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【第一部 了】小説:剣・弓・本026「ライの手紙」
026
【ライ】
僕は書きます。そう、僕は記術士なのですから。たとえこの両腕が千切れたとしても。
先生へ
お元気ですか? いや、そちらの世界は元気があるとかないとか、そういうことは問題にならないのかもしれませんね。
僕はまだこちらでやり残したことがあります。ですからそちらへは行けません。
「やり残したこととは何?」そう問いかける先生が目に浮かびます。それは後回しにしましょう。
今日の出来事を書かせて下さい。
僕ら4人は『睡りの塔』を目指しました。ダンジョンの地図を入手するためです。
しかし、どれだけ歩いても塔に着かないばかりか、徐々に遠ざかっているかのようです。そこでセドさんに先行してもらうようお願いをしました。それが手っ取り早いと考えましたし、リスクも低いだろうと踏んだのです。
昆虫、蟻類の仕業と僕は睨みましたがそうではありませんでした。
ここからは、途中合流した、結社・識所属、リュールさんの指導によるものです。
『睡りの塔』を語るには、二つのポイントがあります。一つは睡砂です。
先生ならもうご存知ですよね。あの地帯の土砂・睡砂を人間が吸引すると、睡眠ホルモンのメラトニンが大量に強制分泌することになります。普通の人間ならば瞬時に睡眠状態に陥ることでしょう。
もう一つは塔巻です。普通の竜巻の59倍の砂塵を巻き込んでいるらしいんですよね。だから、その竜巻を遠くから眺めると塔に見える。これが塔巻です。塔が動いている。それは間違いなかったようですね。
しかしこれだけでは塔とは言えません。ただの竜巻ですからね。
この睡砂によって人は夢を見ます、塔の夢を。この夢の中にダンジョンの地図があるのですよ。
セドさんとネネさんが横になっているのを発見した時、もう塔巻は霧散していました。
リュールさんの波術・獏により、僕はその夢に潜り込みました。もちろんその間、意識を失うわけですが。
寝ているセドさん、ネネさん、そして僕をリュールさんとナスノさんが護衛してくれていたようです。
極め付けは、帝国第二部隊長ゲルステルが現れたそうです。
そうですね。ネネさんに乱暴しようとした卑劣な男。セドさんの当時の上官です。その手を切り落とすことで、何の面識もないネネさんを救ったものの、セドさんは副隊長という自身の立場を失い、帝国に拘留されます。上官への反逆は帝国への反逆罪ですから死罪になってもおかしくないわけですが、服役を終え、なぜか13部隊長となって復帰。これは以前にもお伝えしましたよね。
ゲルステルvsリュールさんについて。
一方的でした。リュールさんの波術系攻撃タンツェンド・アクスによりゲルステルはなす術なく降参。やはり結社・識は戦闘においても別格のようです。
やり残したことについて、お伝えします。
主に二つあります。
1.この世界がどういうカタチをしているか?
2.セドさん達の行く末がどうなるか?
この二つを書き切ることです。
だから僕はまだこちら側にいます。
先生、いや、僕の敬愛する父へ。
剣・弓・本「第一部」 了
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