小説:狐003「スミさんとマニさん」(733文字)
「水で薄まったビールなんか美味くねえだろうよ。それになあ、ビールはそこまで冷やして飲むもんじゃねえんだ、ナリさんよお。日本人だけだろ、キンキンに冷やして飲むってのは」
美味しいか否かというのは個人の味覚に因るものであって……という話をスミさんにしても意味がないことを私は知っている。それに、まるで自分が日本人ではないかのような物言いだ。あるいはスミさんって実は日本人じゃないのかな。
別席で静観していたマニさんが口を開く。
「とりわけ夏、温暖湿潤気候の日本ではやはりキンキンに