2/3 三セク鉄道シリーズ 都市鉄道編
2-1 通勤ラッシュ緩和のための他事業者の取り組み
国鉄や大手私鉄もこの時期、都市部路線の輸送力増強に取り組んでいた。
国鉄は『通勤五方面作戦(東京五方面作戦)』を、昭和40(1965)年より開始した。東京都心部に至る東北・高崎・中央・東海道・総武の、主要幹線の貨客・緩急分離のための複々線化を中心とする、抜本的な輸送容量の拡大事業であった。
大手私鉄14社においても、昭和36(1961)年より、三次にわたる「輸送力増強計画」が開始された。
2-2 都市型三セク鉄道が誕生した理由
都市部に限らず、鉄道事業は採算に大きなリスクを伴う。
なぜなら鉄道事業は一般論として「装置産業」である。それゆえ線路敷設や車輌増備をはじめ、インフラの初期費用がかさむ。このため、長期かつ大量の輸送需要が確保できていないと、その費用を回収できないためだ。
それゆえ、鉄道とまちづくりに深い関係性を持たせ利用を確保するために、公的主体と協調した開発が重要となる。
そこで、沿線自治体や相互乗り入れ先となるような鉄道会社、住宅公団などが合同で出資して、第三セクター鉄道事業者が立ち上げられた。
採算上、民間企業単独では費用回収のめどが立てにくく、新規敷設が難しい。一方、都市部に流入した人口を受け入れていた自治体や開発公社としては、通勤輸送の要となる鉄道の敷設が強く求められたからである。
2-3 補助制度の立ち上げとその概要
このため、郊外ニュータウン鉄道の輸送力増強を促すために、補助制度が設立された。
国や地方公共団体より補助がなされる「P線方式」や「ニュータウン鉄道建設補助金」が、1970年代前半に設立された。
2-3-1 「P線方式」
「P線方式」*(昭和47(1972)年)またの名を「民鉄線建設制度」は、私鉄がニュータウン鉄道を建設する際、適用できた。
*P線方式のPはPrivate rail(私鉄)の頭文字
三セク鉄道でも公的出資が過半に満たないなら、P線方式を活用できた。
その内容は、路線建設と費用の調達を、日本鉄道建設公団(鉄道公団・鉄建公団 現:鉄道・運輸機構)が肩代わりする。路線の竣工後、経営を引き受けた私鉄が25年かけて、鉄道公団に元利均等償還*していく仕組みである。
この際、金利が元金総額の5%を超えるとき、利子補給がなされる。国と地方公共団体が、その超過分金利を、折半して補填することとなっている。
ただしニュータウン鉄道の場合、返済期間は25年から15年に短縮される。
その代わり、ニュータウン鉄道を引き受ける私鉄会社には、後述の『開発者負担』という補助制度が設けられた。
2-3-2 ニュータウン鉄道建設補助金
「ニュータウン鉄道建設補助金(現:空港アクセス鉄道等整備事業費補助)」は、昭和48(1973)年よりはじめられた。
これはニュータウン鉄道建設・運営のための、第三セクター鉄道事業者に適用される。
具体的には建設費用の総額から、一部を控除*(補助の対象としない範囲のこと)した額に、36%の係数を乗じる。この額を、国と地方公共団体が折半して、路線開業より6年間支給するものである。
*間接費、後述の「開発者負担」=用地取得における負担の肩代わり分、および自己資金調達分とみなす総建設費の10%を除いたもの。
2-3-3 開発者負担
これに加えて、鉄道用地を取得する時に、開発者負担がなされる。この負担は、P線方式、ニュータウン鉄道建設補助金の両方に、適用されていた。
具体的には、ニュータウン区域内の鉄道用地は、“素地価格”で提供されること。すなわち価値の高騰していない開発前の価格で、鉄道会社に引き渡されることとされた。
またそれ以外の区域でも、鉄道用地はニュータウン区域の素地価格に準じて、提供されると約束された。
これはニュータウン開発を担う、日本住宅公団や宅地開発公団などが、補助するものとされた。鉄道がニュータウンに開通すれば、都市とのアクセスが良くなり入居が促進される。そして開発を進めた公団側に、利益が生じうるからである。
加えて地方公共団体や公社、公団が主体の宅地開発の場合は、鉄道事業者は携わることができなかったからでもある。
急速な人口増のために用意した団地や宅地の、転売等を予防するためであった。
このため、地方公共団体(地方自治体)や地方住宅公社、および日本住宅公団・宅地開発公団といった公的主体に、開発者が限定されていたのである。
これは先述の「新住宅市街地開発法」第6条に基づく規則であった。このため、自治体や公社・公団等が得られた利益の一部を鉄道事業者に還流すべく、この制度が設定された。
(続)
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