「あの風」は、ひとりひとりの心の中に ~「ジョナゴールド / 祭のあとの、あの風は」
1 いろいろな「風」
この曲のタイトルを見たとき、和田アキ子さんの「あの鐘を鳴らすのはあなた」のように、「あの風」が何回も出てくるのかと思いましたが違いました。
この曲に「風」という文字は8か所で出てきますが、タイトルと同じ「祭のあとのあの風」は1回しか出てきません。
では、「風」が登場する歌詞の部分とそれがどんな風なのかを見てみます。
祭のあとの「あの風」(1回):なんとなくさみしい気持ちにさせる
祭のあとの「その風」(2回):この街の季節を変えていくみたい
「この風」(3回):君を思い出す
※「祭のあとの」が付いていませんが、文脈から考えてこれも祭のあとの風だと思われます。
何も付かない「風」もあります。
ただし、風全般を表すものではなく、祭のあとの風と解釈するのが良いと思います。
「風」(2回):①ふたりをすうっと切り離す / ②君がいるところ(風の中の君)
※YouTubeの字幕で「夜をかけてゆく」と「風」が離れていたので、何もつかないに分類しましたが、「夜をかけてゆく風」=「祭のあとの風」ととらえることもできます(その方がよいかもしれません)。
※②の風が①の風と同じだとすると、「ふたりを切り離した祭のあとの風の中にいる君」ということになります。
風という文字を用いずに、風への思いを表現する歌詞もあります。
ただし、これも風全般を表すものではなく、祭のあとの風と解釈するのが良いと思います。
「(風)」:憂鬱な気分を吹き飛ばしてほしい / 君にこの想いを全部伝えてほしい
2 「この / その / あの」の使い分け
一般的に、話者からの距離で、近い順に「この < その < あの」になります。
歌の中の主人公の立場で考えると、
(祭のあとの)「この風」:祭りが終わって、今まさに自分に吹いている風
祭のあとの「その風」:祭のあとにいつも吹く風
祭のあとの「あの風」:あの祭のあとの、あの時の風
という感じかなと思います。
(物理的な距離というより、時間的な距離かもしれません。)
聴き手の立場で考えると、自分が自由に解釈できる幅が順に広くなっているということができます。(図参照)
また、共通認識のある事柄について話すときに、「あの」が使われます。
共通の思い出を持つAとBに、アナウンサーCがインタビューする場面を考えてみます。
A:あの時は大変だったなあ。
B:あの時は今みたいに携帯がなかったからなあ。
C:あの時のことをもっと詳しく教えてください。
思い出を共有しないCが「あの時」と言うのは何か変ですね。
正しくは、「その時のことをもっと詳しく教えてください」だと思います。
3 「あの風」は、ひとりひとりの心の中に
これまで見てきたとおり、
「あの風」は
・聴き手が自由に思うことができ、
・歌の世界の主人公と思いを共有できる
風ということができると思います。
「その風」「この街」「この風」は、歌の世界の中にあります。
聴き手が、
どんな風なんだろう?
自分の街の祭のあとに吹く風と同じなのかな?
などと思っていると、不意に「あの風」という歌詞が聴こえてきます。
あなたも覚えているでしょう。
あの時に吹いたあの風ですよ。
私はあなた、あなたは私。
あなたも歌の中の世界にいるのです。
と言ってくれているように感じます。
ためしに、「あの風」の部分を「この風」「その風」に変えて歌ってみるとニュアンスが違って聴こえると思います。
(私の感覚で書いているので、違って聴こえなくても全然問題ないです。)
「あの風」は、「その風」「この街」「この風」がある歌の中の世界と、聴き手がいる現実世界や聴き手の思い出の世界をつないでくれます。
『祭りのあとの、あの風は』を聴くたびに、自分の心の中で、過去から現在、そしてこれからもずっと吹いている風のことを思い起こすでしょう。
おわり
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