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2023.10.7 UP


俺田舎の線路の上に石つんであそんでて13人殺したことがあるんだ」
最初のデートでの男にきかされた言葉がこれだった、真夜中の別れ際自動販売機の光がやけにまぶしかった。
健治そうかれの名前は健治、朝昼晩とパソコンの前でくだらないことばかりしているロクデナシ、あたしのヒモだった。
申し送れましたわたしの名前はミドリ、ミドリ色のミドリ、中学を卒業してから家にはかえってない。
「健ちゃん、あたし仕事いってくるから」
「ああ、いってらっしゃい」健治の覇気のない
声が奥の部屋からかすかにきこえた。
電話でよびよせたタクシーが到着してまっていた「寿まで」タクシーの運転手にいきさきをつたえる。タクシーの運転手がニヤニヤしていた
寿町はあたしの暮らすところの一番の歓楽街だった。
タクシーの運転手がはなしかける。
「オネエチャンもお仕事大変だね~」相変わらず顔はニヤケタままだった
もう一度口を開いたら降りようと思った。
「どこのお店で働いてるの?」
「あっすいませんここでいいです、降ろしてもらえますか?」タクシーの運転手があわてて返答する「えっでもここまだ寿じゃないよ?いいの?」
「うん、ここでいいです降ろしてもらえますか」お金をさしだした、運転手はあわてて車を路肩によせ,おつりを、おつりを用意しはじめた。
「おつりもういいです」あたしはそうはきすてて車をあとにした。
あたしはそこから歩いて店までいくことにした
桜が沿道にさきみだれていて春という季節のにおいがした。
あたしは携帯を取り出し店への短縮でお店に電話をかける。
「もしもし?ミズキですけど」
電話口からはマネージャーの声がした
「すいませんあたし今日はすこしおくれるんで」
「そっそっそそうかわっわかったよ」
マネージャーのどもり声が気分をさかなでた。
「ピッ」電話をきるミズキはあたしのお店での名前。つまり源氏名
自転車に二人乗りするカップルがあたしの横を
はしりぬけた、この道はすこしなだらかな坂道
になっていて後部座席の女の子はすこし先で降りて後ろからおして坂道の向こう側へときえていった。
あたしは桜をみあげながらのんびりと嫌な店まで一歩一歩すすんでいった。
15分ぐらいすると寿のメイン通りがみえてきた。この辺りまでくるともうさっきの学生のような人種は1人もいなく酒屋やさんの車や着かざった女たち
、店の中から看板をおしだす風景
すこし暗くなり始めた空にハエルネオンなどがいりみだれて目のなかにとびこんできた。あたしの店はその通りからすこしはずれたところにあった。
店の名前はパラダイス、下卑たスケベオヤジには読んで字の如しだけどあたしにとっては地獄のような場所だった。裏口に回りさび付いたドアをあけてなかへと入る、
サラちゃんがペットボトルを口にあてながらこっちにきずいた。
「みずきちゃん、おはよう」満面の笑みではなしかけてきた。
「おはよう」あたしもすこしほほえんであいさつした
お店はもうはじまっているあたしは控え室にはいり店の制服に着替えた。制服といっても下着の上にシャツを一枚はおるだけだけどあたしは
カバンからお茶をとりだし部屋にある安物のイスにこしかけた。部屋はテナント内に壁をつくりしきられて部屋専用の照明器具はなくうす暗く
ちいさな小窓がヒトツありそこからは光がすこしだけさしこんでいた。店内の有線放送はかなしい音にしかきこえなかった。部屋のドアが開く
サラがトイレからもどってきた。
「ミズキちゃん、最近なんかおもしろいことあった?」
サラのおきまりの質問だった
「あんま、ないかな」
あたしはいつもどうりの返事をした
「あたしね妊娠しちゃったみたい」
サラは笑顔であたしにそう話しかけた。
