深夜朗読会14.
少女は鳥を惹きつけるフェロモンを持っていたものですから、少女の周りにはいつも鳥がいました。
チチチチ、ピーーチチチチ、ピーーー
鳥は少女に友愛の声をかけようと鳴きます。
「鳥さん鳥さん今日も元気ね」
少女は鳥を一羽掬い上げ秘密の園へと連れていきます。
他の鳥たちも着いていこうとしますが、少女が一言「ダメよ」というと鳥たちはその場で足踏みをしだしてそれ以上ついてくることはありませんでした。
園は厚い草たちの壁で囲まれた丸い丸い籠でした。少女はいつものようにニコニコと。鳥は初めて訪れた園の魅惑の香りに、うっとりと意識を薄くしました。
「鳥さん、静かにしていてね。何があっても静かにしていてね」
鳥は心の中で頷きます。もう体を使う元気はありません。心地の良い脱力に身を盗られてしまっているからです。
一つ軽く息を吐いた少女は…じっとり、じっとりと鳥の息を止めます。
鳥は自身の命が終わるその様子を知ることもなく亡くなりました。
少女はその鳥を黒い袋に入れ、園から出て、そのまま市場へと向かいます。鳥たちに気づかれないようにコッソリ、コッソリと。
市場へ着いた少女は料理屋へと向かい、その店の裏口を四回ノックします。
「店主さん、店主さん、モノを届けに参りましたよ」
するち裏口のドアが開いて大きく毛むくじゃらのクマのような男が出てきました。
「今日も変な鳥を持ってきたのかね」
少女は答えます
「はい」
「売れるからいいがね。少し気をつけな。奴らは意外と鼻が効く」
「…えぇ」
「ちょっと待っていてくれ」
店主は少女の持っっていた袋を受け取り店の中へ一度戻っていきました。そしてまたドアを開けると、その手にはキラキラとした袋を持っていました。
「ありがとうございます」
店主は無言で差し出し、少女はニコニコと笑いながらソレを受け取ります。
店主は店の中へ、少女は自身の家へと帰っていきました。
少女は家の中でキラキラとした袋を開けます。そこにはキラキラとしたご飯がたくさん、キラキラとしたお菓子もたくさん、キラキラとした…お金もいくつか。
少女は、そうして鳥を殺し、良き日々の生活を送っていたのです。
そうした生活を送っていたある日のことです。少女の周りに集まってくる鳥の中に一羽、フェロモンと鼻の効かない鳥がいました。その鳥は何故皆がその少女に集まるのか、最初はよくわかりませんでしが、周りの鳥たちにそのことをきくと、「とても良い匂いがすんだ」というのでなるほど、と思いました。少女が鳥を一羽掬い上げ、園に連れていきます。フェロモンと鼻の効かない鳥はまた周りの鳥に質問をします。
「あの鳥と人間はどこに行くのか」
「きっととても良い場所だよ。みんな帰って来ないんだから」
フェロモンと鼻の効かない鳥はおかしいと考えたので、コッソリとその後をついていくことにしました。
周りの鳥たちは頑張って止めようとしましたがフェロモンと鼻の効かない鳥は聞こうとせず、静かに後を追います。すると他の鳥たちもズルイズルイとついてくるのです。皆、園が気になるようでした。
園に着く頃、鳥たちは皆意識が少しずつ薄くなるのを感じました。
鼻の効かない鳥は他の鳥たちよりは平気でしたので、香りに何かあるのかと思い、自身と、何羽か鳥に腹の中のものを無理やり吐かせたり、糞尿をさせたりなどして臭いを誤魔化そうとしました。
そうしていますと、少女に連れられた一羽も臭いで意識の薄まりを防ぐことができましたので、少女はいつもと少し様子の違う鳥を不思議に思ったりなどしました。
鳥たちは苦しみながらコッソリコッソリ、少女と連れて行かれた一羽を見ます。
するとどういうことでしょう。少女が鳥を殺そうとしているではありませんか。鳥たちは皆理解しました。少女が自分たちの仲間を殺していたこと。仲間は良い場所に連れて行かれたというわけではないこと。この少女は自分たちにとってとても危険な存在であるということ。殺されそうになった鳥は苦しみ、叫びます。少女はその声に慌て、鳥を急いで殺そうとします。ついてきた鳥たちは一斉に少女に襲い掛かります。それはもう、酷いものでした。
羽は舞い、いろいろな叫び声がぐちゃぐちゃに絡まり、園の自然は悲しさから空気を湿らせます。
そんな時間が何時間も何時間も続きました。
やがていろいろな音が静まる頃。鳥たちの小さな声が歌を歌い始めます。
少女は死にました。
園の中心には少女の汚らしい骨だけが転がっています。
鳥たちは歌います。
それは少女に向けた弔いの歌ではなく、その少女に殺された鳥たちへ向けての…弔いと、感謝の歌でした。
さようなら。私たちの食糧。
YouTubeで朗読動画を出しています。
そこで読んだオリジナルの詩と絵をまとめたものです。