小説:剣・弓・本017「反出生主義」
前話
【アンゲアティック帝国第二部隊長・ゲルステル】
「ネルケバよ。お前の術はサイコーだな!!」
オレは帝国領[邪術の部屋]のソファに深々と腰掛けている。セド・マァンに右手首を切り落とされたものの邪術士ネルケバにより邪手術を施された。
今ではこの右手首の先から意のままに3つの武器を繰り出すことができる。
・斧
・剣
・鉄球付き棍棒
「ネルケバよ。反出生主義を知っているか?」
「はい。存じております。 ……しかしながら、ゲルステル様からさような思想の話題が出るとは。少々驚きました」
彼の着ているローブは黄土色のはずだが、この暗い部屋では限りなく黒色に見える。
「オレのことを色ボケの野蛮人だと言うやつは多いよなあ。そう思わせておけばいい。グフフ。こっちは考え無しじゃあねぇんだよな」
「反出生主義……人間はこの世に生まれるべきではない。なぜなら生きることを巡る労苦はその幸福を上回るから。だから人類はいないほうがいいし、これからも増やす必要はない/生まれる必要はない、との思想でしたよね」
ネルケバはフードで隠れがちなその目を鈍く光らせながら言う。
「まあ、そんなところだ。
ネルケバ、お前は信頼できるからなあ。オレの根っこみてえなことをつい言っちまったな。
じゃ、オレは行くぜ」
「ゲルステル様、どちらへ?」
「ブファファ…… 単なる復讐だ。
調べはついてんだ。セドは【ダンジョンのミッション】へ行っている。
しかしなぁ、あいつは優遇されてるよなあ。オレ様に刃向かって死罪にならねえなんておかしな話だ」
「噂では王の子息だとか」
「ああ、聞いたことはあるぜ。エコヒイキってか? 仮にそうだとしてもあいつにはプレゼントしねえとなあ…… そう、死をな。
まずは首の骨をへし折って、それから身体を粉々に砕いてやるぅ!!」
(つづく)
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