雨の日に聴きたい、オメガバースものBLCD「リバース」感想

今回は、麻生ミツ晃先生の「リバース」の感想です。
詳細はいつものようにちるちるさんから、と言いたいところですが、今回は見ないで欲しいです。
いつもネタバレなしの感想を書いていますが、今回はネタバレなしの感想はなくて、見たことない、聞いたことない方には

「何も調べないで読むか、聞いてくれ!そして、漫画の帯は絶対に見ないで!!!」

と言う事しか出来ません。

とある元小説家とその幼馴染である警察官との、切ないオメガバースのラブストーリー、そして、BLだけど殺人事件の絡むサスペンスである、という前知識でいいかと思います。絶対に何も知らないで摂取するのが一番楽しめます!!!

是非、漫画を読むかCDを聞いて下さい。特にオメガバースがなんとなく好きではない人にオススメです。ハッピーでキラキラしている、爽やかでキュンとする話が好きな人には全然向きません。映画のような濃密な話が味わいたい方、運命を呪っている方には全力でオススメです。

なぜ雨の日に聴きたいCDなのかと言うと、全編を通して興津和幸さんの静かなトーンの声がものすごく美しく、SEも丁寧な作りでリアルなので、騒音があると聞き逃してしまうからです。私は普段は仕事の通勤で聞くことが多いのですが、地下鉄などでは途中で聞こえないくらいの小さな声もあるので、できればとてもしんとした部屋で一人でイヤホンで聞くのが一番いいと思いました。

というわけで、ここからネタバレありの感想です。

まず、試聴動画でもあるフレーズ、キーボードを打つ音とともに聞こえる「これは誰にも読まれない 塵芥の雑文だ」から始まる化野円さん(あだしの えん cv興津さん)のモノローグ。これを聴いた瞬間、とにかく私の知ってる興津さんではない!!と衝撃を受けました。
フリートークでも小野友樹さんが、「ガラス細工のような」と興津さんの演技についておっしゃっていましたが、本当に静かで儚くて美人で、でも頑固なところが滲み出てるような…。それに対する巾木幸村さん(はばき ゆきむら cv小野友樹さん)は、ただただ明るい爽やかな屈託のないような声でした。声を聞くだけで美男だと分かるような…。

ストーリーに出てくる、巾木さんの部下の鷺沼四郎さん(熊谷健太郎さん)も爽やかで子犬みたいな感じ、対する円さんのファンで編集になった漣さん(八代拓さん)は円さんとは違いますが静かな物腰で、大人しそうに見えてグイグイ円さんに小説を書いてと迫っていく愛情重ためのファンな感じがとても良かったです。

円さんの体調のために部署を異動した巾木さんが担当するのが、Ω連続殺人事件となります。バディとして鷺沼さんを連れて聞き込み調査が始まります。

円さんには新しい担当編集として現れた漣さんが、実は円さんのファンであったと言い、Ωであることについて触れています。ここでの会話もすごく好きで、あまりにも静かに喋るからなのか、漣さんの会話の息を吸う音まで聞こえます(笑)八代さんがそういう話し方をする方なのか…、興津さんは役の演技としての溜め息などを入れています。Ωであることに諦めているような、諦観した感じがありました。
実は原作も聴き終えてからすぐに購入して読んだのですが、冒頭や途中のところは、結構シーンが切り替わることが多いです。ドラマCDは混乱のないようにしっかりと円さんのシーンと巾木さんのシーンが分かれているのでCDだけでも大丈夫でした。

そして、いよいよ円さんのヒート期間になります。部屋で一人で抑制剤を飲んで耐えていて、帰宅した巾木さんにベッドに連れて行かれます。
私は二次創作などでオメガバースには触れてましたが、商業BLでは初めて、BLCDでも初めてでした。そのため、これがヒートのΩか…!!!!とドキドキしながら聞きました。
それまで聞いていたCDも(感想を書いたもの)Rが激しいものはありましたが、それに引けを取らない激しさと、もう叫んでいるのに近い声で聞いたことがない乱れ方をする興津さんの演技に驚きました。オメガバースの発情って、現実にはないものなわけで、それが本当にありそうに思えるくらい真に迫って聞こえたのです。

(この後で述べられる事実によって、更にその感想が違うものになるわけですが…)