「そか、どうするの?赤ちゃん」
「うん、サラねお店のお客さんともしてるから
だれの子供かわかんないし、おろすよ」
「そう・・・・・」
すこしの間部屋に沈黙がながれていた。
サラには旦那さんがいて覚せい剤に手をだしていて仕事はしていないという話を前にきいていた。
マネージャーが部屋にきた。
「ヒトりなんだけどどどうしよっか?」
あたしはサラと顔をみあわせてうなずいた
「あたしいきます」
「そそそかじゃじゃあおおおねがいね」
あたしは飲みかけのペットボトルを有線放送の
チューナーの上におき部屋をでたあたしは廊下をあるいて案内された男のいる小屋のような部屋の前で立ち止まり深呼吸をした
あたしはカーテンをひいて中へとはいった.部屋はうすぐらくて,男は部屋をながめている様子だった、
「こんにちは」あたしは軽く会釈をして道具のはいったカゴを奥のカラーボックスにおいた。
男がへんじをする「こんにちは」
あたしはまどろっこしい挨拶はなく仕事をはじめた。
「あのすいませんパンツ一枚になって全部ぬいでもらえますか?そして仰向きに横になってほしいんですけど」
男が返事する「はい」
男はズボンから脱ぎだし上着のシャツを一枚ぬいであたしにてわたした。
肌着一枚のおとこの全身は刺青で手首から足首までうめつくされていた。
あたしはすこしたじろいでシャツをうけとった。男はそれを察したかのようにあたしに声をかけた「ああ、きにしないでくれタダの落書きだから」男はそういってあたしに微笑みかけた。
「はい」
男はパンツ一枚になり小さいベッドに横になった。
あたしは行為をはじめようとして男のパンツ
に手をかけた、その瞬間男は声をだした
「今日はいいわ、時間まで、俺の話しをきいてくれるか?」あたしは店外での性関係への交渉
だと思い首を横にふり返答した。
「あたしお店以外ではこういうことしてないんで、すいませんけど」
男がすこし微笑んだ「いや、ちがうんだ」
「ここにきて、俺もこういう商売をしているんだが、間取りがきになってな、おしえてくれるか?」
あたしはすこしアヤシイと感じたが男の質問に答えた」
「社長室とかはあるのかい?」
「はい」
「どこだい?」
「このビルの三階です」
「そうか、店員は何人だい?」
「マネージャーとチーフのフタリです」
「そうか、女の子は何人いるんだい?」
男はやさしく微笑みながら、あたしに質問をなげかけた。
「お嬢ちゃん、最後にヒトツきくが、幸せかい?」
あたしは拍子抜けしたように答えた
「はい、」
男は立ち上がり身支度をはじめた。
男は無言のままシャツを受け取り最後にあたしにこういった。
「お嬢ちゃん、町で俺をみかけても知り合いぶった顔ですりよってくるんじゃねえぞ、ソレと俺は今日ここへこなかったと思えよ、質問のことは店にも内緒だ、わかったか?」
あたしはこきざみにふるえながら深くうなずいた。男はそういってニコッと微笑んであたしの頭を大きな手でなでてみせた。そのあと男はなにも言わず店をあとにした
あたしはその日何人かのお客さんをこなし一日
を終えた。あたしは刺青の男のことが頭から離れなかった。
あたしは店の車で駅まで送られて車をおりる
電車に向かいながら駅の構内を歩く。
駅の商店は閉まり、シャッターの下りた店の前
にはダンボールを着込むホームレスや酔っ払って寝込む会社員などが寝ころんでいた。
終電に今日はまにあった、切符を買っていつもの駅員に切符を手渡した、その駅員はなぜか頬を赤らめてあたしに会釈をするあたしもよくわからず会釈をして切符をうけとり電車に向かった。
ホームのベンチには酔っ払いが寝そべっていた
それを横目にあたしは電車に乗り込む、
車両にはあたしとヘッドホンをして週刊誌に読みふける青年が1人いた。
あたしは腰掛けて今日の男のことを考えた、わすれようとしたが、そう思うたび考えてしまう自分がいた.
