「ジョーカー フォリアドゥ」が前作以上の傑作である4つの理由

はじめに

世界的大ヒットとなり、社会現象ともなった「ジョーカー」の続編として、満を持して公開された「ジョーカー フォリアドゥ」だが、公開初日から興行収入を前作と比べ大きく落としている。またこの成績は同じアメコミ作品のジャンル内で、過去最低と悪名高い「マダム・ウェブ」をも下回る勢いだと予測されている。

主演にホアキン・フェニックス、監督にトッド・フィリップス
という前作「ジョーカー」の製作陣に加え、世界的歌姫レディ・ガガが参戦した本作は早くも「駄作」、「必要のない続編」、「ファンへの裏切り」などといった声とともに低評価をつけられている。

しかしながら筆者の評価は、世間一般の酷評とは異なる。むしろ今作を前作以上の大傑作であると感じているのだ。

そこで今作の前評判を訊いて、劇場鑑賞を迷っている人や、鑑賞しても今作の良さがわからなかったという人向けに、具体的なネタバレは控えつつ「フォリアドゥ」の簡単な解説を加えながら、本作の魅力、前作越えの大傑作である理由を説明していこうと思う。


大傑作な理由①

本作に込められたメッセージの健全さ

本作が前作越えの大傑作である理由の1つ目にして、もっとも大きな要素はこれだ。
「ジョーカーフォリアドゥ」は、前作が社会に与えた影響を真摯に受け止め、表現者として、創作物に対する社会への説明責任を果たした、道徳的で意義のある作品である、ということだ。

より具体的に説明するとだな、前作「ジョーカー」で監督は、それまでの映画、とくにノーラン版バットマンでヒースレジャーが演じたジョーカーでピークを迎えたといっても過言ではない、天才犯罪者、悪の超人、カリスマスターとしてのジョーカー像を覆してみせた。
つまりジョーカーのオリジンとして、貧困や障害に苦しむ弱者キモキモ男性「アーサー」を設定し、その弱者が周囲の人間や社会からの無理解によって、怒りを蓄積していった結果、暴走し、無敵の人的殺人者に変貌する様を描いたんだ。
ジョーカーはこの物語によって、正体不明のカリスマヴィランから、自分たちの町にもいるかもしれないという恐怖を感じさせる、よりリアルな存在になった。
この展開は多くのジョーカーファンを驚愕させつつも、アメコミに縁のない圧倒的多数の一般層や批評家層の人気を獲得することに成功したわけだ。

ただし成功の光の陰に生まれた闇もあった。
前作で監督が伝えたいメッセージは、「生まれついてのカリスマ的天才犯罪者などいない、弱者への無理解・非寛容が究極の悪を生み出す。だからジョーカーを生まないために恵まれない人にも優しい社会を作りましょう」というハリウッドの知識層に響く、非常に道徳的でモラルある忠告だったはずだ。

しかし現実には、このメッセージが理解できず、アーサーへの共感とカオスへの興奮だけで前作を誤って評価する社会的弱者が多く発生した。前作でアーサーがジョーカーに成り上がったように、「社会的に何も持たない自分のような人間も一念発起して暴力を行使すれば、スターになれるんだ!金持ちを殺せ!」という主張を持ち、実際に犯罪に走る者が現実に現れてしまった。

そのような社会への負の影響を目の当たりにして、監督はじめ製作陣は再び立ち上がってくれたわけだ。
前作に起因するカオスを生み出したことへのけじめとして、勘違いしたジョーカー支持者に向けて、誠実に映画づくりでアンサーする。これぞクリエイターの鑑といえる。なんて責任感溢れる、慈悲深い製作陣だろう!
誰もべつにジョーカー的犯罪の責任を、監督個人に求めたりしていないのにも関わらずだ!
トッドフィリップス監督、「ジョーカー」以前の代表作が「ハング・オーバー!」と、ばからしいコメディであるということから、ここまで自分の作品に対する責任感や誠実さ、自意識のある監督だと正直思っていなかった。見直した!

だって前作から5年も経ってるんだぞ!これは映画造りが大変だってことでもあるけど、それにしたって最近ジョーカーの模倣犯なんていたか!?みんな忘れかけてただろ!
なのに、勘違いファンへのアンサーとして、もしくは前作を正当に評価した人にとっては答え合わせのためだけに、莫大な製作費をかけて、本来必要なかったはずの映画を丸々一本作ってくれたんだぞ!そのおかげで観客はまたホアキンの素晴らしい演技を見ることができた、まじでありがたい話だろ!

ともかく本作「フォリアドゥ」で監督は、前作で持ち上げたアーサーを、再び引きずり下ろす。
それは悪党の成功と破滅を描く「ピカレスクロマン」と呼ばれる作品ジャンルにおいて、典型的な王道展開であり、作劇法として圧倒的に正しい描き方だ。

本作では、アーサーの後悔を通じて、いっときの激情で犯罪を犯すことの愚かしさと、一線を越えて悪に堕ちてしまった人間が享受しなければならない過酷な環境を描くことで、「悪いことをした人は地獄に落ちます、だから自分のちっぽけさを認めて、世界を変革できるなんて勘違いはやめて、犯罪とかしないようにしましょう」という、至極まっとうなメッセージを、前作のジョーカー信者に訴えかけるわけだ。
本当に監督をはじめ製作陣のモラルが素晴らしく高い!
現代の中学校の道徳の授業で扱ってもおかしくない、というか扱うべきレベルの物語になっている!

