RINGOMUSUME・「想い」
1 「それって青森県のためになるのか」(多田慎也)
2021.7.24放送のFM青森「多田慎也 Project Apple POP」で、多田さんが「RINGOMUSUME NEWアルバム『Eternity』をメンバーに代わって僕が解説するぞ」というテーマで裏話などをされていました。
その中で、多田さんがRINGOMUSUMEの本質に関わることをお話しされていたので紹介します。
弘前に移住してRINGOMUSUMEの楽曲制作を担当して、今までと一番何が違ったかというと、曲の良し悪しだけじゃなくて、「それって青森県のためになるのか」というところが必ずテーマにあること。
音楽の良し悪し、歌詞の良し悪しだけじゃなくて、コンセプトとかテーマの良し悪しをメンバーと語り合いながら、作れているのが、僕が今までに経験したことのない作曲の手法で、それが青森で音楽活動をしてよかったなと思える理由です。
例えば青森の「じゃわめぐ」「ジガジガ」「嶽きみ」だったりとか、それを言葉遊びで、でも青森の人だけが楽しめるのではなくて、全国の人もそれを知ったらへーそうなんだって楽しめるようなものにしていくとか、青森の文化を紹介していけるのはすごく面白い。
そんな背景が必ずあるのが、RINGOMUSUMEとのクリエイティブワークでした。
それをぎゅっと詰め込めたのがこのアルバムだと思っていて、僕も新参者ですけど、だからこそ見える青森の良さということをメンバーと話し合いながら作れたアルバムなんじゃないかなと思います。そのへんを聞いていただけたら嬉しいなと思います。
(FM青森「多田慎也 Project Apple POP」(2021.7.24放送)。要約しています。)
こんなに「青森のため」というテーマとかコンセプトを大事に曲作りがされているのですね。ほかの芸能の仕事の現場とは少し違っているようです。
「Eternity」に収録された10曲も、曲調などはバラエティーに富んでいますが、それでもどこか同じ色を感じるのには、こういう理由があったのですね。
2 もはやアイドルという言葉では説明しきれない(りんご飴マン)
私は多田さんの話を聞いて、りんご飴マン(※)が「りんご娘をご当地アイドルと呼ぶのはもうやめようと思った話。」で語っていたことを思い出しました。
ちょっと長いですが、引用します。
(※)RINGOMUSUMEのMVの企画・制作にも携わっている下田翼さんです。
国民的アニメソングカバーコンテスト「愛踊祭」では地元から大きな支援を受けWeb予選を突破し、東北代表として決勝大会に進んだだけではなく、全242組の中から見事優勝してしまった。
(略)
あらゆるメディアで賞賛される彼女たちをテレビやSNSで見ていると、いつか地元を離れてしまうのではないか、故郷を忘れてしまうのではないかと心配する声も聞こえてきそうな勢いだ。
(略)
4年前、僕はりんご娘のことを「ご当地アイドル」と呼んでいた。(略)
しかし、4人それぞれのストーリーを知ると同時にそのイメージはこの4年間で大きく覆され、もはやアイドルという言葉では説明しきれなくなっていることに気づく。
なので僕は、勝手に決めているだけだが、りんご娘のことを「ご当地アイドル」と紹介するのはもうやめようと思っている。(誤解のないように申し上げるが、決してご当地アイドル自体を批判するものではない)
青森県の農業活性化、地域活性化を目的とした壮大なプロジェクト。楽曲もMVも、東京も台湾も、そしてアイドルという活動さえも、全ては青森のりんごを、青森の魅力をみんなに伝えたいという想いから生まれていることをもう一度伝えたい。
そして、そんな大きなミッションを背負い、地元に貢献しようとしている彼女たちを心から尊敬し、これからも一人の友達として、ファンとして応援し続けたい。
そんな気持ちにさせてくれて、ありがとう。
多田さんも飴マンさんも青森県出身ではありませんが、「青森の魅力をみんなに伝えたいという想い」に心の底から共感しているように思います。
では、どうしてその共感が生まれているのでしょうか。
3 RINGOMUSUMEの「本気」
RINGOMUSUMEのメンバーは、さまざまな場面で「青森愛」を語っています。
たとえば、こんな記事 ↓
