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小説:狐002「ビール」(444文字)

 いつものカウンターに座り、「いつもの」と注文する。いつものカウンターというのは、店の最も奥のカウンター席で、マスターから見ると一番右手に当たる。「いつもの」注文というのは、野球のボール程の氷ひとつが浮かんだ中ジョッキビールのことだ。白い小皿でアーモンドも添えられている。これは毎回出るわけではない。振舞われる日もあれば、そうではない日もある。別の何かの場合だってある。今のところ、そこに法則性は見出せない。マスターの気まぐれならそれはそれで良かろう。ただこのまま通い詰めてその法則を解き明かしたい衝動がないわけでもない。
「ども」と手短に応対し、黄金色に輝くそれを身体に流し込む。いつもの動作を織り成す私は武道の型を演じているような錯覚に陥る。時間や空間、そして世間が消える。我欲の炎がみるみるうちに小さくなる。これが心地よくて定期的にここに来るのかもしれない。

「ナリさん、また薄めてんのか?」
 後ろの丸テーブルに座るスミさんが、球体の氷入りビールを指さしてぶっきらぼうに話しかけてくる。

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ジブラルタル峻
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