食品販売の恐怖

先日、イベント出展の手作りマフィンでの集団食中毒が起きたとのニュースがネットで賑わっている。
改めて、食品を扱う事の怖さを感じる。

今は鬱病の影響もあって専業主婦だが、BBARは今年の春まで販売の仕事をしていた。
アパレルや雑貨も扱うが得意は食品販売。
短期出店店舗を中心にした派遣販売員である。

知らない街で、見ず知らずの相手に、食べたこともない物を、まるで長年そこでその商品を売り続けているように装って売る仕事である。
同じ場所で同じ商品を同じメーカーから依頼されて売る期間は、長くて3ヶ月。短くて1日。
1番多い期間は1週間である。

今回ニュースになった店舗はオーナーがたった1人で製造から販売までやっていたようだが、もし販売を派遣会社に委託していればBBARも販売に立ったかもしれない。
そう、この事件はBBARがいた業界で起きた事だ。

様々なメーカーの社員や社長やオーナーを見てきた。
食品販売の現場は一般人が思うほど、プロ意識は高くない。
衛生管理についての教育を受けているはずなのに、それを現実に生かす事をしない人は業界内にも多い。

食品衛生責任者の資格が無ければ食品販売は本来なら出来ない。
だが、この資格は店舗に1人責任者として所持者が登録してあれば、無資格の人間も販売自体は出来る。
責任者がしっかりと指導をすれば常に見張る必要がないという意味だろうが、短期出店の現場では有資格者が名前だけで店舗に来ることが無いなんて事も多い。

有資格者が衛生管理のプロかと言えば、そういうわけでもない。
この資格は受講料を支払って六時間程度の講義を1日受ければ誰でも取得できる。
簡単なテストもあるが5〜6問ほどの選択問題で、しかも合否が資格取得に左右されることはない。
費用は12000円程なのだが、それすら自腹を切るのが嫌だという同僚も多く見てきた。
BBARは勉強が好きなのもあって、2冊のノートとメモ帳を持参して、ゴリゴリと講義を受けていたが、多くの受講生はつまらなそうにテキストを眺めているだけ。
机に突っ伏して寝ているものも多い。
ゴリゴリ勉強しているのが場違いな雰囲気さえある。

それでも、会社から言われて仕方なくきた人なら気持ちはわからないでもない。
手続きに必要だと言われたから仕方なく来てるんだろう。
だが、オーナーやシェフ・パティシエでさえ、食品衛生の意識は高くない人がいる。

元々が他業種の会社で新規事業として食品販売に手を出した系の会社だと、食品に対する思い入れが少なく数字しか見てないので、廃棄ロスを減らすために賞味期限の改ざんなどしがちだ。

製造者なら食品への思い入れもあり衛生面にもきちんとしてるだろうと思いきや、そうでもない。
味にしか興味がない作り手や、昔の衛生管理のままブラッシュアップされてない作り手、販売数が少ない時には問題が表面化しなかっただけの作り手…様々な理由で衛生管理が杜撰な店は乱立している。

実際にあった事例で言えば、チョコレートを洗ってない素手でべたべた触ってそのままショーケースに陳列したのはパティシエ自身。
解凍後4日の消費期限のはずのケーキを、解凍した日から4日ではなく、販売した日から4日で期限シールを作って貼れと行ったオーナーパティシエ(売れ残ったら何日でもそのまま)。
冷凍保管のケーキが保管場所の不足で解凍されてしまったが、再冷凍→再解凍で販売しろと指示した社長。
開店初日に仕入れた葉物野菜を、明らかに痛んできているのに1週間売り続けた食品スーパーの社長。

BBARはありがたい事に衛生管理のしっかりした企業で下積みをしていたので自分の判断で「これはおかしい」と気づく事ができたが、同僚にはそれが出来ない者もいた。
ネイルチップをつけて店頭に立とうとしたり、香りの強いハンドクリームを愛用したり、ピアスや指輪を外すのを頑なに嫌がる同業者もいる。

自分が客の立場なら「それはちょっと…」と思うことも、カウンターの内側へ来ると途端に見えなくなってしまうらしい。

なので、件のマフィン屋はBBARから見てもとんでもない事は間違いないのだが、ネットで叩いている人を見ると「あなたなら本当にその真っ当な感覚のままで食品の製造・販売できる?」と聞きたい。
いや、べつに「どうせ出来ないでしょ?」と厭味を言いたいわけではない。
本当にそれが出来るのなら、是非とも食品業界・飲食業界で働いていただきたいのだ。
常に人手不足の業界で、すでに何年も働いて来た人でさてこの為体なのだから、是非とも業界の意識改革に力を注いで欲しい。

それが何よりも食の安心・安全に繋がる事になろう。

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