「なんかのアニメでありそうなやつ」第1話
目の前に降ってきた謎の黒い物体。それは辺り一面の物音をかき消すように潰れるような音を立て地面についた。
砂煙の先にあったのはワニのような頭に恐竜のような爪、馬のような足、そして縞馬のような色のした化け物であった。来谷は当然フィクションだと疑う。誰かのイタズラだろう、そうであって欲しい。心の中でそう呟いた。
化け物の上に人影が見える。スーツを着た女の子がいかにも重くて狂気的な斧を持っていた。
「殺されるのか…」
最悪の結末が脳裏に浮かぶのと同時にその女の子の佇まいに美しさを感じた。
「対象を排除。後片付けは任せた。私は帰って報告書を提出する。」
そう言って女の子は来谷に向かって歩き始めた。
「あなた、ここで見た事は全て忘れてもらうわ。」
「ちょっとまっ、これって一体何なんですか!こんな化け物が東京にいるんですか、おかしいでしょ!」
「あなたには関係ないことよ、すぐに忘れるんだから」
「こんなの忘れる訳ないでしょ!」
「今からあなたが見たものの記憶を消す。ハッタリなんかじゃないわ、それができるから言っているのよ」
「さっきから何言ってんだよ!全然分かんねぇよ!」
「いいから大人しくしてなさい!」
何故だろう。この出来事は恐怖でしかないのに、心のどこかで希望を感じている自分がいた。だからこの記憶は失いたくないと無意識に思っていた。
「水切隊長。周囲に個体の反応はありませんでした。恐らく野生動物の自然的発生でしょう。」
「報告ありがとう。」
「その青年は?」
「今から記憶を消すところだ」
「私が代わりにやりましょうか。水切隊長は本部に戻って報告書の提出を」
「分かった。こいつは任せたぞ、陣母」
「はい」
明らかにこの陣母(じんぼ)さんって人の方が年上なのにこの水切(みずきり)っていう女の子に敬語なんだな…
やけに冷静な来谷。
水切と陣母がすれ違った後、陣母はジャケットの内ポケットに手を入れた。
「1ついいか、陣母。お前はいつから私を隊長と呼ぶようになった?周りに個体の反応はなかったと、機械音痴なお前が何故分かったんだ?」
陣母の血の気が引いていく様子が伝わる。
「お前は、誰だ?」
見てしまった。この世のタブーを。除いてはいけない。それがたとえ目の前に広がっていたとしても。
次回 「DEEP/fake」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?