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スプリンターズS① 初手分析編

・はじめに

本記事で利用するラップタイム数値はMahmoud氏のサイトによるデータを参考にさせていただいております。
非常に素晴らしいサイトです。

なお記事内で使用する数値は元データの分散、効果量を踏まえ状況別に変換したものを使用しての予想記事となります。
サンプル数の扱いとしては近走かつ同距離施行条件に重みを置いて予測値を出す方法を選択しています。
この手法だと当然持ちタイムとそれに伴う過去順位が強い相関として扱われてしまうのが難点です。
自己回帰(auto-regressive)で算出する予測タイムは各ハロン毎の加速度を考慮し、これをホワイトノイズとしたときの移動平均に換算して推測していきます(ARMA)。算出値全部を掲載すると収拾がつかないのでポイントごとに提示して話を進めていきます。

データの扱いについての補則

この記事は2022スプリンターズステークスの出走馬分析及びレース予想になります。
①初手分析編では各馬の前半ラップタイムから特徴やポジションを推測
②展開予想編では後半の3Fの展開予測と各馬の短評を含めた比較
③最終結論編では予想印からの購入価値を見定め、馬券にどう反映させるかの意思決定基準を提示。

以上の三部構成となっております。
(記事内画像はnoteブラウザ版ですと簡単に拡大可能です)

長文を読む時間や耐久力のない方は、太字を流し読みしつつ画像でイメージを把握すれば最終結論に辿り着きますのでそちらをオススメします。


・初速比較

初手1F目
各競馬場のスタート地点の差異もあり、過去走の平均を利用すると痛い目にあう区間。
ラップタイム幅の小さいメイケイエール等はとくに問題はありませんが、出遅れデータが含まれてしまうナムラクレア等は区間データの歪度・尖度を利用して「本来こうであったはず」という予測値を算出して比較。

逃げグループはみなさんの予想通りテイエムスパーダとファストフォースの2頭。どちらも1F12.0を基準にスタートする能力を所持。

番手狙いはこの1Fでは決着せず、どちらかというとポジション争いがメイン。予測値からはジャンダルムかマリアズハートが3番手。レイハリアが居ないのも大きい。
これを見るポジションにはウインマーベル、メイケイエール、ヴェントヴォーチェ、ナムラクレア(スムーズなら)あたりが続く。

【枠】
枠順と脚質の組み合わせを確認してみると

・ジャンダルムがハナを切りにいかずにテイエムのすぐ後ろでラチ沿いを死守するか
・メイケイエールが逃げ馬と自身の間に馬を置けるか

といった程度で「無難な配置」といった印象
これ、抽選なんですかね?

先頭 取得可能予測値11.8-12.2秒
テイエムスパーダ ファストフォース 
(ウインマーベル)

番手グループ 取得可能予測値12.0-12.4秒
ウインマーベル ジャンダルム メイケイエール
マリアズハート ヴェントヴォーチェ ナムラクレア(修正値)

先頭と一番人気メイケイエールとの差はこの時点(1F通過時点)で
最小0.2-最大0.6秒差、1馬身から3馬身程度。

もう一頭の注目馬シュネルマイスターですが、余程促さない限りエイティーンガールと同じくらい後ろに。

・1-2F地点での加速によるポジション争い

この区間が枠や折り合いに事情のある馬、あるいは脚質を鑑みて自分に有利なポジションを主張しあう馬同士が争う前半の山場となります。
この1F→2Fにかけての加速度が高い馬、というのはいくつか種類があって、

・ゲートで強く出せない馬(駐立、トモの踏ん張りなどの影響)のリカバリー

・強く掛かってしまう馬の気性に影響(2021キーンランドのメイケイエール)

など個別の要因が見受けられます。

さて、みなさんが気になるメイケイエール。
仮に掛かったとしても抑えながらになるので実はレース全体のタイムで見るとそれほど特異な数値とはなりません。
過去の分布から判断しても
2F目は10.3-10.8程度の幅
区間比△2.2-△1.7
スプリント戦なら珍しい値ではありません。