一時期父親だった男の声が頭のなかにこだまする。
「子供のくせに売春なんかしやがって、母親と同じでお前ら親子には羞恥心てものがないのか

14歳のセミがたくさん鳴く季節にその男はあたしの体をもてあそびながらそういった。
電車の車内は静かで電車の走る音と揺れる音が
体に響く。
車窓にはクロくつづく背景に街のネオンやありとあらゆる光が線になってながれていた。
車内アナウンスが流れる「次は虹町次は虹町御
降りのさいはお忘れ物の無い様お確かめください」
電車はホームに到着しあたしはバックを肩にかけなおして電車を降りた、駅のホームには駅周辺に植えられた桜の花びらが所々落ちていた。
駅をでてあたりを見回すとひとかげすらない時間だった。
あたしは口笛を吹きながらサクラ並木を歩いた
「おねえちゃん」
急に背後から声が聞こえた
あたしは振り返った目線の先には人影はない
「おねえちゃん」
足元から声が聞こえるあたしは恐る恐る目線をしたにやると、赤いレインコートをきた子供が
あたしの足元にいる、あたしはおどろいて慌てて後ずさりした。
あたしは驚いた様子でレインコートの子供を見回した。
「おねえちゃん」
男の子はあたしに声をかける
身長は130センチぐらいで赤いレインコートに子供ににつかわしくない黒い大きな肩掛けカバンをさげていた。
声の様子では男の子のようでレインコートのフードで顔はあまりよくみえなかった。
子供はカバンに手をやりその中から黒くて光沢のある封筒をあたしに差し出した
子供が口をひらく
「おねえちゃんにある人からの手紙だよ。」
あたしはわけもわからず手紙をうけとった。
たくさんの疑問があたしの口を押し開いた。
「こんな時間になにしてるの?お母さんは?
何歳なの?これはだれからの手紙?名前は?」
子供はコクコクと二回うなずいてあたしに話し掛けた。
「いえない、僕の名前はないけど郵便屋さんになりたいの、明日またこの時間にここにくるから、じゃあね」子供はそういって闇の中えきえていった。
あたしは街灯に小走りでかけよって封筒を開いた。三つ折になった手紙をひろげる。
「君は明日から変わる、」とだけ書き記されていた。
あたしは背中に寒気が走り手紙を丸めて路上に投げ飛ばした。
あたしはなにかの悪戯だとおもい手紙をそのままにして駆け足で家に帰った。
家の玄関をカギであけドアをしめて内かぎをものすごい勢いでかける。
あたしは健治にたすけをもとめるように家の中へかけこんだ。
部屋のリビングには健治はいなくあたしは家中の部屋をさがしまわったが健治はいなかった。
あたしは呆然とし、部屋の中央にしゃがみこんだ
いろんな思考が頭の中をうごめいた。
健治はどこにいったんだろう、事故にでもあったのか、それともアタシが嫌になりにげだしたのか、たくさん考えた。涙がでてくる、とまらない泣きつかれたあたしはそのまま眠りについていた。
人の足音が聞こえる電車が走り出す、車のエンジン音が多くなる、あたしは目を覚まし洗面所
に向かって鏡の前で自分の顔を見つめた化粧を落とさず寝たあたしの顔はホッペはアイラインの流れ落ちたスジがついていて目のまわりは真っ黒く肌はガサガサになっている、
あたしはしばらくジット見つめてため息をヒトツついて化粧を洗い流した。
あたしはタオルをとりだし顔を拭きながら玄関に向かいポストを開いたその瞬間あたしは驚いて玄関に腰を落とした目の前には昨日の手紙と黒い光沢のある手紙が丸めたまま転げ落ちてきた。
手紙をてにとり、広げてシワをのばす、そこには昨日と同じ「君は明日から変わる」とだけ
書き記されていた。
あたしは立ち上がり、その手紙をもう一度丸めてごみ箱へ投げ捨てた。
リビングに寝転がり天井をみあげて涙を流す
天井はモザイクがかかったようにボヤケテ綺麗で悲しい「健治のバカ」とつぶやいた
服の袖で涙をぬぐいながら起き上がりキッチンへ向かった
ヤカンに水をはりコンロに乗せて点火スイッチをまわすコップにはインスタントのコーヒーを
スプーンで一さじいれてお湯がわきあがるのを
