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等間隔

身分証代わりに原付免許が欲しいなとはかれこれ2〜3年ぼんやりと思っていて、帰省する度に母からも「そろそろ取れば?」と薄っすら催促されていて、先月末に帰京してからようやく重い腰を上げるようにちょっとずつ調べ始めた。
どの程度の難易度なんだろうかとネットを調べてみると「常識があれば受かる」との事で、少しホッとしつつ試しにテスト問題に臨んでみると正解の数が半分にも満たず、己の常識に突き破るような疑いの眼差しをくべる始末となった。テスト問題を繰り返し、問題集を購入し、少しずつ常識を積み重ね、先日教習所へ向かった。
役所へ住民票を取りに行かなきゃいけないわ目的地が辺鄙な場所にあるわで朝から数キロ歩き、もう帰って良いんじゃないかと思いながら何とか到着。証明写真を撮り、視力を測り、受付へ向かうと試験の時間を告げられる。時計を見ると約3時間後。一瞬で途方に暮れる。
座れる場所はないかと校舎内をしばらく歩くも思ってたよりごった返していてなかなか席が見つからない。
どこまで歩いても年季が入ってくすんだ白の壁、色気のない白の蛍光灯、Airpodsを飛び越えて来る四方からの聞き取れない話し声からは逃れられず、それら諸々から気付けば黒板を引っ掻く音や病院の待合室といった何とも言えない記憶がゆっくりと等間隔に引き出され、少し気持ち悪くなり近くの公園へ逃げ込んだ。
言われるがままにバスへ乗り込んで道中も問題集を読んでいたからここがどこかを全く把握しておらず、何となしにGoogle マップを開いてみる。
馴染みのなくない場所が周辺にチラホラとある。それに夢中になってる間にさっきまでの気持ち悪さは消えていて、公園のベンチで「これが今年最後の夏かもしれないし」と惜しみながら日差しをモロに浴びて引き続き勉強した。ちなみに今月はもう同じ台詞とアクションを、同じ天候と日差しの下でずっと繰り返してて、例年よりも黒くなっている。今年の夏はしぶとい。

試験にはあっさりと受かり、そのまま免許証の写真を撮りに向かい、椅子に座ってレンズと目が合った途端にフラッシュが点灯、一瞬一度きりの撮影を終えてから4時間ほど実技講習を受け、日が暮れる頃に免許証を手に入れた。案の定ふてぶてしい表情の写真になっていたけど、これより酷い顔つきになっているのは疲れ具合からも何となく想像が出来た。
バス2本分の列に並んで、3本後にようやく乗り込む。
気が付けば眠っていて、降りる予定のない駅に急いで降りざるを得なくなっている。どうやらそもそも乗るバスそのものからして間違っていたようだった。
駅から少し離れた場所にあったその停留所から駅前のロータリーへ歩くにつれてちょっとずつデジャブに見舞われる。ああこれは。
アルバム作業で連日訪れていた街だった。
今年の1月から3月まで、徹夜は当たり前、最大で25時間作業、タクシーに乗り込むというよりは魚河岸のマグロのごとく車内に放り込まれて帰っていたあの街。ロータリーとは反対の出口側にあるタクシー乗り場を覗いてみるとピンク色の夕焼け。あの時期の朝方と全く同じ空の色だった。
同じすぎてロマンも萎えたというか萎れて、感慨にふけるのもそこそこに電車へ乗り込んだ。

最寄駅に着く頃には完全に外は暗くなっていて、その中で目を凝らしながら取れたての免許証を何度も見ていた。
嬉しいものは嬉しい。


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