったり叶ったりの“干天の慈雨”になったことは確かだ。ネタニヤフ氏はハマスを容赦なく絶滅させて「ガザを解放」することで、パレスチナ自治政府との関係も改善に向かうかもしれない。
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