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「六本木のBARで磨かれる人間力―上杉拓哉の新たな挑戦」

上杉拓哉の物語(続き)

所属したモデル事務所は、アイドルや人気モデルを数多く輩出してきた少数精鋭の事務所だった。スタッフや所属モデルたちはプロフェッショナル揃いで、オーディションの話が週に6回以上コンスタントに舞い込んでくるような活気ある場所だった。

僕も事務所の一員として、数々のオーディションに挑んだ。カメラの前に立ち、全力で自分を表現する。最初はぎこちなかったポージングも少しずつ慣れてきて、最終候補に残ることも増えた。

けれど、なかなか「決定」の通知は来ない。

オーディションのたびに最終選考まで進むものの、結果はいつも「あと一歩」だった。合否の連絡が来るたびに、胸に溜まるのは悔しさと自問自答だった。

「何が足りない? 表現力か?それともオーラか?」

それまでの経験で、計画や論理的なアプローチには自信があった。けれど、モデルの世界で求められるのは、数字や論理ではなく、「瞬間の魅力」だということを痛感させられた。

「俺の強みは何だ?」

経済の世界で生き抜くために、表現力を磨こうと飛び込んだこの業界。しかし、ここで掴むべきは表現力だけではないように思えてきた。自分の中に眠る何かを引き出す必要がある――そう感じていた。

そんなある日、事務所の仲間の一人から声をかけられた。彼は、これまで数々の撮影で活躍してきた人気モデルの一人だったが、最近は別の夢を追い始めていた。

「六本木でBARを開業することになったんだ。折瀧、お前も手伝ってくれないか?」

その誘いは、正直意外だった。華やかなモデル業界で成功している彼が、なぜ急にBARを?と聞くと、彼は笑いながら言った。

「モデルもいいけど、俺はもっと“人”と向き合いたくなったんだ。お前も人と話すの好きだろ?ここで働きながら、表現力じゃなくて“人間力”を磨いてみたらどうだ?」

その言葉に、僕は心が揺れた。六本木という街は、まさに魑魅魍魎が集う場所。様々な人が集まり、表も裏もあるこの街で得られるものは、きっと大きいだろう。

「表現力じゃなくて、人間力か…」

そう呟いた僕は、彼の提案に乗ることを決めた。モデルの活動と並行して、BARのスタッフとして働くことで、自分の新たな可能性を見出す挑戦が始まったのだ。

次回:六本木のBARでの出会いと、そこで掴んだ人生を変えるヒントとは――

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