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フリーマーケットのアルバイト

自転車操業という言葉がある。
言わずもがな、借金を返す為にまた別の賃金業者から借り入れる。
それの繰り返し。
私の20代前半は、まさにそれであった。
ペダルなどまったく見えない高速回転の競輪操業
頬を伝うこの涙は、借金の苦しみか、それとも瞬きしないだけか。

20代は多種多様なアルバイトを経験した。
そのひとつにフリーマーケットのスタッフというアルバイトがあった。
当時、スーパーマーケットの入口前に置いてあったフリーペーパーのアルバイト情報誌から見つけて応募した。

早速来てくれということで、早朝6時に現地集合。場所は結構有名な大きい公園。
太陽も顔出さぬ薄暗い中、デブめのリーダーみたいなのが偉そうに指図をしてた。
何にまず驚いたかってまだ寒いのにタンクトップ。白の。
大声出して指図するんだけど「わふわふー!わふわふー!」としか聞こえない。
受け手側は非常に高度なヒアリング能力が求められた。


なんとか搔い摘んで聞こえたデブリー(デブリーダーの略)の指示を受けて
私は大きい広場に駐車出店スペースを作る為、真っ白な石灰が入ったライン引きで、カラカラと線を引いた。運動会でよく見かけた例のアレだ。
遠くから微かに「わふわふー!わふわふー!」とまたデブリーの声が聞こえる。
ふむふむ。なんて言ってるのかわかってきた。
自分のヒアリング能力の高さに自信過剰になってしまいそうだった。

受付のテント内のデスクで、入場者用のお手製のバッジを作る。
完全に内職活動だ。
同じような動きをしばらくしてると眠くなってくるので、私はデブリーの行動をしばし観察した。とにかくよく動く。たいしたもんだ。
汗も凄いし、息切れのハーハーの音で、車のエンジン音を遮るくらい。
ひとり加湿器状態。タンクトップでいる理由がよくわかった。

am 8:00

オープンの時間が迫ってきた。
すでに車出店するお客さんが良い場所を確保すべく、入口付近には結構な車の台数が並んでいる。私はデブリーから、車を案内する役を命じられた。
すると突然、罵声が私の方に向かってきた。
「おい、まだか!早くしろコノヤロウ!」
これは参った。なんて質の低いお客さんだ。
何時間も待っているからなのか、完全にイラついてる様子だった。
お前の死へのカウントダウンが早くしろコノヤロウだ。
と心の中でつぶやきながら
これまでやったこともないような全力の笑顔で私は対応した。

「ニカッ!」

そんな仁義なき戦いフリマ死闘篇も終焉を迎え、無事にフリーマーケットは開催された。私は見回り案内役というポジションを指示され、周囲を徘徊。
鋭い目つきで警備にあたる振りをしながら、ほぼ個人的な買い物の品定めをしていた。他のアルバイトさんからの情報では、途中買い物しても問題ないとのこと。
なんていいバイトだ。


本当に様々なモノが売られている。
正統派の洋服屋からアンティーク家具屋から、お茶っ葉が入ってた空き筒など10円で売られてる。後者はむしろ買う人を見てみたい。
私は、絶対に使わないであろう工具箱を買ってしまった。なぜそれを買ったのか?
今この文章を書いてる状況でも、自分が理解ができない。

その時だった。
私のトランシーバーに緊急連絡が入った。
出店してる年配夫婦の腕時計(120万円)が盗まれたらしい。
私は現場へと急いで向かった。
現場に着くとデブリーが「フー!フー!」と息を荒げている。
夫婦は被害にあった状況を感情的にデブリーに説明していた。




本物かどうかわからないブランド服に身を包んだ推定60代くらいの夫婦。
店頭に出しておいた小物用のショーケースからひとつだけ腕時計がなくなっているとのこと。犯人はさっきまでずっと時計を品定めしていた、細い体系の推定40代の男だと断言している。

この緊迫感のある状況でも、デブリーの話し声は「わふわふー」としか聞こえない.。夫婦の話しを詳しく聞いた後、警察に連絡するという事で、私たちは一度受付へ戻った。アルバイトの人達は「なんか怖いねー」とヒソヒソ話していた。
こんな事はあまりないと言う。とんだ日に出くわしたもんだ。
しばらくして警察が2人到着した。
そしてデブリーと私で、ご夫婦の出店場所へ警察を案内しようとした時、男性が物凄い剣幕でこっちに走ってきた。ご夫婦の旦那さんである。

「腕時計があったんじゃ!!」

え?
皆、驚いたリアクション。
そして次に出てきた言葉が我々を驚愕させた。

「ワシが腕に付けておった!」

え?
2回目である。
ネタですやん。
警察も帰り、我々スタッフも安堵の表情と落ち着きを取り戻し、受付のテント内は平和な空気感に包まれていた。デブリーは疲れたのか「わふわふー」と小さくため息を漏らしていた。
そして無事にフリマが終了し、デブリーが日給1万円をくれた。

「1万円がなくなったんじゃ!!」

とでも言ってやろうか。
なんつっ亭🍜
しばらく私はフリマスタッフとして働くことになった。



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