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学校の警備を一日体験した時のお話

新卒で入社した会社を辞めて、今の会社に就職するまでの数年間、小さな警備会社をいくつか転々としていましたが、その時の話です。

その会社に入社して、最初の4日間は営業所で新任教育を受けました。
その時点で既に僕は施設2級を持っていたし、前の会社で現任教育も受けて、まだ期限も過ぎていないから、免除になるかなと思っていましたが、
そこの会社の規則では
仮に検定1級や指教責の有資格者でも入社時は一律で新任教育を受けることになっていました。

きちんとしている会社だと思います。

座学の研修を終えて、実地研修の段階では、配属予定の現場以外の現場も経験するとのことで、僕はその日、とある学校の警備に行くことになりました。

朝の7時にその学校の正門前で担当の指教責と待ち合わせになっていました。

指教責と落ち合うと、校門を入ってすぐのところに建っている守衛室に向かいました。

守衛室はそこが警備員の詰所も兼ねているため、割と大きめのものでしっかりとした造りのものでした。
工事現場にあるようなプレハブの、人ひとりが入ったらいっぱいいっぱい、という窮屈なガードマンボックスではなく、ちゃんとした建物でした。

一階建ての平家で、「守衛室」と書かれている木の札がかかっている扉を開けると、6畳間くらいのスペースでテレビが置いてあって、流し台やガスコンロがあり
奥は仮眠用の寝室になっていました。
シャワー室もあるし
トイレも付いています…ってここで普通に生活できるんじゃないのか?!
窓ぎわに受付用の机と椅子が置いてあり、壁には防寒着や合羽、誘導灯などがかけてあり、警備用具をしまう棚にはアポロキャップ(学校警備の人達の制帽は通常の官帽タイプのものではなく、アポロキャップなどの略帽を被っています)や災害時用のヘルメット、防災用品があり、特殊警棒などは金庫に保管されています。

書類などを保管しておく棚などがあり
エアコンも付いていました。
言ってみると交番みたいな感じに近いと思いました。

指教責がクマ五郎さん(仮名)と呼んでいる年配の男性警備員は夜勤担当で、8時の交代で下番となります。
(下番はかばん、と読みます。警備員がその日の勤務を終了する事です)

「クマさん、今日は新人の実地研修で来たんですよ」
「トラ夫と言います。よろしくお願いします」
「トラ夫くん、だね。よろしく」
と、挨拶を終えると、クマ五郎さんがお茶を淹れて持って来ました。

「もう少ししたら8時の交代でヤギ造さんが来るからね。今日はヤギ造さんに付いて一日ここでの仕事をするのが研修になるよ」

程なくしてヤギ造さんが出勤して来ました。

指教責はヤギ造さんに引き継ぐと、一旦営業所に戻って行きました。

クマ五郎さんがヤギ造さんに夜勤からの引き継ぎをして、守衛室にある電話で営業所に下番報告をすると、帰って行きました。

「さてトラ夫くん、8時から8時半までは立哨だから正門前に立つよ。防寒着は持って来てるよね?」

防寒着を着て正門前に立ち、登校してくる生徒達に挨拶をするところから、日勤がスタートします。

30分だけの立哨なので、あっという間に終わりました。

それでも真冬日だったのでかなり身体は冷えました。
かじかむ手で正門を閉鎖して、施錠をしたら朝の業務は終了です。
正門横の通用門は、常時施錠になっています。
何らかの理由があって遅れて登校してきた生徒がいる時や来客のあった時だけ、一時解錠して開扉する事になっています。
学校の校門は、不審者の侵入を防ぐために生徒の在校中は完全に閉鎖しています。
2001年6月に大阪の小学校で発生した無差別殺傷事件を機に、学校の防犯体制の見直しを求める声が上がり、
この学校でもそれまでは警備員は夜間のみしか配置がなかったところを、24時間体制で警戒するようになったそうです。

僕がこの学校の警備をした当時はまだ、その事件からそう年月は経っていませんでしたが、
もはや安全はタダではない世の中になって来たんだなと実感しました。

「寒かったねぇ〜。どれ、お茶でも飲んであったまろうか。それともコーヒーがいいかな?」

ヤギ造さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、あとはひたすら詰所の机の前に座っているだけ。

テレビを見ながらヤギ造さんと談笑している内にお昼になりました。

「そろそろお昼休憩の時間だねぇ。お昼は持って来てるの?」

「僕はお弁当を持って来てます」

ヤギ造さんの話では、勤務時間中に私用で外出はできないから、食事や必要なものは出勤時に買って持って来ることになっているそうです。

でも、出前を頼むのはOKらしいので、時々出前を頼むこともあるんだとか。

そういえば、流し付近の棚にお菓子やら色んなものが置いてあります。

「時々お菓子なんかをつまみながらお茶する時もあるよ。そっちの甘い物がたくさん並んでるのはクマちゃん用のスペースなんだ。彼はあー見えて甘党だからね」

ヤギ造さんが笑いながら話してくれました。

「いつでも食べてると見た目もあんまり良くないから、人目がない時にちょっとだけ、だからね」

と言いながら煎餅をそっと渡してくれたり。

と言っても登下校の時間帯以外はほとんど人の動きがないから、むしろ人目がある時の方が少ないんですが(笑)

それでも時折、守衛室のインターフォンが鳴って、学校に用事のある人がちらほら訪れることはありました。

ですが、警備員の仕事は、インターフォン越しに名前と用件を訪ねて、職員室に取り次ぐだけです。
あとは職員が直接正門まで来たり、宅配便やその他の来客などは確認の上で正門横の通用門を開けて、守衛室の受付に寄ってもらい、受付にある台帳に会社名と名前と用件、来訪時間を記入した後に中に通して、帰りの際はまた受付に寄ってもらって通用門から退出してもらう、という流れになります。


次回に続きます。




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