大阪のど真ん中でビール工場見学
大阪の繁華街といえば、JR大阪駅・地下鉄梅田駅・阪急梅田駅・阪神梅田駅・地下鉄東梅田駅・地下鉄西梅田駅などが集まる梅田周辺、通称"キタ"と、地下鉄難波駅・近鉄大阪難波駅・南海なんば駅・地下鉄心斎橋駅などが集まる難波周辺、通称"ミナミ"である。
では、"キタ"と"ミナミ"とは何から見て北と南なのか。それは「船場」である。
「船場」とは土佐堀川・東長堀川・旧長堀川・旧西長堀川に囲まれたエリアで、だいたい心斎橋駅・本町駅・淀屋橋駅・北浜駅・堺筋本町駅・長堀橋駅を含む範囲となっている。
江戸すなわち東京の「八百八町」に対し、大坂すなわち大阪は「八百八橋」と呼ばれていた。たくさん橋があるということは、たくさん川があるということ。たくさん川があるということは、船を使った水運で物流が盛んに行えるということ。その船着き場こそ「船場」であり、つまり「船場」とは物流の中心地であり、かつての大坂=大阪の本体そのものであったのだ。
まあ、そんな話はさておき、その「船場」の名を冠するクラフトビールができて、工場でそのまま飲める・工場見学もできるとのことで、行ってみた。
この「船場ビール工場」、元々は「ドルフィンズ」というベルギービールの店の堺筋本町店だった。
「ドルフィンズ」は世間がクラフトビールとか言い出すはるか昔、40年ほど前から海外ビールを輸入して出してた立派な店で、全盛期は大阪のあちこちに支店が点在していた。今は大阪の阪急梅田駅そばで「ドルフィンズ梅田店」と「焼鳥なかい」という店を営んでいて、当然そこではベルギービール中心に世界のビールを楽しめる。
リンデマンス・リーフマンス・サミクラウス・パウエルクワック・デリリュウム・ヒューガルデン・オルヴァル・デュベル・ロシュフォール・グーデンカルロス等等、ここで知って飲んだビールは数知れず。大阪のビール文化を間違いなく底上げした名店である。
そんな「ドルフィンズ」の堺筋本町店は、周辺企業の宴会を中心にやっているタイプの店であったが、2020年以降数年間宴会ができない時勢となりあえなく閉店。これを機に、やってみたかった自家醸造にトライして「船場ビール工場」として転生を果たしたと、そういうことらしい。
さて肝心のビール。
ペールエール(左)は柑橘系の香りとフルーティーさがあり、苦味よりは酸味寄りの味わいでライトに楽しめる。
ゴールデンエール(中)はアルコールの飲み応えがあり、しかし飲みにくいわけではなく、バランスが取れた綺麗な味。
ベルジャンブラウン(右)は焙煎した麦を入れることで、燻製のような香りと味わいにコクが出ている。しかし、苦味が強いわけではない。
いずれもフルーティーな香りとはっきりとした爽やかな酸味があり、これは使用している酵母が由来だろうか。好みはあれど、まず誰にも飲みやすいような仕上がりになっていると感じた。
ビール工場ということで、見学ツアーが営業時間中3回行われるので参加してみた。
見学ツアーは、まずビールの製造工程の簡単な説明があり、実際の器具(というかタンク)を間近で見ての追加説明といった流れ。とても清潔に保たれていた。
1バッチ300Lの仕込みで、ビールは販売用に瓶詰めされる他、この工場と「ドルフィンズ梅田店」「焼鳥なかい」で樽生の提供もあるとのこと。少量生産なので、いろいろ種類が作れて、かつ新鮮さを保って提供できて良いと感じた。
見学の後、定番以外の2種類のビールも飲んでみた。
限定1種目、ダークスパイスエール山椒。
鼻に抜ける目が覚めるような鮮烈な山椒の香りがあり、色に反して爽やかな飲み口。「船場ビール」持ち味の酸味が利いていて、コクもある。大変おいしかった。
限定2種目、船場ブラック。
こちらは見た目通り、黒ビールの焙煎麦の風味が楽しめ、味わいも濃い麦茶やコーヒーを連想させるようなもの。コクがあるが、しかし重すぎず、こちらもよかった。
どれも説明書きとほぼ変わらないようなテイスティングコメントになってしまったが、それだけ「ドルフィンズ」仕込みの説明が正確だということで、ひとつ。
大阪中心部のビルの脇の地下に進んでいったらいきなり現れるビール工場。
アクセスはかなり良いところにあるので、ぜひ行ってみてはいかがだろうか。