丸いマッキントッシュのリンゴマークが書かれたイスに座って待った、あたしは台所で本を読む
クセがあった本のタイトルは「マーメイドトリップ」内容はまだ読みはじめたばかりでわからない。ヤカンのお湯の湧き上がる音が激しさを増す、あたしは本を伏せてコンロのスイッチを切り
お湯をコップにそそいだコップは熱く両手でそっと持ちベランダまでゆっくりと歩いた。
引き戸を開けてベランダの外へ出ると曇り空が
辺りをうすいブルーのフィルターがかかったようにあたしの目に情景をうつしだしていた。
雨のふりそうな予感は昨日からの現状をよりいっそう不安なものへと誘う感じで、コーヒーの温かさは少しだけ心を和らげる感じがした。
部屋の置時計の目をやると時計は12:00を指していて、ベランダの外には前と後ろの自転車カゴにスーパーの袋をつめた主婦が自転車を走らせている、向かいの家のベランダでは洗濯物をとりいれてる、
「おねえちゃん」「おねえちゃん」あたしはハッとしてコップを地面に落っことしたコップは弾けとび、コーヒーの残りがあたしの足へとびちったあたしは辺りを見回す、ベランダを覗き込み道路を見下ろすと
兄弟らしき子供が走りながら叫んでいる声だった。あたしはホッとしてベランダのイスに座り込んだ
あたしは割れたコップをベランダに備え付けたホウキとチリトリでかたずけ、部屋へともどる
テレビをつけて昼の番組を数秒間ながめてまた消した、ソファーに腰掛けて健治のことや昨日の子供のことを考えた、あの手紙はいったいなんなのだろう、明日から変わるということは今日からなにかがかわるということ、
健治がいない、なんだろうどうなるんだろう不安が頭の中をかけめぐる、なぜあの子はあんな夜の遅くにあの場所にいてあんな手紙をわざわざあたしにわたさなければいけないのか、考えてもまったくわからなかった。
時計を見ると一時半をまわりそろそろ仕事に行く用意をはじめなければと思い、あたしは立ち上がって仕事を休もうか行こうか考えた末、行くことにしてお風呂場にむかった、昨日から身の回りで起こる不思議なことに
、ついていけない自分があってシャワーを浴びながら頭がズキズキと傷むのを感じた。
あたしは裸のママ脱衣所で脱ぎ捨てた衣服の上に立ち置いてあったタバコに火をつけて深く吸い込む吐き出した煙は脱衣所の換気扇にむかって勢いよくのびて暗がりとすこしの光と混ざり合って
紫色の植物のように上にむかって伸び上がる。偏頭痛があたしの思考を止めて少し楽な自分がいた、あたしは口にタバコをくわえそのまま脱衣所をとびだしてベッドの隣にたくさんかけた洋服の中から
カシミアの黒いガウンをソファーに放り投げて
ブラジャーも付けずに黒いニットスリップを着込み黒いニットスパッツをもってソファーに座り込んですばやく足を通した。
そこでタバコをくわえたまま吸い込み吐き出す
それをつまんでテーブルに備えつけたイチゴ柄のスチールの灰皿に押し付けた。
ドレッサーに腰を落としてブラシを取り出しヘアワックスの缶にブラシを押し付けてそれですばやく髪をヒトツに纏め上げた、
目の前のたくさん置かれた化粧品の中から道具をとりだして顔を作る、出来上がった顔を健治にみせようと振り返って「どおっ?」と尋ねたこれはいつものあたしのクセになっていたことをあたしはあらためて知った。、
あたしはドレッサーから立ち上がりガウンとつかんでバッグにタバコと携帯をつめて部屋をあとにした、早い時間なので歩いて店までいくことにした.マンションを降りながらガウンを着こむ降りていくとマンションの住人
らしき人二人があたしがきたことに気ずき一回目を合わせたがすぐに視線をそらして小声で話ししていた、あたしはその横を軽くお辞儀をして通り過ぎマンションの外に出た。空は曇っている、カサを忘れた、でも店に着くまで
に雨が降らないことを祈って、すこしはや歩きで道を歩く、車道を走る高級車から火の付いたタバコがとんできてあたしの目の前で何回かはずんでポトリと落ちた、あたしはそれを足で踏みつけて火をけして自販機傍のごみ箱に捨てた、
