化粧
私はヘアメイクを生業にしている。
と言っても皆さんが想像する様な華やかなものではない。
いや、十分華やかなんだけど。取り巻く環境や人々は華やか。
私のヘアメイクデビューはテレビ局だった。
なので必然的に雑誌の中のキラキラしたモデルさんではなく、テレビの中の敏腕な芸人さんやアナウンサーさん、タレントの皆さんであり、バラエティーや歌番組、また番組内で流れる再現VTRなどの仕事もしていた。だからちょっと特殊なメイク技術も体得した。
私の仕事の素晴らしさは、ひと様に喜んで貰える事。(そうできない時もあるが)
ある一般の方の結婚式のヘアメイクを頼まれた事がある。
いつもは事前に打ち合わせをし、後日メイクリハーサルをし本番に向かうのだが、その時はぶっつけで本番という段取りだった。
当日控室で新婦にお会いしてみると、皮膚疾患をお持ちの方で、触れると鱗状になった皮膚が剥がれ落ちてしまう状態だった。
それでも彼女が選んでいたドレスはデコルテも背中もガッツリと開いた素敵な一枚だった。
どんな気持ちでこの一枚を選ばれたか。絶対に綺麗にする。
私の出来る事は、自分の持つ知識をフルに活用し綺麗にする事。
本当にやりがいを感じたメイクだった。
もうひとつ。これは仕事ではないのだが、旅立つ方へのお仕度としてのメイク。死化粧。
昔から何故だか私は人の死に立ち会う事が多い。
友人や知り合い、親戚や家族。結構な人の旅立ちのお手伝いをしてきたと思う。
昨年長年の闘病の末亡くなった母にもメイクをした。この30年弱のヘアメイクの集大成と思える施術になったと満足している。
お棺に横たわる母のお顔を覗く参列者が口々に、若くて生きているみたいなお顔だわと言っているのが聞こえると、「母!聞いた⁉やったよ。オレやったよ!」やっと少し恩返しが出来た気がした。
明日、父のお仕度をする。
眉毛描きすぎて舞台役者みたいになりませんように。