3/4 三セク鉄道シリーズ 都市鉄道編
3-1 高額運賃の裏にあった経営危機
P線方式やニュータウン鉄道建設補助金といった公的支援がなされてきたにもかかわらず、都市型三セクの少なからずは経営難と、高い運賃設定で問題となってきた。
なぜ大都市と近郊の連絡を担い、旅客需要の旺盛なはずの路線であっても、巨額の赤字に苦しめられてしまうのか?
その原因は、大きく二つに分けられる。
一つ目は路線の建設費用自体の高さと、金利高騰である。そして二つ目はニュータウン自体の、入居計画の不振・縮小があげられる。
償還を求められた費用と金利のわりに、沿線の需要が当初の想定を下回ってしまった。これにより収益が十分に確保できず、慢性的な経営不振となってしまった。
加えて法定耐用年数に基づき、鉄道車両や地上側のインフラも減価償却費用*を計上せねばならない。
特に都市鉄道型三セクの場合、線路は全区間が新規建設にして高規格、しかも高架、地下区間なども多く、複線電化が基本である。
加えて土地買収の難航や、当時関心が高まっていた環境問題(鉄道では主に騒音・振動問題)を背景に、その対策のために建設工事が長期化、費用もかさんだ。
先述の補助範囲を除き、ニュータウン鉄道の建設費用は、開業後の運賃収入より償還される方式である。
その運賃収入は、開発計画に基づき増加する沿線人口を前提に設定された。
このため実際に増加した人数が計画値を下回ってしまうと、予定された償還ペースを守れなくなってしまう。ゆえ運賃値上げで対応せざるをえなかったのである。
そしてひとたび償還が滞ると滞納分に利子が付き、一層返済が困難になる悪循環となってしまった。
3-2 東葉高速鉄道
東葉高速鉄道の場合土地柄、三里塚闘争といった激烈な成田空港建設反対運動に影響された。加えて左翼過激派の襲撃などにより、千葉県の土地収用委員会が形ばかりの存在となり、実質的に機能していなかった。
このためただでさえ進捗の悪かった用地取得を円滑に進められず、昭和59(1984)年に開始された工事が12年がかりで、平成8(1996)年に竣工している。加えて建設時期にバブル経済が重なったことで、さらなる工費の高騰が避けられなかった。
3-3 北総開発鉄道
ここでは、北総開発鉄道(現・北総鉄道)の事例をみていこう。
同鉄道は白井、船橋、印西の3市にまたがる『千葉ニュータウン』と首都圏を連絡すべく開業した。
だが千葉ニュータウンはオイルショックと少子化により、大幅に開発計画が縮小された。
計画では入居数34万人、開発面積2912haであったが、実際には14.3万人、1933haと、それぞれ約4割、約7割弱の達成にとどまった。
しかも開発コストで、土地やマンションの分譲価格を設定してしまった。このため相場より高い価格から、入居が一層不振となってしまった。
これを踏まえ北総鉄道には、のべ3次にわたる支援がなされた。具体的には以下3通りの、負債軽減策を受けた。
まず、鉄道公団に対する建設費用(元金)、およびその利子償還の猶予が図られた。
また千葉県、都市公団、京成電鉄、すなわち主な出資者側による、それぞれ数十億円規模の増資、支援融資がなされた。
さらにこの3次の支援以降も、千葉県、都市公団からの支援融資分、すなわち借金の付け替え分には、無利子措置がとられた。
これらにより、巨額の鉄道公団への償還と減価償却により、「会社存亡」がかかったともいう、経営危機を回避した。
しかし無利子の公的支援融資に、多くの負債を付け替えても、返済のためには引き続き、高い運賃を設定せざるを得なかった。このため、むしろ基本運賃は平成5(1993)年、9(1997)年、10(1998)年と、立て続けに値上げ改定されていった。
あわせて、同社はこれ以上損失を拡大させないよう、あらゆる経費削減に取り組んだ。例えば制服のワイシャツが、薄手で安価な製品に切り替えられた。果ては本社を、元は鉄道公団事務所であったプレハブに居抜きで移すまでした。
3-4 上下分離された千葉都市モノレール
千葉都市モノレールの場合は、上下分離方式をとり、一部の鉄道インフラを自治体の所有に移した。このことで事業者側の負担を、大幅に軽減した。
また先述の千葉都市モノレールは、自治体からの無利子の支援融資を以て、負債を一括返済した。これにより、将来にわたる利子の膨張を回避している。だがこれらの支援も、完全に高い運賃を解消するまでには至っていない。*
3-5 敬遠された利用と住民間との軋轢
一方沿線住民は、その高額な運賃を課せられ、たまったものではなかった。毎年度初めに、北総鉄道は必ず、沿線首長より運賃値下げの陳情を受け取っていた。また沿線住民の間では、その価格の高さから「財布なくしても定期なくすな」と言われてきたという。ついには住民団体により運賃を下げるよう、同社は訴訟されるに至ってしまった。
あるいは北神急行電鉄(神戸)のように、その高額さから三セク線経由での通勤定期の発行が、勤務先より認められなかったといった逸話もある。
またこうした高額な運賃設定により利用が抑制され、せっかくの鉄道インフラが十分に活用できていないとの指摘もある。
3-6 救済策としてなされた追加支援の解説
北総鉄道や東葉高速鉄道、千葉都市モノレールの事例に限らず、沿線自治体や主要株主たる鉄道事業者、そして住宅公団などから、こうした都市型三セク事業者に対する支援が施されてきた。
具体的には戦術の通り返済期限の延長、元本や金利の減免に、時に100億円を超えるような三セク会社への増資(資本増加)、融資支援、またDES*などがなされた。
P線方式にせよニュータウン鉄道建設補助金にせよ、利子か元本どちらかへの補助である。そうである以上想定外に膨らみ、返済能力を超えた負債の返済期限を、延長する必要が生じた。
また債務超過と呼ばれる、会社の資産総額より負債総額(借金など)が多くなると、金融機関より「要注意貸付先」に指定される。そうなると新規借入ができなくなってしまい、経営上致命的となる。
これを回避するため三セク鉄道事業者の資本金に、株主が直接追加して出資した。これにより資本金が、負債額を上回るよう増資がなされた。
新規株発行といったベーシックな手段での、増資の余裕がなかっためである。
要するに、事業者のリスクを軽減するための補助制度は、確かに設立・適用されてきた。
しかしこれだけでは、負債を圧縮する効力が、不十分であったのだ。そのため支援を受けつつも、高額な運賃を設定せざるを得なくなった。
(続)