目の前には自販機のある花屋がシットリとたたずんでいた。
あたしは店に花を飾ろうと思って花やに入り、鉢植えの花を物色した,
「いらっしゃい」奥から1人のおばあさんが引き戸をあけてゆっくりとたちあがって出てきた、
あたしは軽く会釈をして花をさがした。
「どんな花をおさがし?」
おばあさんは笑顔であたしに話し掛けた
「あの、鉢植えのカワイイ花がほしいんですけど」
「うんうん」おばあさんはうなずきながら折れ曲がった腰をもっと落としてヒトツの鉢をつかんでもちあげた。
「サクラソウなんだけどあんたにぴったりだよ」
すごくキレイな鉢植えはあたしを一目でとりこにした
「それもらいます」
あたしはサイフをとりだしながら値段をたずね
支払いを終えて茶色い紙袋に入れた鉢植えを受け取った。
「キレイなお嬢さんだこと、またきてくださいね」おばあさんはシワシワの顔をもっとしわくちゃにさせて合掌して話す
「はいまたきます」あたしは軽く会釈をして店をあとにした道を歩いていつもの坂に差し掛かる道路わきに立つ石像には風望坂とかかれていてあたしはその日はじめてその坂の名前を知った、
坂の両脇には石段がならんでいてその上に住宅がならんでいる、坂の上の交差点で幼稚園のバスらしきものが止まり、中から飛び出す子供が次々と母親にだきついていた、でもその中に顔をうつむかせて人形を脇にかかえて1人で坂をくだる子供がいた。
あたしは首を左右に振ってもう一度その子に目を向けたそこにはそんな子供はいなかった。
その子はあたしで、幼稚園のころのあたしの記憶でただフラッシュバックしたようなものだった
あたしはたちどまって楽しそうに手をつないで帰る子供を見ながら遠い記憶を無意識に探っていた、
首にいえのカギをヒモでぶらさげたあたしは幼稚園にいくときも人形を離さなかった、人形の手をもって半ばぶら下がり状態の人形と幼稚園の帰り道を歩く、いえについたあたしは背伸びしてやっと届く鍵穴にカギを差込み必死の思いで
ドアを開けていえに入る、キッチンにはかわいいお子様ランチみたいなゴハンといつも「ごめんね」で終わる母のひらがなだけの書きおきがあった、いつも寂しさが傍にあって今日までそれは消えることなくあたしは呆然と坂の上でたちどまっていた。

頬に一粒の雨がおちてきた。空を見上げると、雲ばかりの空が続いている。
あたしは少し駆け足で走り出した。雨が顔にかかる。走っていると、遠くから、ドーン、という地響きのような音が聞こえて、あたしはビクッとして立ち止まった。でも雨が激しくなりそうなので、物音のことも構わず店に向かう。
疲れてあるきだしていると、消防車や救急車、パトカーなどがものすごい勢いで、あたしを追い越していく。寿町の大通りは人でいつもより騒々しく、あたしの店に曲がる道は、消防車やパトカー、人で埋め尽くされていた。
曲がり角を見つめながら歩いて、視界にお店の建物が姿をあらわす。ものすごい勢いで炎が建物を覆い尽くしている、辺りは煙が立ちこめて
周辺は頭を怪我したようでガーゼで抑える人や
タンカが縦横無尽に走り、泣き喚く人たちや野次馬などでいっぱいだった。雨が勢いをまして
降り注ぐ、火の手は一向におさまらない様子で
呆然と見つめるしかなかった。
 雨にぬれた紙袋の持ちてが破れて鉢植えが音をたてて地面に叩きつけらる。割れた鉢植えを気にすることも無く呆然と立ち尽くした。
降り注ぐ雨が何かに遮断される。しばらくして振り返るとそこにはいつかの刺青の男が赤い傘をあたしに差し出して笑顔で立っていた。
あたしは口を開く「あの・・」
「消去完了、ハッハハハ」男は笑いながらそう言った。
視線を下にそらすと男のジャケットのスソをつかみながらミズタマリに必要以上に足踏みする、赤いレインコートの男の子がいた。
男が口を開く「じゃあ、行こうか」
「あの、何処へいくんですか?」
「いいとこ」男はそういいながら傘を自分で持つようあたしに強く差し出した。
男は子供と手をつなぎ歩きだしあたしに手招きする仕草をみせる。あたしは意味もわからず男についていった。