このあと、巾木さんが円さんと同じ養護施設にやってくる回想があります。二人の幼少期の担当の方がどちらもお上手で、二人そのものでした。チビ巾木さんがベッドに入れてと頼むシーンがめちゃくちゃ可愛いです。呼ばれて返事をするチビ円さんの声の優しさに、もう円さんが巾木さんのことを大切に思っていたんだなあって感じます。(高校生になるとツンとした感じになりますが)

年齢が上がり、徐々にバース性が気になってくる時期。二人の学校からの帰り道での、沈丁花の匂いのシーン。もうここは、ほぼ巾木さんの告白シーンみたいな感じがします。漫画でも美しいシーンとして印象に残っています。

そして、実はβの診断が降りて、再検査だと嘘をついてしまう円さん。私はここがこの話の一番の大事なポイントだと思っています。興津さんのショックを受けたような「ベータ…」という悲痛な独り言の言い方がとても好きです。

この後、ヒートの時の現在に戻ってきてからの会話、そして、巾木さんが捜査に復活します。CDではカットされている、警察の同僚や上司などのあからさまなΩ蔑視のセリフと、それを遮ろうとする鷺沼さんのシーンもいいですね。このあと、人口比率の図を見ながら巾木さんは、人口比率とは合わないバースへの偏見についての苦言を話します。ここで鷺沼さんがいう、「そんな風に考えたことなかった」というところが、鷺沼さんの気持ちを変えたところなのかなと個人的に思っています。漫画の感想でも鷺沼さんのことも掘り下げて書いて欲しかったという意見を見ましたが、私は読み返すと鷺沼さんについても十分に想像できる気がしました。
この「リバース」という作品は「バース性に振り回されることからの救済」がテーマじゃないかと思っていて、その意味では、αである巾木さんが、αの存在やΩへの世間の偏見を疑問視していることが、αではない苦悩を抱えていた鷺沼さんの心を救う(そのせいで犯行のターゲットになってしまったという皮肉ではあるものの)という大事なシーンだと思いました。
漣さんは、円さんに既に救われた側として始めから出てきて、最終的に円さんがバース性のない世界を小説として書くきっかけになるのも美しいなと思います。ドラマCDでは省かれている結末なので、そこは是非漫画で楽しんでいただきたいです。

巾木さんと鷺沼さんが、お昼ごはんにはいるお店で椅子に座るSEが細かくて好きです😁

そして、自分がβであると言おうと迷っている時に、巾木さんが不幸な事故に遭います。
集団レイプに合いかけたΩを救って代わりにラットになってしまった巾木さんがΩを襲ってしまうというもので、連絡を受けてその様子みにきた円さんが言葉を失うようなほど自失して暴れる巾木さんがいます。
ここでのラットで抑えられない衝動に苦しむ巾木さんの叫びや、何度も泣きながら円さんに謝る小野さんの演技がとても苦しいくらい切ないです。

ここで、「人を傷つけることで傷つく」優しい巾木さんを守るために、その時に噛んだΩは自分だという嘘をつくことになる円さん。

そこから、Ωの真似をするための準備をしていくシーンに入ります。
初めて聞いた時、ここで「え、じゃあさっき聞いたヒートのセックスは、円さんの演技だったということ…???」という気持ちで大混乱しました(笑)
興津さんは、「本当はβでヒートになっていないのにヒートのΩの演技をする」演技をしていたわけですね😅

ここでこんなに大変な思いをしてまで…と思うのですが、フェロモンを装うために香水を作りに行くシーンが大好きです。
色々な香りの中で、「巾木はどういう香りが好きだろう…」という言い方がめちゃくちゃ優しくて嬉しさが滲むんです。興津さんの心憎いまでの演技よ〜〜!!!!お店のお姉さんに楽しそうって言われて自覚してないところがかわいいんですよね。

巾木さんが退院して「思い出したのか? あの時のこと」と聞く円さんの必死な聞き方が、漫画のコマとは少し雰囲気が違って聞こえました。
これは、他の方とは意見が違うかもしれませんが、円さんは巾木さんが全てを思い出して自分の小細工が不要になればいいと願いながら、実はΩとして演じていたいと思っていたからなのかなと想像しました。この先、巾木さんのΩとして生きることを想像して準備をしてきて、もちろん、事故のことを乗り越えて現実を受け止めた方がいいと分かっていながらも、自分が巾木さんのためにΩとして存在していくことが、その当時の円さんにとっての救いだったのかなと思ったのです。