先頭
1テイエムスパーダ
区間比△1.7-△1.4
8ファストフォース
区間比△1.9-△1.4
なので、掛かってしまってもそこまで前に行ってしまうこともないでしょう。体力・余力面ではマイナスになりますが。

最大値だけで計算してもそこに生まれる差は0.6秒程度。
3馬身もテイエムスパーダやファストフォースより前に出たらざわめくとは思いますが、逆にこの程度と考えることも可能です。
もちろん折り合いがついて番手付近をキープ出来たのなら馬券購入者は安心でしょう。
(△はマイナス記号扱い)

現にそのスピード分布でモズスーパーフレアは2021年では0.7秒差5着です。
それよりも飛ばした2020年では2F目10.1秒、1-3F32.8秒までペースアップしてしまい、最後までもたずにこちらは1.0秒差の10着。
これをどう捉えるか。
ほんの少しの出し入れで結果が変わるスプリント戦において、過信は禁物ということだと思います。

スプリント戦におけるタイムの持つ意味


他に注目してみると、7ウインマーベルがこの2F目における加速力がさほど秀でていないので、ここで脚を使うと後半厳しくなることが予想されます。斤量を活かして前に出たところで、それをキープしようとするとこの馬にはキツイ展開。
メイケイエールより内側に居る分前に行きたいが、それはメイケイエールとしても願ったりの状態。

そして、15シュネルマイスター。実はこの馬の2-3F間での加速力は今回のスプリンターズSでも通用するもの。
ただそれは「差を詰める」ということではなくて「あくまでも1F目で出来た差を広げることなく追走可能」という点においてのことです。
調教の併せ馬で速さに対応しようとしていますが、ゲートを早く出て位置を取る調整はしていないことからもどのような作戦を取るかが伺えます。

ただこれはナランフレグやエイティーンガール、タイセイビジョンらも同じ戦法なので問題はなく、結局は進路と間に合うかどうかだけの話になります。
予想記事②で述べるこの馬の特性からもアタマを狙うには1F短く、ナランフレグと同じ動きを模倣するしかないと判断。
しかし枠並びではナランフレグが内側後方なので敢えて気にせずひたすら外を捲っていく無謀な作戦もありそう。

さて、加減速の度合で比較したときに、最高速と最大加速を叩き出す区間の2F目。「温存度が高い」のは一体どの馬なのでしょうか。
当然後ろから行く組は体力を上手く温存させて、後半にかけての失速率が低い組み立てを考えているはずです。

まずはここでも掛からなかった場合の13メイケイエールを中心に見ていきます。
完全に折り合った(風な)ものと仮定した場合
3F突入時点での隊列は次のように算出されます。
(コース形態的には3-4コーナーの中間地点付近である2.5F地点で動くに動けない隊列の形は完成しています)

前・外↑     ↑     ↑前・内
8ファストフォース 1テイエムスパーダ
△0.5-△0.6秒の予測幅(予測モデル中央値0.5)
2ジャンダルム
16マリアズハート 

△0.9-△0.2秒の予測幅(予測モデル中央値0.3)

13【メイケイエール】±0秒

▲0.0-▲1.1秒の予測幅
7ウインマーベル

9ナムラクレア 12ヴェントヴォーチェ


↑     ↑     ↑
4ダイアトニック 
11トゥラヴェスーラ 3メイショウミモザ
14ラヴィングアンサー 10タイセイビジョン 


↑     ↑     ↑
▲1.2-▲2.0秒の予測幅(最後尾シュネルMかエイティーンG)

6ナランフレグ
5エイティーンガール
15シュネルマイスター

3F目突入時点でのメイケイエール基準の隊列予測
太字は能力値が高い馬

視覚的には先頭から最後方まで10-20馬身の隊列の長さでコーナーに突入といったところでしょう。

メイケイエールより前か後か


・隊列決定

激しいポジション争いが落ち着き隊列が決定するのが3F目。
ペースがここで落ち着くのか、2F目の争いの余波を受けてハイスピードを継続してしまうのかで、いわゆる「差し馬」の出番の有無が決定されます。