しばらく歩いて男は立ち止まる。すると歩道脇に黒塗りの車がよせて止まった。その車から運転手が降りてきてドアを開く、そこを指差して男は乗るように合図をする、赤いレインコートの男の子は駆け足でくるまに飛び乗った。
続いてあたしがカサをたたんで後部座席の中央に乗り込む、そのあと男が乗り込んだ。運転手はドアを閉めて運転席に乗り込み無言で運転しだした。後部座席は皮張りでぬれた各自の衣服とすりあわされて「クチュクチュ」変な音たてる、
ゆったりとした広い車で子供は足をバタバタさせながら時々あたしの顔みては微笑んだ。
男は頬ズエをついて窓の外をずっと眺めたまま
話さずにいた。
車は1時間ほど走って竹林の中に入っていく白い、瓦造りの壁が延々と続く
5分ほど同じ景色が続き大きな門が姿を現す。男が携帯を取り出し、何かを伝えている、門がひらく木造の門を男手二人で両サイドから開くのが見えた、車はゆっくりとまた走り出したレインコートの男の子はカバンからキャンディーをとりだし何か思い出し笑い
をしたように口に含んではしゃいでいる、男はまた頬づえをついて外を眺めている、15分ほど敷地の中を走っていたら建物がみえてきた、男は「降りろ」と一言言ってレインコートの男の子と一緒に車からおりた。
「あの」あたしは男に質問をなげかけようとしたら、男が「質問はあとだ降りろ」低音のハスギーボイスであたしの手をひっぱって車からおろした、20畳ぐらいありそうな玄関、屋敷に入ると一人の老婆が出迎えてくれた
「こいつだ」と老婆に男がはなしかけた、「そうじゃね鶴乃間へおつれして」「わかった」と老婆に告げ、おとこはあごであたしを誘導して玄関をあとにして廊下をあるきだした、
あたしは男の後ろをついて歩くあたしはいったいどうなるのかと不安という暗雲であたまがしめつけられるようだった男の子は水浸しの赤いレインコートを着たまま男の前を走っている男が口をひらいた「ここだ」
障子戸を開いて中に入る部屋は光行と照明が付けられ金色の壁や龍や虎があしらわれたふすまやよくわからない欄間などで胸のあたりがしめつけられた、男が真ん中に座るようにアゴと手ぶり付きで「座れ」と言い放つ
そうこうしてるうちにちょっと段差がある上座の左手から初老の着物をまとった人がはいってきた老人は上座の中央に腰掛け脇息にひじをついて口火をきった「竹宝輪鶴影だお前の父親だ」
あたしはキョトンとししばらく茫然とした「あなたがあたしのお父さん?」「そうだ」「お前の過去については全部消した明日から祇園について娘修行にはげめ嫁にいくまではわしが面倒をみる」目線があたしをつれてきた
男に向いた、「こいつは吉田博だなにか不都合があればこいつに頼めばいい」吉田はニヤニヤした面持ちで「よろしくな」とつぶやくように言った、
鶴景がくちをひらく「祇園を呼べ」吉田が部屋からでていったしばらくして玄関であった老婆ともう一人の老婆と吉田がはいってきた「祇園きぬと申します、お嬢様の明日からのお世話をさせていたきます。」
もう一人の老婆も口をひらいた「祇園ためと申します。同じく教育係をおおせつかっております、きぬとは双子の姉妹です。」男が口をひらく「じゃあそういうことでじょう・ち・ゃ・ん・がんばってね」そういって男は部屋をあとにした
それについていきそうな赤いレインコートの男の子を老婆が服をひっぱって止める、それをみていたあたしに鶴景がはなしかけた「じゃあわしは寝る時間なので失礼する、あとのことは祇園たちにきいてくれ」そういって部屋をあとにした
あたしは祇園さんに質問をなげかける「あたしはいったいどうなるんですか?」祇園が答える「まあまあ今日はもう遅いので部屋に案内するのでおやすみなさい、こちらへ」「この男の子は?」「鶴之丸様と申します。鶴景様のおぼっちゃまです、あなた様の弟です。」


《END》





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