「ジョーカー」は本作を持って、美しく物語を閉じた。裏を返せば、(そして今にして思えば、)前作は映画として未完成だったともいえる。
みんな小説でもドラマでも前編だけ観て、やめるなんてことがあるか?
読書感想文でも、最後まで読み切った人に書く資格があるだろう。
前作ジョーカーを観て、本作フォリアドゥを観ないのは、前作を観たと言い切ることもできないはずだ。


前作に対する本作の位置づけ、そのメッセージの正当性・健全性という観点ひとつとっても、今作が前作以上の傑作であるということは明らかだな。

大傑作な理由②


主演、ホアキン・フェニックスの圧倒的な演技力


これについては他の凡百も評論家も褒めているから、多くの観客も理解していることだろう。
とにかくホアキンの演技は最高だ。前作で披露した肉体的なアプローチを、今作でも完全に再現している。あのガリガリで気持ちの悪い肉体!不健全な肉体に宿る不健全な精神をすさまじい説得力で表現する。劇中ホアキンが笑ったり、泣いたり、その一挙手一投足が真に迫っており、観るものの心を揺さぶるじゃねえか。
オマケに今作の展開では、ホアキンは裁判中ずっといじめられ通しで、前作以上に救いがない。
厳しい現実を前にして、唯一の心の救いが歌であるっていうのは、悲しくも素晴らしい芸術賛歌だよな。
そんな過酷な状況でもホアキンは遂には現実と向き合うことを決めて、自分が傷つけた人々への後悔を告白し、罪を認めたじゃないか。なんて愚かで、でも美しいヒューマニズムなんだよ!
マジでずっとホアキンが可哀想で、人並みの人情があるやつなら、ホアキンを応援したくなって当然だろ!報われず、貶され、見下され、気持ち悪がられる、演じても本人のイメージアップにひとつもつながらない役を頑張って演じたホアキンの役者魂を想えば、それだけでも本作は前作越えの大傑作と扱われてしかるべきだな。

大傑作な理由③

映像の美

続けてもうひとつ、みんなからの共感を得られやすい理由を述べよう。
とにかく映像、カットや構図が美しくて、重厚感があるよな。邦画や日本のドラマと比べれば一目瞭然だろ。資本や技術の差、厚みを感じるねえ。なんで邦画はどれもこれもドラマコントの延長みたいな軽い画しか取れないのか、情けなくなるぜ。前作に続いて、今作もどのシーンを切り抜きにしても、映画だなと感じられる美意識の高いカットの連続で構成されている。

大傑作な理由④

世界的アーティストによるミュージカルシーンのすばらしさ


この観点については、わかってない評論家の意見に反論する形で語ってやろう。

みんなホントバカのひとつ覚えみたいに「歌うな、歌うな」ってそればっかりだな!
マジで言ってんのか!世界の歌姫レディ・ガガ様と一流俳優であらせられるホアキン・フェニックス様が歌いまくるんだぞ!
もっと有難がれよ!二人の歌が聴けるだけで、チケット代以上の価値があるだろ!
「歌いる?」じゃねえよ!ミュージカルパートなんてなんぼあったって困りませんから!

自分のYOUTUBEやXで映画感想垂れ流してる連中なんて、どーせ上手いことポイント使って、定価より安いか、下手すりゃ試写会に呼ばれてタダで観てるんだろ?それがよくもまあ、ミュージカルシーンが退屈とか言えたもんだよ。
お前らは普段からタダでホアキンとガガ様のカラオケに連れてってもらえるのか?
「ミュージカルパートのせいで、話が長くなってる」なんてやつもいたな!
映画なんて90分で120分でも料金同じなんだから、上映時間が長ければ長いほど嬉しいに決まってるんだよ!
制作者にしたって、同じ値段で長く撮るメリットなんてないのに、観客にサービスして、一秒でも長く、スターを見せてくれてるんだぞ!やさしさしかないよな!

お前らが言ってるのは、牛丼頼んだら、オマケで霜降りステーキまでついてきたのに、「いや~別にステーキ欲しいと思ってたわけじゃないし~」とか言って、強がってるのと同じなんだよ!ちゃっかり食うくせによ!

普段「オモウマイ店」とかみんなありがたがってみてるじゃねえか。トッド・フィリップスは利益度外視で頼んでもないのに爆盛りにしてくる食堂のジジイと同じなんだよ!
「ステーキいらなかったすね」じゃねえんだよ!「ごちそうさまでした。お腹一杯になりました、ありがとうございます、また来ます」だろうが!もっとありがたいと思え!罰当たりがよ!
「ミュージカルパートが入るたびに眠たくなりました」じゃねえよ!もっとガガ様の歌声に聞きほれろよ!集中力ねえな!

それにジョーカーはアメコミ的にいえば、トリックスターで道化師、なんだろ!
だったら狂気的に歌うのはキャラとして自然じゃねえか。
俺から言わせれば、むしろなんで前作にミュージカルパートがねえのか疑問だな!監督も前作でホアキンにも歌わせとけば、こんなバカな感想持つやついなかったんだよ!


おわり


以上、「ジョーカー フォリアドゥ」が前作以上の傑作である理由を4つの視点から述べた。
この視点を持って、本作を鑑賞すれば、その面白さを正当に評価できるはずだから、これから観るものは勿論、一度観てつまらないと感じ人も、何度でも観ることを勧める。
俺は一発で理解できたから、もう観る必要ないけど、わかってないヤツは何度でも観ろ。
映像が美しくて、演技がすさまじくて、歌がうまくて、メッセージが素晴らしい、こんな作品が駄作なわけがねえだろうよという話だ。

とにかく今作「フォリアドゥ」を観ずには、翻って前作「ジョーカー」を語ることもできなくなった。必見の大傑作である。興行収入の悪さから早くもレンタル落ちが噂されている今作、しかしスターの競演を大スクリーンで観る映画体験は劇場ならでは醍醐味である。ぜひ一人でも多くの人に足を運んでもらい、劇場で鑑賞してほしいと思う次第である。(終わり)


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