この記事のタイトルにもあるように、どうしても「津軽弁&天然トーク」に目が行きがちで、彼女が語る「青森愛」はようやく取り上げられ始めた感があります。
それもあまり理解されていない状況もあって、「ビジネス訛り」「青森愛をやらされている」みたいな声を散見すると、とても残念に思います。
ただ、そういう状況もある意味仕方のないことかもしれません。
青森県の農業活性化、地域活性化を目的とした壮大なプロジェクト。
地方の弱小芸能事務所(しかも本業は自動車販売)にはそぐわない大きな目標、「夢物語」であり、どこか現実味を感じられない人が多いことも確かでしょう。
しかし、多田さんが、「曲の良し悪しだけじゃなくて、『それって青森県のためになるのか』というところが必ずテーマにある」と語ったように、制作スタッフからメンバーまで「青森愛」で貫かれています。
みんなが一体となってその「夢物語」に本気で取り組んでいることもまた事実なのです。
その一体感を生み出している原動力は、いったい何だろうと思って色々とヒントを探しているうちに、しっくりくる考えに出会いました。
糸井重里氏(コピーライター、(株)ほぼ日社長として、様々な企画を展開している)と唐池恒二氏(JR九州代表取締役会長、豪華列車「ななつ星」の生みの親)との対談です。
唐池 「ななつ星」に乗られたお客さまも、3泊4日のご旅行中に、やはり3回か4回、みなさん感動して涙を流されます。
わたしもはじめのころは「なぜだろう」と思っていました。でも、最近はその理由が、なんとなくわかってきたんです。
「ななつ星」という列車には、デザイナーの水戸岡さん、列車をつくった職人さん、客室乗務員や社員などの、思いとか気持ちとか、これまでかけてきた時間や手間が、「気」というものになって、ぎっしりとつまっているんです。
(ほぼ日刊イトイ新聞HP「人がすることを、人はよろこぶ。」第1回「『ななつ星』というメディア」)
糸井 唐池さんは「気」という言葉を使われていましたが、ぼくはそれを
「人々の思いと、それにかけた時間のかけ算」のように感じています。
いまの世の中って、どんどんムダをなくして、効率を良くしようという時代です。
「人間がやらなくてもいい」とか「面倒なことは機械にさせて、人間はもっとクリエイティブなことをしよう」という時代です。
でも、そういうムダに見えるものを、どんどん省く時代だからこそ、「手間をかけた集積のところに、人は集まってくる」ともいえるんです。
(ほぼ日刊イトイ新聞HP「人がすることを、人はよろこぶ。」第3回「手間をかけない時代に」)
多田さんや飴マンさんやその他の多くの関係者が心を動かされ、「青森のために」という思いを共有して一緒に活動してくれる原動力は、20年間も受け継がれ、積み重ねられてきたRINGOMUSUMEの「本気」が生み出す、ものすごいエネルギーなのだと思いました。
そして、そのエネルギーに私自身も引き寄せられてしまったのだと。
もう、これは理屈ではなく、「本気」には人を動かす力があるとしか言いようがありません。
4 RINGOMUSUMEのこれから
りんご飴マンが「いつか地元を離れてしまうのではないか、故郷を忘れてしまうのではないかと心配する声も聞こえてきそうな勢いだ」と書いたのは、2017年です。
そこからさらに4年が経過し、青森県の枠を超えた活動がさらに増え、その知名度は全国区になっています。
青森県民からすれば、ますます遠い存在になりつつあるのは間違いないと思います。
これまでのように、気軽にスーパーの店頭に立って、りんご販売のお手伝いをするなんていうことが難しくなっていくかもしれません。
王林さんはアナザースカイで「元々青森が好きで入ったわけじゃなかった」と言っていました。そんな彼女がなぜここまで「青森愛」を語るようになったのか?
逆説的ですが、RINGOMUSUMEの「本気」が生み出す、ものすごいエネルギーに影響されているのは、ほかならぬRINGOMUSUME自身なのです。
青森の魅力をみんなに伝えたいという想いを形にする方法は一つではありません。
これからどんな状況になろうとも、メンバーたちは、その想いをさまざまな形で実現していくことでしょう。
おわり
「4」については、以前「RINGOMUSUMEのこれから ~そしてアルプスおとめ~ 第3回 / 5」にも書いたので、そちらをご参照ください。