ショートショート『しゃべるピアノ』
放課後。今日も私は学校で唯一の話し相手に会いに、
ひとり音楽室へ向かう。
ピアノの椅子に腰かけ、その日あったことを報告するのが私の日課だ。
「今日は英語で小テストがあってね」
「…小テストなんてあったんだ」
「そう、予習のおかげで満点だったの」
「…そっか…すごいね…」
「……ねえ、どうしていつも話しに来てくれるの?」
いつも相槌ばかりだった君が、初めて質問を投げかけてきた。
どうしてってそりゃあ…
「君のおかげで、私がいじめのターゲットから外されたからだよ」
*
卒業式。今日も私は音楽室へ向かう。
いつも見るに堪えない傷だらけの姿で
ピアノのそばでぐったりしていた君はもう、いないけど。
「…助けてあげられなくて、本当にごめん」
その瞬間、他に誰もいない音楽室で、ピアノが勝手にしゃべり出した。
「絶対に許さないから」