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bitter.
私と幼なじみは、恋人という関係にどうやらなっている。と、思う。
互いに、好きだとか付き合おうなんて言葉は交わさなかったし、今後も交わす気はない。少なくとも私は。
幼なじみが誰と結婚しようが、あるいは恋愛しようが、はっきり言えば私には到底無関係なのだ。
幼なじみが一言「会いたい」と言えばどこへだって会いに行く。
たったそれだけの気持ちしか、私にはない。
恋人だろうが、夫婦だろうが、友達だろうが、セックスフレンドだろうが、なんだって良い。
幼なじみが、男だろうが女だろうが、それさえどうだって良い。
どうだって、良い。
幼なじみが誰かと結婚することを狼狽えないと薄情なのかしら。
泣いて縋ることが愛ならば、私は幼なじみを愛してない。
涙を堪えて身を引くことが愛ならば、やっぱり私は幼なじみを愛していない。
ずっと同じことを思ってるし、言っているんだけれど。私もうこの人からは何にも欲しくない。
何にも要らない。
それと同じだけ、私ももう何にも与えてあげられない。これ以上なんて一つもないのだ。
この気持ちを愛ですねと言われるとピンと来ない。
依存ですよ、と諭されても「はぁ。そうですか」と思うだけだし、
執着でしょ?と尋ねられたら「だったらなんだと言うのですか?」と逆に質問する。
だって、なんにも不都合がない。
倫理観とか、常識とか、世間体とかは、きっと私を悩ませて傷つけるだろうし、私だけの傷で済めば良いけどそうも行かない事情になることも想像できる。
けど。やっぱり。
そうだとして、なんだって言うのだろう。
私は、タチが悪いことに、幼なじみを愛していると言うよりは、幼なじみとのこの関係をどうしようもなく愛している。
幼なじみが望むなら、なんだって甘受しようと思うくらいには大切にしてる。
笑っていて欲しい。
出来れば近くで。
それが無理なら、笑っていられる相手と場所で。
私が願うまでもなく、きっと彼はそうするだろうと心の底から信用してる。
「だからね、そんな辛そうにされると鬱陶しいんですけど」
「鬱陶しいって貴女。言葉の選び方」
「鬱陶しいし、辛気臭いし、鬱々としてくるし」
「ただの悪口」
悩まなくって良いのに。
変わらず、まっすぐの道から溜め息ついて、名前を呼んでくれたら「はい」って返事して行くのに。いつもみたいに。
「それにね」
可笑しくって言葉にする前に笑ってしまう。
怪訝な顔の、その輪郭を手で撫でる。髭、少し痛いな。
「離れて耐えられないのは、きっと、私よりエイジくんだと思うよ?」
「仰る通りです」
「何を悩んでるの?」
「悩んでないよ。カッコ悪すぎて嫌なだけ」
ほんと、可笑しい。
「私、エイジくんのこと結構好みじゃないんだよね」
「え?」
「え?好みだって言ったことあったかなぁ?」
「ない、けど…」
「うん。なんか育ち良さげな見た目も、賢いところも、キッチリしてて外さないところも」
ふふ、とやっぱり言いながら笑っちゃって言葉が続かない。
鬱陶しくて、辛気臭くて、鬱々としちゃって。
「ふふ。いちいち鼻について好きじゃないの」
「なに?殺しにかかってるの?」
「好きじゃないのに好きって強くない?」
どんなに酷いことされたってきっと好き。
あの日のあの言葉は伊達でもなんでもなくて本心だもの。
なんにも。一つも。
いいじゃん。
「今年のチョコレートはザッハトルテにしようかな」
「ビターなのが良い」
「うん。珈琲も飲もうね」
珈琲の苦さとチョコレートの苦さを想像してうっとりする。
子供のころ、恋焦がれるような苦さがあるなんて思いもしなかった。
だから。この苦さだって、いつかもしかしたら、心地好く飲み干せるんじゃないかな。
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