小説:狐010「狐と狼」(831文字)
リスト化コンサルタントのリスティーさん。小気味のよいトーク力でテレビのコメンテーターとしても活躍中だ。
挨拶と紹介(という名の営業)で顔を出しただけらしく、すぐに帰っていった。
本とチラシを私たちに手渡してから。
エロウさんがその新書のタイトルを指差して、
「『とにかくリスト化しなさい』だってさ〜、あはははは」
と冷笑する。
「馬鹿にすんな。まあまあ売れてるみたいだよ、前作の『全てをリスト化しなさい』。社会が求めてるんじゃね」
とアーマーさん。
エロウさんはレッドアイをゴクゴクと飲む。
「だとしたらさあ、何かこう、世の中が腐ってきてない? これ買って実践してる人いるの? アタシはこの手のビジネス書にお金は出せないねー。
自分で考えて、自分の力でここまで来たつもり。漫画の書き方、シナリオ作りから構図・タッチ、全部我流だからね」
エロウさんはいつも逞しい。エロくて逞しい。エロ逞しいのだ。彼女のその逞しさ。自律的で自立的なところは正直魅力だ。
そもそも“エロい”という様態も別に悪いことではないし、本来はむしろ良いことなのかもしれない。私も含め社会的催眠か何かによってエロスをタブーのように見なす人間が多いだけかもしれない。いや、エロスをタブー的位置付けとすることにより、隠されたモノつまり神秘性が担保されるのであり、だからこそエロスはエロスなのではないか。そんなことを考えているところで、更にエロウさんが続ける。
「人生なんて失敗していいのよ。あたしは何度失敗したかって話。仕事でも、男でも。
76ページ、“リスト化で失敗を回避する”? ダメダメ、もうその時点で失敗を恐れてるからダメだよ。失敗なんかどれだけしたっていいんだって。失望さえしなければいいの」
“失敗はしてもいい。失望さえしなければいい”
この言葉はエロウさんが言うからこそパワフルなのかもしれないが、その夜のハイライトには違いなかった。
そして話題はリスティーさんが置いていったチラシに移る。