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元カレを呪う

わたしが自分のことを最低だなって実感することの一つに元カレの名前が思い出せないってことがあるんだけれど、これ友達にも嘘でしょって引かれるんだけどマジ。
愛称なら覚えてる人もいるし、愛称さえ忘れてる人もいる。なんて呼んでたんだろうってたまに寝る前に考えて思い出せないまま寝ちゃうことよくあるし。

そのくらい人でなしのわたしでもフルネームを絶対の自信で覚えてて呼べる人が1人だけいる。

すごく好きで、けど一緒にいると苦しい人だった。
こうも価値観が違うのかと、何度も思った。
こんなに好きなのに、ずっと一緒にいたいのに、ずっとの先が全く見えなかった。
いつか別れるだろう。いつか別れるだろうってそんなことばかり考えてた。
好きだと言われることが嬉しくて、けれどその倍くらい息苦しかった。

それなのにキラキラしてる。
本当に人間がキラキラして見えるなんてことがあるのだと感心しながらキラキラしてる彼を見ていた。
一緒にキラキラしているような気さえして、彼といるときの全てが輝かしく楽しかった。

思い出がありすぎる。
ふだん名前も覚えないほど元カレになった途端に興味も関心も記憶すらなくなるのに、彼のことはよく覚えてる。
電車で2時間半の距離。わたしの最寄りの駅は無人駅で、待ち合わせは新宿南口か高円寺駅。
初めて一緒に食べたのは中華だった。初めてデートしたのは水族館だった。その日いっしょに泡盛を飲んだし、帰り道に付き合おうって言われた。歌舞伎町でミニシアターを観て、カラオケではしゃぐ彼が2回わたしのジントニックを倒してグラスを割った。隅田川の花火も、阿波踊りを見たことも、そこで食べたかき氷も、クリスマスに新宿から高円寺まで歩いたことも、恵比寿で飲んだビールも、井之頭公園で一緒に歩いたことも、喧嘩して帰るって反対に歩き始めたわたしをちゃんと追い掛けてきてくれたことも、高円寺駅前のコーヒー屋で別れる話をしたことも、そのあとすぐにやっぱり戻りたいと言って電話してきたことも、そうして、傷つけるだけ傷つけて本当に終わったことも、全部覚えてる。
彼には信じてもらえないかもしれないけれど、とてもとても好きだった。

あんなに傷つけて終わらせたくせに、今でも幸せを願うくらい好きだった。


ここまで書き散らかして、気付く。ふと。
わたしが彼を覚えてる理由って、わたしと彼がイーブンじゃなかったからだって。
名前も覚えていない元カレたちは、わたしも悪いとこいっぱいあったけど、そっちもまぁまぁ酷かったよね?と落とし所があるのだ。だからもう琴線に触れない。けど彼は、ちがう。
彼がどう思ってるかは知らない。
けど、理由らしい理由も言わず、消えるように彼の前からいなくなった。
それでも彼は恨み言なく、さよなら!と一言彼らしいメールを最後にくれた。

貰うものが多すぎて、返せたものは少なすぎて、だから好きでいることくらいしかできなかったのに、いつしかそれさえ苦しくなって、そうして逃げた。

最後まで不平等だった。わたしだけが幸せな恋だった。思い出にして、好きだったと振り返り、今でも幸せにと願うようなアンバランス。

彼の名を思うときに、同時に湧き上がるのは罪悪感なのだ。


どうか幸せに。どうか幸せに。どうか幸せに。


願いや祈りと言うより、もはや呪い。

可愛くて優しい子が彼の隣にいたら良い。
今日も愛し愛され笑っていたら良い。

どうか、幸せに。

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ぐぐこ
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