2023.10.7 2部UP
「おねえちゃん?明日またあそんでね?」
「うん、いいよ、おやすみね?」
「おやすみ。」
祇園さんが蝋燭台を肩手にアタシの前を歩く、それで祇園さんの頭だけ暗闇の中にふんわり浮いてオレンジの輪っかがかかってた。
「こちらでございます。少しお待ちください。」
部屋は蛍光灯が設置されていて、30畳ぐらいある左の奥へ消えた祇園さんがスイッチを押して灯りを燈してくれた。
「それじゃあ私はこれにて失礼しますので何かありましたら、そちらの枕元のブザーをおしてください。」
「はあ・・・」
アタシはファミレスにある店員呼び出しボタンが家にあるのかと、持ち上げて頭の上で裏を覗き込んだ。
アタシの指が触れて何か遠くで「ブーーーー!!!」という音が鳴り響いた。
しばらくして・・・・
「なんだ!!うるせえな!!なんの用だ?!」
吉田があらわれた・・・
「すいません・・・指があたっちゃって。」
「てめえ!!祇園!ちゃんと言っとけ!!それは俺につながって、使用人を呼び出すボタンだから!!夜はきをつけろ!!」
・・・・
「すいません・・・」
吉田さんは睨みつけて舌打ちした。
「ぶっ殺すとこだったぜ!!」
しゃがれ声の掠れた小声でそうつぶやいた。
部屋にかえっていった。
アタシはしぶしぶここで居るしかないかと被った感じがしない布団にもぐりこんだ、鼻を隠すように掛け布団をもちあげた。
部屋はもう薄暗い、手元のフェードで明るさを調節できる。
遠くで電車の走る音が床のほうから聞こえてくる。
・・・。
明朝、目覚ましも掛けず眠りについたアタシは目がシバシバするのを擦りながらスクっと上半身を起こして、枕元のポータブル時計をみた。
9時12分を回っていた。アタシは立ち上がって襖を両手でバンッと押し広げた。
「おお、ミドリ様?」
祇園さんが振り向いて何か器を持ちながらこちらに振り返った。鶴千代くんがいる。お父さんが一緒にいる。
おとうさんが振り返る
「起きたか。」
「おねえちゃん??!!」
昨日の夜は暗闇でみえなかったけど向こう側が見えない庭の手前に岩で囲われた池があってそこには赤、白、黒の三色とか深いグレーとか赤と白とか金色とかの
鯉が鶴千代君の投げるエサに群がっていた。たぶん鞠麩の無地みたいだった。
「どうだ?気分は?」
「はい。別にいつもとかわりません。」
「そうか、私たちはもう朝食を済ませたから、祇園に用意してもらいなさい。洗面用具は用意してあるようだ、案内してもらいなさい。」
「はい、わかりました」
アタシは祇園さんの後ろからついていってたけど、歩くの遅くて隣から前へ先に進んでどっちか尋ね出した。
「祇園さん?どっち?」
「突き当りを左です、その先の右に一つ洗面所がございます。供え付けのテーブルにいろいろ用意してありますので、安生よろしいように。」
一つとおっしゃったので、まだ他にも洗面所があるようだ。
「はーーーい」
「その奥が土間で、降りて向かいが食事の間です。」
「わかりましたーー。」
アタシは洗面所でなにやら封に包まれた洗面用具の数々で事を成した。
洗面所を出て、右に曲がって、まっすぐいくと中段の上がり段があってゴムの草履が汚いけど整列してならんでいて、足を通して
向かいのガラス障子を右にずらして覗き込んだ。
祇園さんが笑顔を浮かべている。
「さあ、いらっしゃい。出来てますよ。」
黒いニスか漆のような艶黒い奧まで伸びる机の上には焼き魚とか卵焼きと焼きのりとかお味噌汁とか湯気のたったご飯が御茶碗に盛られていた、魚は何かわからない。そもそもアタシは魚の名前をしらない。
テレビが付いているブラウン管の中では、なにやらヘリコプターから消防車や救急車、パトカーやらものものしい人が縦横無尽に
ヒシメキあっている地下鉄から担架で人がはこばれてくる。キャメル色の毛布やオレンジ色の毛布に包まれた担架がそこら中に散開している。
テロップやワイプみたいなスタジオカメラもなくただアナウンサーのたぶん。こうであろうという説明がつづいていた。
「なんでっしゃろ?これは?」
ミドリ「わからない・・・」
《END》