雪の日は好きな男と腕を組んで、キラキラした銀の世界を2人きりで歩いたり、舞い落ちる雪を写す彼の瞳の綺麗さに見惚れたりしたいんだけど、みんなは違うのかな【夢女の思い出独り言】

みなさんこんにちは、少女漫画好き夢女です。本日は関東でも大雪が降ったとのことで、世間は騒いでおります。
気象庁の呼び掛けも、ブラックな弊社はなんのその。ただ、世間の声が大きくなったから、頭の固い人たちも珍しく「気をつけなさい」と解放してくれた。
気象の変化で、ただ白くて冷たいものが空から降っているだけなのに、なんだか非日常的な、妙に浮ついた気分になるのはどうしてだろう。それはやはり我々が、「雪」に結びつく思い出やイメージをたくさん持っているからなのだろうか。

早く学校を返された小学生が、飛び跳ねて街を歩いていた。タクシー乗り場が、人で溢れていた。それでもまだ早い時間だったから、交通の打撃は受けなかった。
雪に溢れた道路を見ていると、昔の記憶が蘇る。
甘酸っぱい記憶なんてほとんどない私の、珍しい冬の恋の思い出である。こんな寒い日に誰かと共有したくて、独り言という形でつぶやいてみる。


学生の時、大雪が降ったことがあった。その日は卒業論文の提出日だった。その時いいなと思っていた男の子が、立ち往生して困っている私を迎えに来てくれた。一つ下だった彼は、顔を見るなり「おめでとう」とか言って、そのまま小さなカフェに連れて行ってくれた。貸し切りだった。
たくさんの風船がソファに溢れていて、その中に、小さなブレスレットが隠されていた。
こんなベタベタな手法、今時漫画でも見ないよ！って
驚きつつも笑って彼を見たら、らしくないのはわかっていたみたいで、恥ずかしそうにしていた。
「休講になったって聞いて、準備間に合わないかもって、ちょっと焦った」
一生懸命風船を膨らませていた彼を想像するとおかしかったけど、薄暗い部屋の中で光るシルバーを見ていたら、ドキドキした。
高い装飾品を買って、サプライズをして、それってまるで好きな女の子にしていることだと思った。でも、自分がそういう対象とされていることを、すぐに肯定するのは気恥ずかしくて、慣れなかった。
奥から出てきたケーキには火花みたいなロウソクが灯っていた。外は静かな白なのに、彼と私の手元には火があった。息を吹きかけると、消えて、部屋も灰色になり、外の冷たさに混じろうとした。

たわいもない話をした後、電車が止まる前に帰ろうと外に出た。
私たちが店にいる間、とっくに他の人は家に帰ったみたいで、道は雪が誰にも踏まれずに積もっていた。
そこを、2人ではしゃいで進み、寒さと歩きずらさを口実に腕を組んで歩いた。早く駅につきませんように、って私たち同じことを考えていたと思う。

結局その男の子とどうにかなることはなかったし、今では恋人にならなくてよかったと心から思っている。
この出来事のすぐ後、卒業式前に些細なことで喧嘩をした。付き合っているわけではなかったから、それを修復する義務もなかった。もう少し歩み寄れば違う未来があったのかもしれないけれど、当時私は就職直前で、彼との関係を維持することより、これから一生生きていくかもしれない場所に早く適応することが最優先になっていた。会社の研修に参加して社会人の男の人を知るたび、夢みがちな一つ年下の彼が、やたらと子供っぽく映った。ひどいかもしれない。でも、せっかくつかんだチャンスを逃すまいと、私は手一杯だった。

卒業してからもう随分と経ったが、彼がどうなったかは知らない。無事大学を卒業できたかすらわからない。起業したいと言っていたけど、できたのかな。

雪が降ると思い出す。
鼻の先を赤くして、身を縮めながら私を迎えにきてくれた日。
恥ずかしそうに目をそらしてサプライズの説明をしてくれたこと。
どんなプレゼントがいいかわからなかったから、お店の人に聞いたこと。ケーキのロウソクが、線香花火みたいに部屋の壁を照らしていたこと。
帰りに歩いた雪道が月の光で明るかったこと。空から落ちる粉雪が、街灯に照らされ、魔法みたいにキラキラしていたこと。
駅の改札で、手を振って別れたこと。

夢みたいで、私の大切な思い出である。