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振り返れば

粗大ゴミのシールを求めて商店街を奔走していた。
自宅の中を隅々まで片付けているとどこで入手したのか分からない手紙、1〜2回しか会ってない、付き合っていたとも最早言い切れない人のおおよそ100ページにも渡るポエム集など全く身に覚えのない代物が続々と発掘される。
そいつらの出自を思い出そうと脳に垂らした釣り糸に余計な記憶ばかりが引っ掛かり、結果的に20代の反省と今後の改善点を考えましょうみたいな話し合いがいつ何をしててもここ数週間は付きまとうようになっていて、スーパーやホームセンターを梯子している間もそれは変わらずだった。
このままいけば自分の20代はクソだったという結論に落ち着いてしまう。
色んな嬉しい事、楽しい事、沢山の支えや少々のロマンスはあったものの、それにしたってという出来事のシェアがちょっと目にあまり過ぎる。
素敵なこれからを迎えるにはどうすればいい。
ここ数年の大体10〜20ほどの芳しくなかったトピックスを流し見で振り返って、良くも悪くも色んな事をむやみやたらに信じ過ぎた事、自分をかわいそうに見ているようで癪だけど素直でいすぎたのが基本の原因なのかななんて考える。
何でわざわざこんな事をしなきゃいけないのかマジで面倒くさいけど繰り返さない為にももうしょうがない。極端なくらい疑心暗鬼になってみるか、の「か」のタイミングぐらいで不意に肩をポンと叩かれた。
振り向くとシャツとジーンズにポニーテールの小柄な女性で、一枚のカードを差し出していた。その中身を読んでみる。

「あしたのせいかつひがないのでわたしがえらんだちんみをよかったらかってください。」

これはどっちだ?どうすればいい?
あまりに試されているようで手も足も出ない。
文字をゆっくり追っているフリをする等で時間を稼ぎ、その時間の中で猛スピードで頭を回した結果、何も買わずにその場を去る事にした。

粗大ゴミのシールを求めて商店街を奔走する。
無事に欲しい分だけ手に入れて、物陰から先ほどの女性を少し盗み見る。
色んな人にさっきのカードを差し出してはやんわりと断られている。
淡々と立ち去った事に対して既に若干の後悔が過ぎり始めていた。
少し考えた結果、財布から千円札だけ取り出してサッと渡してサッと立ち去る事を決める。物陰で諸々スタンバイして、やや小走り気味にバトンを渡すかのように千円を渡した。そのままのスピードで歩き出すもその女性もついて来ている。周りの目とその変な時間っぷりに早々に根負けして立ち止まった。じゃあこれ珍味です、と渡されたのは何の変哲もないウエハースだった。

これはどっちだ?どうすればいい?
見た目は本当にどこにでもあるようなウエハースで。
ただ「珍味」という前置きひとつでどんどん怪しい代物に見えてこない事もない。受け取ってしばらくしてもその人はお辞儀をしている。歩き始めても尚ずっと。
それすらも疑い始めればどうにでも捉えられて、どうしたものかなと考えていると名古屋のZIP-FMでスタジオライブのお話をいただいた。


そうして出させていただいた昨晩の「×MUSIC」。
思い出話だったりその時感じた事を話せばちゃんと伝わる、みたいな事を本当に隅々まで、それは打ち合わせから本番中、CMや曲がオンエアされている間のお話までの全てで感じさせてもらえて。
なかでもやっぱりライブを通して、自分がその瞬間に良いと思った間だったり歌い方で神原さんやリスナーの方をはじめ番組のスタッフさんやそれ以外のわざわざ見に来て下さった局の方から良かったと受け止めてもらえた事、このタイミングでそれを感じさせてもらえたのがとても救いで。
揺らぎがちな姿勢にひとつビスを打ってもらったようで背筋が少し戻ったようで晴々とした気持ちになった。何よりも凄く楽しかったし、もっと長く続けば良いのになと思う時間も久しぶりな気がした。
そういえば今日火曜日ですね、とスタッフさんに言うとその人がおもむろに電話をかけ始める。
「向井さん今日名古屋だって。」
少しの見学や挨拶の許諾等をその一本の電話で済ませて、息つく間もなく身支度を済ませ気付けばCBCラジオにいた。
もう会えないと思っていた人が目の前で話している。
何とも不思議な気持ちでいるのも束の間、ケツメイシの「小さな幸せ」が流れた瞬間に6月の出させていただいた際のお礼と初恋の悪魔の話、お身体に気をつけてくださいという言葉だけ握りしめてブースへ滑り込む。
それらさえ伝えられればと急いで伝えていると向井さんが「この後5分くらいどうですか?」と仰ってくださって、気付けば23時を過ぎてもブースの中にいてお話させてもらっていた。
話したい気持ちに沿って話すと何倍にもしてそれに応えてくださって、その向井さんの優しさに触れて、完全に背筋が伸びて気持ちが固まる。
このままで、自分なりに素直でいる事とする。そっちの方がきっと良い。
溢れるくらいの優しさが一晩に集まっていた。
それひとつでしばらく生きていける。


興奮はなかなか冷めなくてあんまり寝付けず、ちょっと重くなっていた肩凝りの為にもと入ったサウナで時間を潰していると意外と帰らなきゃいけない時間まで迫ってしまい、ほぼ何も飲まず食わずで新幹線に飛び乗って。
品川に着く頃には魔法がとけたように眠気と空腹が押し寄せて来て、命からがらに帰宅した後何も考えずウエハースを貪った。
何の変哲もない味で心から安心した。








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