中山芝1200のコース形態からしても2F目で決定したポジションを3F目で変動させることが出来るのは外を回っての押し上げだけとなります。
何故ならこの区間は緩いとはいえコーナーとなるからです。

それでは先頭が想定されるファストフォースとテイエムスパーダのラップの刻み方を確認してみましょう。

2F目までの所要タイム
1テイエムスパーダ(予測値) 21.9-22.4秒(加速幅△1.7-△1.4)
8ファストフォース(予測値) 21.9-22.5秒(加速幅△1.9-△1.3)


斤量恩恵で楽をしていたテイエムスパーダの方が過去データでは失速率の幅が小さく、予測値も低くなっています。
今回も三歳牝馬53kgということで恵まれていますから同型のプレッシャーを考慮しなければ2F目から3F目にかけては0.4-0.5秒程度のペースダウンで先頭をキープすることが可能です。

ファストフォースの方ですが、こちらも3Fの巡航スピードは安定。テイエムスパーダより少し退いた形で2F→3Fは0.5-0.6程度の減速。
セントウルSで番手からの直線抜け出しで結果を残したこともあり、今回も番手選択といった感じでしょう。

尚、この2頭はここから各区間でほぼ減速オンリーとなります。
つまり、失速しきる前に入線出来るかどうかの戦いとなっていきます。
そういった意味ではあまりスタートで競り合いたくない同士ですね。

テイエムスパーダに関しては3F目でさらに前という選択肢が斤量の関係で見えてきますが、鞍上の国分騎手がそれをやってのける度胸があるかどうかは各自が判断してください。

さあ、これを追う各馬の4F目到達時点のポジションはどうなっているのでしょうか。
残り14頭と先頭の差を、こちらで算出した予測タイム差で並べてみることにします。

4F目到達時点での予測値によるソーティング

±0.0 1テイエムスパーダ
+0.1 8ファストフォース

+0.6 2ジャンダルム  
+0.7 16マリアズハート
+0.8 7ウインマーベル
+0.9 *13メイケイエール
+1.0 12ヴェントヴォーチェ
+1.1 9*ナムラクレア

+1.5 4ダイアトニック 

+1.7 11トゥラヴェスーラ 10*タイセイビジョン
+1.8 14ラヴィングアンサー
+1.9 3メイショウミモザ 6ナランフレグ

+2.2以上 15シュネルマイスター    5エイティーンガール

注 *記号は取得値の幅が大きく予測信頼度が低いので中央値を利用

これに内外の有利不利を加味して後半戦『スプリンターズS 展開予想編』へと続きます

もちろん過去データを大幅に更新するようなテンのスピードで仕掛ける馬が居ても不思議はありません。
そこにどのような意図があるかはわかりませんが、2022小倉記念2000mではシフルマンが6歳にして前半のタイムでキャリアハイ更新をし、自身の1600m戦の持ちタイムより速く前半を走らせる、という謎の逃げを打ち撃沈しています。
予測モデル値37.5と出していたところ、実際には34.8という「外れ値」にも匹敵するもので驚愕しました。そこまでのテン3F最速も35.95です。
後先考えなければそのぐらいは詰められる、といったものなのでしょうか。

シフルマンという例外

・ここまでのまとめ

持ちうる初速のスピードでコーナーまでにどのようなポジションとなるか、これを各馬の持つデータから予測して配置しました。
これに枠や馬番を加味して残り3Fの攻防を検証していくことになります。
残りの要素は
・上がり3F
・ペース耐性
・余力と出せる上がりの限界
・トラックバイアス
といったところでしょうか。

スプリンターズS①まとめ

・残り3Fの加減速結果から見る余力比較

詳細はスプリンターズS②で

・最終結論

詳細はスプリンターズS③で



今回は前半の攻防にスポットを当てた展開予想でした。
続きは『スプリンターズS② 展開予想編』で。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

©️ぺぬ