その後、初めてのヒートで嘘がばれることなく繋がった時、円さんは嬉しかったのかな…と。
ちなみに、漫画もいいのですが、ここのシーンはCDはかなり時間をかけて演じているので、初めてで戸惑い、Ωを演じることへの不安とか、Ωらしさのために恥じらわないように無理に声を上げているとか、敢えてΩらしいいやらしいワードを言おうとするとか、途中からよくわかんなくなっちゃった…みたいな様々な興津さんの演技が堪能できます。

このあと、Ωを装う上で最悪のリスクである、「レイプ被害に遭う」シーンになります。CDではカットされていますが、養護施設の年下の子が遊んでいて落としてしまった母親の形見のキーホルダーを探しに行くところで襲われるのです。円さんが施設でもちゃんとお兄さんをしている優しい人だという表現で素敵ですね。


襲われて犯人たちに発情促進剤を打たれそうになって暴れ殴られてしまいます。ほとんど大きな声を出してこなかった円さんの本気の抵抗の声が痛々しいです。気絶している間に巾木さんに助けられて、犯人たちが残した録画の記録から何が起きたのかを理解する円さん。

円さんのために犯人を相当痛めつけ、「俺の番(つがい)」といって抱く巾木さん。
ここで、巾木さんが円さんを守ろうとする気持ちが、両親を失くしたことの喪失感や悲しみをもう味わいたくない気持ちが強いということを感じるのだと思います。αとΩで仲の良い夫婦だったらしい両親を悲惨な事故で目の前で殺される体験がどれほどまだ傷を残しているか、だからこそ自分がΩとして巾木さんにどれほど大切に思われているのかを実感するとともに、ここで本当のΩではないことへの後ろめたさと罪悪感が浮かぶのだと思います。
促進剤を打たれたと勘違いして巾木さんが円さんを抱いているシーンで、本当のαとΩなら、運命で強い絆があるはずなのに、偽物の自分がいるせいで巾木さんには本当のΩの相手と繋がれないのだと絶望して神に祈る円さんのモノローグが本当に切ないです。

二人が高校を卒業して施設を出る時に、円さんは一度、番の解消を申し出ます。
漫画ではちゃんと「相手の不利益になるなら別離を選ぶ」という円さんの本心が書かれています。
ドラマCDではないのですが、私はちゃんと興津さんの「巾木といるのが…苦しい」という声にちゃんとそれが嘘であるというのが表現されていると思いました。
それから、順番が違ったけどと言って改めて告白してくる巾木さんの言葉を聞いて、円さんが涙をながします。巾木さんがどう受け止めるかわからないから、本当のことがもう言えない、と。
円さんは巾木さんの思いに応えるには十分なほどら巾木さんのことが好きなんではないかと思うのですが、自分が本物のΩじゃないからこそ、それを言うことができない、その資格はない、ということが円さんは辛いのではないかと思います。

この後にまた、パソコンに打ち込みながら自分に戒めるあの台詞がでてきます。
「これは誰にも読まれない 塵芥の雑文だ 口に出してしまわないよう 鍵をかけ ここに吐いて捨てていく アイツを騙して できるなら これ以上 巾木が もう悲しい思いをしないように」
このモノローグが、冒頭の言い方と全然違います。感情を頑張って押し殺したような、祈るような言い方です。

話は現在に戻って、巾木さんが捜査中に怪我をして検査入院したところになります。鷺沼さんからの留守電を聞いて心配して駆けつける円さん。心配ないと電話して結婚を申し込み案の定振られる巾木さん。
円さんの慌てぶりに愛されている巾木さんが羨ましそうな鷺沼さんは、読み返すとここでもうこの先の行動は決めてたのかもしれない、と思います。

そして、漣さんとの打ち合わせで漣さんから小説をまた書いてほしいと言われるところ。漣さんの、「先生の嘘で救われている人はいます 絶対にいます 証拠がある 僕がいます」という言葉は、どれほど円さんにとっては救いなのかなと思います。オメガバースの世界から想像した、バース性のない世界での恋愛はどんなだろうという円さんの思考が、この作品の深みかなと思いました。それについてはフリートークでも興津さんが新しい切り口だと触れていました(興津さんは皆まで言わないタイプなので途中でやめてますけど、絶対にここが、この作品のキモだと思っていると思います)

この後、ようやく事件の真犯人が分かるとともに、円さんが攫われたことが発覚します。

私はあまり賢くないので、初めは漣さんが犯人なのかってうっすら怪しみました(笑)

