Femme fatale 邂逅 けれど最後は結局蝉に倣え。
恋愛はもう懲りたよ、とその人は言った。
あなたは懲りないと思う、と少しだけ笑って私は言った。
あなたは優しいから、と何度も忠告したんだけどなとちょっと思う。
優しい、という言葉に棘が足りないのならば、
「人からの好意を同等の好意で返そうとするその姿勢」は紛れもない優しさではあるけれど、単なる悪癖だ、と大して優しくもない私は思ったりする。
そうありたい、と自身で選び取ってきた自覚、ないのかしら?
私が苛烈ならば、あなたは痴情の人だ。
色情にまよう人、なんて言ったらまた「嫌い」って言われてしまいそうだけれど。
色にまようなんて素敵、と私なら思うな。
とりどりなのだから好きな色を掴めば良いのに、それでも迷うんだろうね。
極彩色を極めたような世界で、ただの一色も選べずに「贅沢な悩みかな」とまた悩むその人は、きっとそれでも無彩色を羨むことはあっても焦がれたりしないんだろう、と思う。
ないものねだりの苦しさならば私だって負けはしない。
いつだって零れ落ちる私の手と、いつだって迷うあなたの手、どっちがマシかな?
私はね、どっちもイヤ。
どっちもすごくバカバカしいし、なんていうか控えめに言って「冗談じゃねぇ」ってなるじゃない?
だから。私がちゃんと掴めたら、それをあなたに見せてあげたいし
あなたが迷いながらも掴んだものがなんだったのか、わたしは知りたい。
買いかぶりかもしれなくてもね。
梅雨が終われば蝉が鳴き出すだろう。
コンクリートの下で羽化できずに死んでゆく蝉に、ふと思いを馳せる。
驚くほど運任せなその生涯に、私は少し憧れたりもする。
運良く羽化しても、数日の求愛行動が、晴れか雨かもまた運任せだ。
それでも蝉は夏ごとに邪気のない大合唱を繰り返す。
もちろん、今年鳴く蝉の中に去年鳴いた蝉はどこにもいない。
懲りなくて良いじゃない
独りごちる。
潔いほどの運任せで、懲りずにいたい。
私はまだ身の程知らずでありたいわ。