嬢をめぐる冒険(N#8)
部屋を出る前に財布の中に残っていたお札をチップとして渡した。
「仕事上がったら何か食べてね」
「いいんですか?」
「ほんとうに大した額じゃないから」
「さすがですね。チップを渡すタイミングもスマートです」
思えば彼女にチップを渡したのは初めてだったのかもしれない。入室して先にチップを渡して本番を迫る客が多い話をしてくれた。あまり愚痴らない女性だが心に封じていることも多いのだろう。
エレベーターに乗り込むとキスをしてくれた。おやおや時間はお終いなのに大丈夫なの?と思ったが、唇にキスしてくれた。
途中で海外の方と思われる清掃員が乗り込んできたので水をさされてしまったが、僕は笑って彼女に「ありがとう」と言った。
二人でホテルから出た。そこは眠らない街の一つなのでまだ多くの人が行き交っていた。
「今日はこれで上がろうっと」
勤務時間はかなり残っていたが、仕事を終わりにするようだった。
出稼ぎの時に最後に会った夜のことを思い出した。
「どこに車停めたの?〇〇の近くか、それならこっちの方向だね」
「大丈夫だよ。なんとなくはわかるよ」
ここは彼女の街なのだ。
「ありがとう」
「こちらこそ。ありがとうございました」
交差点まで一緒に歩き彼女と別れ、お互い反対の方向に歩き始めた。