ここからは事件の解明に向かうのですが、私がこのCDを聞いて一番心に響いたのが、鷺沼さんに取り残される時に全力で「俺はβだ…Ωじゃない…」と何度も叫ぶ演技です。ここの叫びがあまりにも切なくて、泣いてこれまでのことを全て後悔するような、そんな声を上げる感情を爆発させるところがものすごく好きです。
あと、円さんが思う「一番の願い」は巾木さんにもう悲しい思いをさせないことだというのがよくわかるシーンです。

鷺沼さんが最後に巾木さんと会って話している途中で、感情を乱すところも、台詞の上では幻滅するから止めてほしいと言っているのですが、熊谷さんの演技的にも、心のどこかで救われたいと思っているようなそんな風に聞こえました。

そして、全てが終わって病室のシーン。
興津さんが演じている、火事の煙を吸って喉がやられているような咳込みと掠れた声がすごいです。何度も繰り返し聞いてしまいました…。
巾木さんのことを聞いた後にすぐに鷺沼さんのことまで聞くのが、優しい円さんらしいなあと思いました。あの人質になっていた間の会話で、円さんなら鷺沼さんが何を考えていたのかわかったのではと思います。

自分がΩだと知られたことが分かって、一番に巾木さんに大丈夫かと聞くところ、ここでこのCDのメインのBGMが流れるのですが、すごくぴったりで、心に沁みます。
ようやく最後に、「お前のΩに、生まれたかった…」と本心を言って泣く円さん。
巾木さんが、「俺の運命はお前だ、信じられるまで何でもする、今度は俺の番だ」のセリフが、途中で円さんのことを俺の番(つがい)と呼ぶことの対比だと、他の方のレビューで知りました😅こういうセリフ使いが麻生ミツ晃先生はとても繊細なんだなと思って感動しました。
「もうお前を一人にしない」という巾木さんのセリフで、ぽつんと独立して一人で完結している円さんの孤独が癒されたのかなと思います。

最後、漫画では事件のその後を、巾木さんの上司との会話と、円さんの新しく書いた小説「世界がみんなβなら」という本で、βだということで落ち込む女子高生を救う話が描かれています。

CDの終わりは漫画の描き下ろしで、退院して帰宅して初めて二人がセックスをするところで終わります。火傷で入れ墨で入れていた噛み跡がなくなりすっきりしたという円さん。演技のない、本当の円さんの控えめな声や、それに今までには感じたことのない興奮をする巾木さん。最後に眠った円さんに婚約指輪をする巾木さんのモノローグでお話は終わります。
タイトルの意味が十分に感じられる終わり方です。

おまけのドラマCDは、結婚してから、どうしても自分のことを好きだと言わせたい巾木さんのお話で、むず痒くなるような甘々です。何回も聞いてると巾木さんがワンコじゃないはずなのにワンコみたいな感じに思えるくらいに…(笑)ちゃんと言葉でも好きだと言ってもらえてよかったね、という気持ちでした。

フリートークが、ここだけひとつ残念なのが、声聞き取り難いんです😅外が賑やかなところだとちょいちょい聞こえないので要注意です。
なんでも、あまりにも感情抑えた演技のせいで、右肩甲骨が凝っているという興津さん。感情って、右肩甲骨に溜まるんですね…!!!

「僕のおまわりさん」の古川慎さんも、フリトで低い声を出すせいで肩が痛いと言っていたり、「囀る鳥は羽ばたかない」の波多野さんも低い声はチューニングが難しいとお話されてるのを後々知って、大変なんだなあとしみじみしました。

付き合いが長いからなのか、ちょくちょく話をかき乱される小野さんが可愛いです。ラップぐるぐる巻きプレイについての興津さんの「怒ろうか?」っていうくだりがめちゃくちゃ好きでした。
あと、一回ですが小野さんが興津さんのこと、「おきっちゃん」て読んでるところがあって、ものすごい感謝の気持ちが湧きました…!!!!

この感想聞くのに1週間ほど聞きまくりましたが、何回聞いても好きな気持ちが色褪せません…多分、登場人物のそれぞれの気持ちを深掘りして聞いてみると色々な聞こえ方ができるからかもしれません。それくらい深みがあると思いました。(作品自体と、演じている方と、作り込まれた構成や制作の完成度が)

オメガバースが苦手な人に贈りたい、一品です。
今回はとても長くて読みづらいかもですが、お読みいただきありがとうございました。

興津さんの泣く演技が性癖のど真ん中って知ったの、この作品のおかげかも知れない…























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