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小説:剣・弓・本012「二泊目」
【ナスノ】
今日という時間がまた消えます。今日の消失は明日の誕生を意味しますか? 本当に明日は来るのでしょうか?
夜とは日没後の闇ではなく、個人に与えられた黒いカーテンです。ひとりひとりにそれぞれの時間を与えてくれます。
この宿屋も二泊目ですね。さあ、振り返りの時間にしましょうか。今日を、詩という筆で書き留めておきましょう。
静かの森の奥
筆の少女の瞳
美の剣士の語り
感涙伝う
静かの森の奥
湿る音吸の群れ
義の双剣
乱舞咲く
静筆美感 静湿義乱
嗚呼、これもまた駄作ですね。またあなたに笑われてしまう。
【ライ】
ふぅ。何とか『静かの森』は攻略できましたね。それにしても、ネネさんが僕たちの仲間になってくれて本当に助かりました。
途中オトスイの群れに遭遇したときには、“ここで僕の命も尽きるんだな”と半ば覚悟しましたよ。本当に……
さあ、今日も記術士としての責務を果たすとしましょう。
先生へ
お元気ですか。僕はずっと元気です。
「かかってこいやーーー!!!
ウォォォァーーーー!!!」
セドさんがあえて大声を出したんです。静かの森の最深部、オトスイの群れの中でですよ! 自殺行為ですって!
きっと僕たちにオトスイを寄せ付けないためなんです。どこまで優しいんですか? セドさんは。しかし彼は「気合を入れるためで、別にお前らを守ろうとしたわけじゃねえよ」と相変わらずの態度ですが。
オトスイは物理系吸血目のヒル型モンスターです。体長はカジキマグロとほぼ同等。しかも半透明で視認しにくい。
視覚や触覚(特に痛覚)が皆無で、その代わり聴覚だけが極端に発達しています。つまり音や声に反応して無差別に攻撃を繰り出してくるんです。あっ、先生には釈迦に説法でしたね。
従ってこの森では誰も声を上げない。物音をたてない。音を出したが最後、オトスイに血液を吸われ絶命することになりますから。
それがこの『静かの森』。静かなのは森というよりもむしろ侵入者である僕たち人間なのかもしれませんね。
さて、話の続きです。セドさんがオトスイの猛襲を受けます。四方八方、全方位からの一斉攻撃です。流石のセドさんでも全匹捌けませんでした。
その時です。
ネネさんが剣を振るい、セドさんに群がるオトスイを切り刻んでいくではありませんか。
加えて、ナスノさんも矢を“投じ”、幾匹かを仕留めます。その有様に僕は圧倒されました。やがてオトスイは全滅しました。
全身のあちこちをオトスイに噛みつかれ、血だるまのセドさんは言います。
「学術士さんよ、止血する草木、この森にあったりしねえか?」
セドさんはもしかしたら知っていたのかもしれませんね。デ・ブルーテスを僕がガラス瓶に採取していたのを。
今日はここまでにします。
それでは、また書きます。
〜 Reiben Denismerpa 〜
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